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お仕事の基本、想像力とは

私の部署は、隔月くらいのペースで、取引先も交えたオンライン懇親会をやっておりましてね。
参加者は、スイス本社の面々、私がいる香港チーム、中国や日本の取引先など、総勢 20名程度です。2020年以降、対面で会えなくなった代償として、仕事と切り離した社交(飲み会)を Teams でやってるわけ。
 
毎回、“余興” 的なプレゼンを誰かがやることになっています。
プレゼンのテーマは完全自由で、母国の紹介、旅の思い出、趣味の話など、なんでもありです。
このあたり、ヨーロッパもアジアも同じような発想をするんですね。
オンラインでただ呑んでしゃべるだけでは場がもたないでしょうし。
 
先週やった懇親会で、プレゼンを担当したのは東京チームでした。
個人ではなく、チームで余興を披露するのはまあよいとして、彼らが作ってきたのは自作の動画でした。
NHKの番組『プロジェクト X』を模した動画で、彼らの自社製品が完成するまでのドラマを描いた力作でした。尺は 20分弱だったでしょうか。


東京チームの動画はなかなかの出来だと思った。
笑いあり、感動あり、パロディとしての芸も細かく、何より動画の技術力が高い。
思わず拍手するほど私はそれを楽しんだが、それは私が日本人だからだ、ということにも気づいていた。
実際、私以外の参加者(全員、非日本人)の反応はそれほどでもなかった。
 
それはなぜでしょうか。
ひとつめの理由。
『プロジェクト X』のパロディというアイデアは個人的に好きなノリだし、適度なおふざけ感もよかった。でも、それがわかるの日本人だけだよね。
例えば、BBC の誰でも知ってそうな番組で同様のことはできなかったのか。
 
ふたつめ。ナレーションは日本語で、英語の字幕がついていた。
字幕をつけるくらいなら、なぜナレーションを英語にしなかったのか。
そもそも、なぜプレゼンではなく、動画にしたのか。
リアルタイムでしゃべる自信がなかったからではないか、という疑念を払うことができない。
 
そして最後に。動画に登場する彼らは、深夜まで仕事し、終電で帰宅する毎日。私たちはこんなに頑張っている、という東京チームの姿が、この動画の最も強いメッセージだった。
外国人の視聴者にどう感じてほしかったのですか?


この動画を(日本つうでない)外国人が視聴したときの反応を想像してほしい。
ドキュメンタリー番組っぽい作りは伝わっても、本家『プロジェクト X』を知らなければ、面白さは半減するだろう。
 
耳に聞こえる日本語のナレーションはノイズでしかない。目で英語の字幕を追っていたら、せっかく作り込まれた映像に集中できない。
 
深夜まで仕事してる彼らに何を感じましたか? と香港人同僚に訊いてみた。
キャンディは言った。
「上司に対する complaint だと思いました。仕事が多すぎる、headcountが不足している、というメッセージですよね」
 
たぶん・・・違う、と思うよ。


こんな動画作ってるヒマがあったら定時に帰れよ、とは私は言わない。
このテのエンターテインメントは、存在感をアピールする絶好の機会だ。
ユーモアのセンスも、映像・音響の技術もすばらしい。
彼らに唯一欠けているのは、想像力だ。
受け手の立場・知識・能力・反応を想像する思考習慣。
これがないと、せっかくのコンテンツも台無しになる。
 
この動画を観た外国人たちの感想を想像してみる。
最も印象に残ったのは、東京の街の美しさだったんじゃないかな。
数々のランドマーク。緑あふれるオフィス街。洗練されたワークスペース。会社員のお洒落ランチ。深夜のメトロ。
観光地としての東京は写真で見たことがあっても、働く場所・生活の場所としてのリアル東京を見るのは新鮮だったに違いない。
動画の作り手側の狙いはそこではなかっただろうけど。

♪ 残業 3兄弟~

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