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当社のタレントマトリクスを読み解く

当社の人事部が新しいタレントマネジメントを策定しました。
人材の色分け、能力の定義、あるべき人材分布などを提示するものです。
これを読み解きながら、グローバル企業の考えと、個人のキャリアの選択肢について考えてみます。

成果と能力の 2軸で社員を 9つに分類

最初に、今回提示されたタレントマトリクスを見てみましょう。
これは社外秘ですが、人材ポリシーの策定を社外の人事系コンサルタントにほぼ丸投げしていることから、どこの企業も似たようなモデルを使っていると思われるので、問題なしと判断しました。

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横軸の Performance は、現行業務での成果(目標達成度)。
縦軸の Potential は、その人の能力(潜在的な能力を含む)。

例えば、成果がズバ抜けて高く (exceptional)、能力も高い (broad) 社員は、スーパースターというカテゴリーに分類されます。
成果が良~良+ (good to great) で、能力が拡張可能 (expandable) な社員はキープレイヤーという分類です。

成果主義・能力主義と言われますが、成果と能力は混同されやすい言葉です。この 2つは別物であると明言しているところに、このモデルのひとつの特徴があります。
能力が高くても成果を出せないときもある。あるいは、能力が低くても高い成果を出す社員もいる、と考えているわけです。

新入社員は全員エマージングスターに分類されます。
能力は高いはず+まだ成果を出していないからです。
入社 1年後、高い能力を維持しながら良い成果を出せばライジングスターに変わり、そこそこの能力で良い成果を出せばキープレイヤーになります。
成果を出せなければインコンシステントプレイヤーに落とされます。

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このようなカテゴリー間の移動が年1回、上司との間で検討されるのです。

能力を 3つの要素で測る

成果は比較的容易に測ることができそうです。
一方、能力 (Potential) は何をもって測定するのか。
当社は、次の 3つの要素にフォーカスすると言っています。

① もっと成長したいと思う意欲
② より複雑性の高い責任を負う能力
③ リーダーシップ能力の発揮

それぞれについての解説を抄訳します。

① 成長意欲の高い人材
✅ 様々な分野にすすんで飛び込み、そこから学びたいと思う。
✅ 新しいことや前例のない状況で、自分の力を試してみたい。
✅ 複雑さと曖昧さを受け入れて、自ら変化を起こそうとする。

② 責任能力の高い人材
✅ より多くの挑戦と責任を引き受けられる自信がある。
✅ より複雑で広範囲の責任を全うするビジネススキルがある。
✅ 1年以内にロールまたは職場を異動する準備ができている。

③ リーダーシップのある人材
✅ うまくいかないときに素早く立ち直り、逆境を跳ね返す力がある。
✅ 変化をリードし、マネッジすることに心地良さを感じる。
✅ 既存の枠にとらわれず、多角的な視点で複雑な問題を解決する。
✅ 場の空気を読んで、様々な人々に合わせたアプローチをとれる。


どれも No だよ!!


落ち着け俺。

さて、と。どこからツッコもうか。

自ら変化を起こす前に、曖昧さをなんとかせーよ。

1年以内に異動する準備してるのって、無責任な奴とちゃうんかい。

複雑な問題に、多角的な視点を持ち込んだら、もっと複雑になるやろが。

場の空気を読んで・・・て、どこでそんなワザおぼえたんや。


まあとにかく。
以上の 3要素を評価することで、各社員の能力を以下の 3段階に格付してしまうわけですよ。

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お気づきになるでしょうか。
スペシャリスト志向の社員が最低ランクに格付されることに。

能力が高いと評価されるためのキーワードは、”範囲” (scope) らしい。
深さよりも広さが重要、と言っているのです。
そんなの当たり前じゃないか、と思われた方、挙手していただけますか?

20%のトップ人材と 70%のコア人材

タレントマトリクスの色分けが意味するものについて。
ターコイズカラー(note色とも言う)の 3つの箱は、トップタレントと位置づけられます。

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トップタレントは、全社員の 20%を目安とします。

青色の 3つの箱は、コアタレントと呼ばれます。

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コアタレントは、全社員の 70%が目安です。

エマージングスターは新入社員の箱なので説明不要ですね。

残るオレンジ色の 2つの箱には、呼び名がありません。

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この箱に分類された社員は、6ヵ月の改善計画 (Remediation Plan) を作成します。計画どおりに改善されなかった場合は、残念ながらグッバイです。
本社はスイスなので、他のヨーロッパ諸国と違い、アメリカ並の即時解雇が可能です。

社員をトップ人材・コア人材・その他人材にカテゴライズする。
そこには重大なメッセージがあります。
それは、どのカテゴリーも必要不可欠であり、重要な役割を担っているという共通認識です。

トップタレントは、高い意欲と broad な視野・知見によって、組織をリードする船頭=先導役です。
コアタレントは、高い実務能力と deep な専門性によって、文字どおり組織を動かす中核。全社員の 70%を占めるこの層は、マトリクスの呼称のとおりキープレイヤーとプロフェッショナルの集団と言えます。
オレンジの箱にいる社員もタレントです。彼らはサポートを必要としています。そのために上司がいて、人事部員もいる。彼らはコアになれる人たちです。たとえ袂を分かつことになっても、組織にとって大切な存在であり続けるでしょう。

組織は冷徹かもしれない。仕事はブルシットかもしれない。
しかし、6万人の企業グループが、すべての社員に役割を与え、各人の意欲や性格や働き方に応じた、人それぞれの満足度を最大化しようとする姿勢は悪くないと思いました。
みんながみんな上を目指す必要はない。リーダーは少数でいいし、なりたい人だけが目指せばいい。
いや・・・そもそも、上とか下みたいな発想がおかしいと思うのです。
キープレイヤーが経営会議で気の利いた発言ができないように、スーパースターは見積書を作成することも機械をメンテすることもできないのです。
そこには役割の違いしかない。

自分のキャリアパスを考えるときに最も大切なことは、人の意見を聞かないことなんじゃないだろうか。
他人の意見なんて何の参考にもならないばかりか、有害なだけだと思うのです。たとえ的確なアドバイスであっても、タレントに対する世の中の考えは変化し続けます。それでもめったに変わらないのは、自分自身の考えです。
自分は変化を好む人間なのか。他人をリードしたい人間なのか。
広く生きたいのか、深く生きたいのか。複雑さが好きか、単純さが好きか。
スーパースターになりたいのか、キープレイヤーになりたいのか。

最後に、私自身のことを少しだけ書いておきます。
上司やコンサル、あるいは社会によって、私はスーパースターを目指すように教育されてきました。
でも今、はっきりと言えます。
スーパースターになりたいなんて、一度も思ったことはなかった、と。
私はキープレイヤーでありたい。成果も能力も普通でありたいのです。
他人をリードなんてしたくないし、変化より現状維持を好む人間です。
複雑よりも単純なほうが好きです。広くか深くか、と自問するなら、真ん中くらいと自答します。
20%ではなく、70%の中にいたいのです。