追加投資|トレンドExpress:越境ソーシャルECプラットフォーム
DNX Venturesは、株式会社トレンドExpress(以下、トレンドExpress)のシリーズCラウンドに、フォロー投資をさせて頂きました。トレンドExpressは2015年に創業したスタートアップで、主に中国市場向けにソーシャルセラーを活用した越境EC(電子商取引)プラットフォームを提供しています。DNX Venturesは、2017年のシリーズAラウンドでリードで出資をさせて頂いて以降、シリーズB、そして今回のシリーズCで3回目の出資となりました。本稿では、我々DNX Venturesが今回の追加出資をするに至った背景について、触れてみたいと思います。
トレンドExpressが訴求する課題
トレンドExpressの越境ソーシャルECプラットフォームを主にご利用頂いている顧客は、日本の化粧品やヘルスケア関連等のナショナルブランドです。日本のナショナルブランドは、以前は百貨店やドラッグストア等でのインバウンド需要で事業が拡大しておりましたが、コロナ禍によって海外からのインバウンド需要が大きく減少する中、特にインバウンド顧客の多かった中国への越境EC市場開拓の必要性が出てきました。対面での接客やテスターの場面が少なくなることで、ECチャネルへのシフトが必然的に必要となり、市場の成長性から中国でのEC販売が不可欠になっています。このような高いニーズがある、一方で、日本企業にとってECチャンネルの活用には大きな課題もありました。
ブランド側の課題
日本のブランドにとっては、インバウンドを始めとする爆買いが突発的、かつ偶発的な事象であり、その要因がわからず、再現性を持った安定成長の実現ができていませんでした。その結果、コロナ後にはインバウンド需要が消滅してしまい、再現性を持ったブランド需要の継続的な獲得が求められていました。さらには、爆買いの原動力と言われているソーシャルセラーの実態やその活用方法がわからず、不透明な購入や越境転売に苛まれていました。
ソーシャルセラー側の課題
ソーシャルセラーは、圧倒的な購買・販売力を有する爆買いの原動力と言われていましたが、決して資本規模が大きいわけではないので、日本のナショナルブランドと直接取引することは、審査基準の観点から難しい現状がありました。
トレンドExpressが提供する価値
トレンドExpressは、創業以来、中国のソーシャルメディアにおけるビッグデータを分析するマーケティングビジネスで積み上げてきた多数の取引実績を背景として、上記の課題を解決する越境型ソーシャルコマースプラットフォームを創り上げました。
プラットフォームの特徴は、ソーシャルセラーとブランドの持続的な成長を実現するためのデータモニタリングや販促活動の自動化を実現し、爆買いをデジタルに再現する仕組みです。
さらには、セラーとブランドの直接的なマッチングを実現し、ブランド企業のサプライチェーンを支えるべく、そのデータプラットフォームから商品企画や生産計画、広告/宣伝、販売/納品、CRMなどにワンストップで価値提供を行っています。
ブランド企業にとっては、これまでの予測・コントロール不能な爆買いを再現・管理できる点、セラーにとっては自身の購入・販売活動の安定的な成長を実現できる点が評価されて、双方から重宝されています。
次に、トレンドExpressへの追加投資に至った背景について、お話したいと思います。
DNXが追加投資を決めた理由
1) 巨大な市場と顧客基盤に基づく成長
2021年、中国は米国を抜いて最大のEC市場となりました。コロナ禍によりオンラインショッピングのニーズが急拡大し、スマートフォンや決済ソリューションの浸透によって市場は今も大きく成長しています。この巨大な市場に、トレンドExpressはマーケティングビジネスで培った強みを活かして参入し、越境ソーシャルECプラットフォーム事業は驚異的な売上高を達成しています。2022年度も、中国のロックダウンの影響を受けながらも、前年度より大幅な増収となる成長を続けています。その原動力は、需要の動きを機敏に察知した側面もありますが、それ以上に、トレンドExpressが今まで積み上げてきた顧客基盤と信頼力が大きいと考えます。トレンドExpressは、中国のソーシャルメディアなどのビッグデータから得られる消費者インサイトの分析を通じて、ナショナルブランドを中心とした300社以上の日本企業の中国進出やマーケティング活動を支援してきました。このマーケティングビジネスでの実績があってこそ、強固なプラットフォームを立ち上げることできました。一過性でない顧客基盤に基づく成長を、長くフォローを続けてきたDNXは高く評価しています。
2) ユニークな競争優位
中国の化粧品のEC市場だけで約4.8兆円もあり、そのうちソーシャルセラーが販売するC2C市場は約3分の1に達する規模が見込まれています(日本経済新聞 2021年5月21日)。市場では、多くのフォロワーを持つ「インフルエンサー」が大きな役割を担っています。トレンドExpressは、影響力のあるソーシャルセラーと提携することで扱う商品の販売促進を行います。このソーシャルセラーとの関係性の構築が競争優位の大きなの源泉になっています。また、中国のソーシャルメディア等とパートナー提携も実施し、例えば、Douyin(Bytedance社のTikTokアプリ)のパートナー制度において、日本企業で唯一、最高ランクのダイヤモンドパートナーに認定されています。トレンドExpressの独自プラットフォームは、こうしたソーシャルメディアとの連携を通じて、コメントやデータを評価できるシステムを創り上げた強みがあります。
3) 結束力が高く専門性に優れた経営チーム
トレンドExpressの経営陣で特徴的なことは、高校の同級生3人(CEO / COO / CFO)で構成されている点です。長い信頼関係を土台にしながら、お互いを高め合い、助け合うことのできる素晴らしい経営チームです。CEOの濱野さんの力強いリーダーシップのもとに、中国市場を熟知し、事業づくりに長けたCOOの中澤さんが事業を担い、事業成長とガバナンスの両軸を実現するCFOの倉澤さんが管理部門を統括しています。各自の専門性を活かして、バランスの取れた安定感のある経営チームをDNXは高く評価しています。
CEOからのコメント
最後に
トレンドExpressは、創業から磨いてきた中国のソーシャルデータ解析をコア技術にして、コロナ禍以降のEC需要の高まりにいち早く応え、ソーシャルセラーを活用した中国越境ソーシャルコマースの企業へと進化を遂げました。濱野CEOを中心とする中国のエキスパート集団のもと、今回のラウンドで調達した資金を活用し、日本ブランドを「国境の先」に導くプラットフォームとして更なる飛躍をされることを期待しております。
(文:白石 由己)