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【感想】「歴史に学ぶ プロ野球 16球団拡大構想」

タイトルと内容がミスマッチ!だが圧倒的に面白い!

これからのプロ野球、16球団になったらどんな風に変わるんだろう?
どこに新しい球団ができるかな? 新潟? 静岡? 沖縄? 四国?
新球団できたらCSが面白くなるよね!
拡張ドラフトやったらどんな選手が指名されるかな?

そんな期待をいだいてこの本を開くと、おそらくAmazonレビューで低評価をセコセコ書き込むことになってしまうと思います。
なぜなら、この本「プロ野球16球団構想」と掲げてありますが成分の95%はプロ野球の「歴史を学ぶ」内容になっているからです。よく見るとサブタイトル的に「歴史を学ぶ」って書いてありますが。

この本のタイトルと内容のミスマッチを見極めるのは、(調子がいいときの)ベイスターズの濵口遥大のストレートとチェンジアップの腕の振りを見抜くくらい難しいことだと思います。仕方ありません。

しかし、ミスマッチがあるにせよ、書かれているプロ野球の歴史の話は新しい発見に満ちたとても面白いものでした。

・なぜプロ野球は3連戦方式になったのか?
・クラウンライターの親会社は野球書籍を多数出版する廣済堂
・東京新聞はなんで中日新聞系列なのか?
・有馬記念の「有馬」とは某球団のオーナーの名前
・ニグロリーグからやってきた超高額助っ人がいた
・プロ野球は当初二つあった?
・西鉄は当初セ・リーグのはずだった

これを見ただけでも興味を惹かれる野球ファンは多いのではないでしょうか。

しかし、こんなに面白そうな話が満載された本であることがタイトルと表紙から連想できるでしょうか? 本来この本を面白く読んでくれる読者層を取り逃している気がしてなりません。狗肉を掲げて羊頭を売っているような、そんなもったいなさを感じてしまいます。
今すぐ本屋に行って『球団数増減の歴史–プロ野球はなぜ12球団、2リーグ制になったのか–』というタイトルに書き直してあげたいくらいです。

偉そうなことを長々とすみません。

さて、店主がこのもったいないタイトルの本の中で、1番面白く読ませていただいたのは第9章「史上最大の球団拡張」でした。

戦後A級戦犯として巣鴨プリズンに収監されていた読売新聞のドン正力松太郎(実はCIAの協力者だったことが死後に判明/wikipediaより)。釈放後も公職追放により読売新聞社へ復帰できずにいると、社内を反正力派に乗っ取られてしまいます。そんな中で日本野球連盟はプロ野球創設に尽力した正力に初代コミッショナーのポストを用意します(そのポストもすぐに奪われるのですが)。

正力はプロ野球発展のために球団拡張を構想し、当時読売新聞よりも発行部数も多く影響力も大きかった朝日新聞、毎日新聞にプロ野球への加盟を打診します。
同業他社を引き込むのは読売新聞にとってはナンセンスのような気がしますが、プロ野球の発展を考えればより影響力のあるメディアを引き込むことは利益に繋がると考えたようです。正力の柔軟な発想に驚かされます。

朝日新聞は「アマチュア野球優先の姿勢を貫く」として、いかにも朝日新聞らしい理由で拒否しますが、毎日新聞は加盟の意思を示します。しかし、この加盟に巨人、中日、大陽ロビンスが反対します。正力は自分を追い出した古巣の読売に反対されたんですね。
排他的な発想で同業他社の参入に反対した中日。球団の体質が今と全然変わってない気がして泣けてきます。

その後、毎日新聞の加盟に賛成する陣営、反対する陣営が激しく対立します。
毎日新聞の加盟を巡っては裏工作、秘密工作が横行し、調略したと思った相手が逆に敵陣に調略されていたなど対立は激化していきます。まるで戦国時代の様相です。

結局、事態は膠着状態が続き、正力はある提案を行います。それは加盟に反対する球団、賛成する球団でリーグを二つに分けるというものでした。

テッテレー!
そうです。これが今日まで続くセントラルリーグ、パシフィックリーグの二リーグ制の始まりなのでした。

ちなみに当時の二リーグはこんな顔ぶれだったそうです。

▼セ・リーグ(毎日新聞の加盟に反対する陣営)
松竹ロビンス(京都)
中日ドラゴンズ(愛知)
読売ジャイアンツ(東京)
大阪タイガース(兵庫)
大洋ホエールズ(山口)
西日本パイレーツ(福岡)
国鉄スワローズ(東京)
広島カープ(広島)

▼パ・リーグ(毎日新聞の加盟に賛成する陣営)
毎日オリオンズ(東京)
南海ホークス(大阪)
大映スターズ(東京)
阪急ブレーブス(兵庫)
西鉄クリッパーズ(福岡)
東急フライヤーズ(東京)
近鉄パールス(大阪)

あれ? セ・パ両リーグに福岡の球団がありますね。1シーズンだけでしたが、福岡にはかつてプロ野球球団が2つあったそうです。

なぜ福岡に2つ球団があったのか?
西鉄は球団運営以外の広報業務などの運営を西日本新聞社が行うという構想で球団創設の準備をしていました。そこに上述の2リーグ分裂騒動が起こります。西鉄は当初、毎日新聞の加盟に反対する巨人陣営にいてセ・リーグに所属する予定でした。しかし、加盟に賛成する阪急がいち早く毎日新聞、近鉄、西鉄という新規参入球団を囲い込んだため、後のパ・リーグを形成する加盟賛成陣営に寝返ったのでした。

西鉄の離反を知り激怒した読売は西鉄の広報、運営を担う予定だった西日本新聞社に独自に球団を持つように働きかけ「西日本パイレーツ」としてセ・リーグに参加させたのです。こうしたことから福岡に2つの球団が誕生したのでした。はい、勉強になりました。

しかし、急ごしらえで球団を作ったパイレーツは興業に不慣れで赤字経営に陥ります。ウシジマ君のように冷徹なセ・リーグ(中心はもちろん読売)は慢性的に弱かった大洋(当時の本拠地は山口県)と広島を「弱いし、近いから」という単純明快な理由で合併させようと試み、パイレーツにはなんと解散を勧告するのでした。球団を持てと誘っておきながらわずか1年で、読売はパイレーツと福岡の野球ファンを裏切ったのです。

そんなパイレーツは「読売の横暴には耐え難い!」との声明と共にセ・リーグを脱退。パ・リーグの西鉄と合併し、本来の形に戻ったのでした。
傲慢なセ・リーグと読売の横暴。なんだか2004年の球団削減騒動を想起させますね。

ちなみに西鉄はその後、巨人の総監督に祭り上げられていた三原脩前監督を招聘。三原新監督を迎えた西鉄は1956〜58年に巨人を相手に日本シリーズ3連覇を達成します。西鉄の打倒巨人の執念はパイレーツを裏切った巨人への憎しみが原動力になっていたんですね。
王貞治が福岡に招かれたのもその延長線上の話なのかもしれないですね。

うっかり見落とすところでしたが、大洋と広島がこのとき合併していれば今日のベイスターズもカープもなかったかもしれません。
闇金セ・リーグくんは「金がないなら解散するか大洋と合併しろ」と迫り、カープの社長はビビったのか早々に身売りを決意してしまいます。
この危機を救ったのは初代監督の石本秀一でした(ハードカバーで586ページもある恐ろしく重たい「日本野球をつくった男――石本秀一伝」という本もありますのでご興味ある方はぜひ)。

石本は一人で球団存続のために奔走するのですが、それでも万策尽きて球団消滅を覚悟します。それでもファンの怒声とも悲鳴ともとれる叫び声を聞いた石本は「今ここであきらめれば広島には二度とプロ球団はできない」と広島の役員陣に迫り、解散の決定を撤回させたのでした。
そして後援会を作り、皆さんご存じの樽募金に繋がるんですね。歴史と歴史がつながりましたね。

ちなみに合併を迫られたもう一つの球団、大洋ホエールズは松竹ロビンスと合併します。当初は「大洋松竹ロビンス」という名でしたが、松竹にネーミングライツしていた田村駒(繊維メーカー)が球団経営から撤退すると「洋松ロビンス」となり、その翌年1955年からは以後長く親しまれた「大洋ホエールズ」という名称になります(松竹が球界に参入するいきさつもなかなか面白いです。詳しくは買って読んでください)。

あれれ? パリーグは球団数が7ですね?
球団数が奇数だと1球団試合ができないため試合日程を組むのが大変です。セ・リーグは上述の球団合併で球団数を今と同じ6に減らして調整しましたが、パ・リーグは逆の発想で1球団増やして8球団にしようということになりました。ここで新たに加盟するのが「高橋ユニオンズ」なんですね。経営が火の車で3年で大映スターズに吸収されるという幻の球団です。ちなみに往年のプロ野球ニュースの人気キャスター佐々木信也が所属していたことは有名ですが、黒田博樹(元広島)のお父さんもプレーしていたそうです。

プロ野球の歴史と歴史が交差し、点と点が繋がっていく。
この面白さにエクスタシーを感じる人にはこの本を激しくおすすします。
しかし、今後の16球団構想についてはあんまり期待しないでください。

「歴史に学ぶ プロ野球 16球団拡大構想」
(安西巧/日本経済新聞出版/1067円)



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