中国の不思議な軍隊まめちしき

#COMEMO #NIKKEI

2019年6月17日現在、香港では逃亡犯条例をめぐって100万人(主催者発表)を動員するという規模のデモが発生しているという話題をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
本題である逃亡犯条例についての政治的な判断は控えますが、デモを鎮圧する警察官について興味深い情報がありました。

まず一つは人民解放軍が警察官の制服を着て取り調べを行っているというもの。
https://www.youtube.com/watch?v=CiTLzd_gvXk

そして香港警察の女性警官の服を着た男性がいたというもの。
https://twitter.com/kawasoe0916/status/1138712127122751488

日本の組織であれば、自衛隊と警察は一般人に対する捜査権(※1)の有無という点ではっきりと分かれているので、自衛官が警察の制服を着て捜査をすることは考えられませんね。
※1.一般人に対する逮捕権と表現したのは、自衛隊内部に対して捜査権を有する警務官が存在するためです。
しかし世界的に見ると軍と警察の職掌は非常にあいまいで、軍警察や国家憲兵という行政警察機能を重視した組織や、逆に警察が正規軍並みの武力を持つコスタリカのような国もあります。日本でも戦後に警察予備隊があったのは有名な話です。今回は紹介だけですが、いずれ機会があれば解説したいですね。

中国の場合はさらに特殊で、実は憲法の中で国家の常備軍を中国人民解放軍現役部隊と規定しながら、国家中央軍事委員会が「全国の武装力を領導する」と規定され、国防法によって「中華人民共和国の武装力量は中国共産党の指導を受ける」とも規定されています。
ただし憲法の前文において、「中国共産党が国家を領導する」とあるため、国家中央軍事委員会も中国共産党の意向に従います。
これが題名にもある、中国軍の不思議なところです。

中国の憲法には『中華人民共和国武装力量』と呼ばれる軍事的概念が存在します。これは「中国人民解放軍」「中国人民武装警察部隊」「中国民兵」の三つの組織を指すもので、これを指導する権限は先ほどの通り国家中央軍事委員会と中国共産党が保持することになっています。

つまり中国共産党が指導の権限を持つ三つの武装組織の内の一つが国家の常備軍として規定されているわけです。

以上の説明で、一体何が不思議なのかと思われる方がいるかもしれません。
そこで最初の話に戻ります。
自衛隊であれば、国民の代表である首相が最高指揮官として、主権者である国民の意思を代行する形で指揮を執ります。またほとんどの民主主義国家は概ね同じような判断基準を持ちます。
しかし共産党が実質上の主権者である中国軍の場合は、共産党の意思を実行します。それによって、良く言えば縦割り行政の枠を超えた柔軟な運用が可能になるというわけです。

どのような体制が優れているかという点についての判断は控えますが、視点や理論を変えると多くのことに気付くことができるのではないでしょうか。
そこが軍事研究の魅力の一つであると私は思います。

※この文章は筆者の個人的な見解であり、正確性は一切保証いたしません。各々が情報ソースを確認のうえ、TPOに注意して発言しましょう。

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