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経営の掟は2つだけ「金は盗むな」「詐欺はするな」【亀っちの部屋 鉄の掟編 1/2】

「NewsPicks」2023年10月27日掲載

*音声版は「亀っちの部屋ラジオ」でお聞きいただけます。配信先は SpotifyApple PodcastVoicyです。


掟を破ったら、辞めてもらう

野村 「金は盗むな」とは、すごいテーマですね。

亀山 ビジネスをしてると、ときどき「経営するうえで、社内で何かルールを設けてるんですか」と聞かれることがあるんだよね。

 うちはいろんな事業をしてるから、ルールの基準も部署によって違うんだけど、DMMグループ全体の掟としては、「金は盗むな」「詐欺はするな」の2つ。これを破った人には、会社を辞めてもらうことにしている。

 こう話すと、「そんなの当たり前じゃないですか」ってみんな笑うんだけど、けっこう真面目なことを言ってるつもりなんだ。

野村 では、その真意を伺っていきましょう。

亀山 当たり前のことなんだけど、これが意外と、たまにあるんだよ。うちでも小さいのを含めると数年に一度はある。

野村 今でもたまに起きるんですか。

亀山 ヤンキーが多かった飲食店やビデオレンタル時代もあったけど、優秀な社員が増えた今でも実はある。人数もあの頃に比べて100倍になってるからというのもあるけどね。

 勘違いしないでほしいんだけど、99%以上の人間は真面目にやってるのよ。でも会社は社会の縮図だから、どんなに優秀な会社だって、1%そういう人が紛れていてもおかしくはないよね。

野村 確率的にはそうなりますね。

亀山 だから、当たり前だと思わずに聞いてくれるとうれしいかな。

『半沢直樹』に見る、不正の内部処理

亀山 不正がどういうふうに発覚するかというと、まずは内部からだね。「この人がこんなことをしている可能性が」みたいなこともあるし、もともと外部で組んで一緒に悪いことをしていたやつが、その仲間から外されたときにリークするとか。

野村 仲間割れですか。

亀山 悪党仲間なんて、互いの信頼関係じゃなくて損得関係でつながってるから、自分に得がなくなったら手のひらを返すんだ。

 あとは取引先などから「こういうことを要求されました」と言われてわかることもあるし、まれに国税の調査が入って発覚することもある。これが、けっこう大きいのよ。

野村 そうなんですか。『半沢直樹』の世界みたいですね。

亀山 そうそう。国税は、反面調査といって取引先や関係者の調査もできるわけ。俺たちは自分の社内のことしか調べられないから、もし担当者が別口座を作って取引先に振り込ませていたら、不正されていることなんてわからないじゃない?

 でも、国税の調査が来ると、そいつの不正が簡単に暴かれるわけ。ところが金を抜いたやつは、その金をだいたい使っちゃってる。会社としては、金を盗まれてさらに税金を取られるという。

野村 踏んだり蹴ったりですね。

亀山 だから「金を盗むなんて、ありえないじゃないか」と思うかもしれないけど、現実には表面化していないだけで、大企業・中小企業に限らず、けっこうあると思うんだよね。

 『半沢直樹』でも、大和田常務が不正融資をして、それが奥さんに流れていたよね。でも大和田常務がどうなったかというと、そのまま役員に残ってるじゃない。

野村 たしかに、降格はしましたけど平の取締役で残っていましたね。

亀山 不正に関わった他の人たちも、地方に出向させられたり海外に飛ばされたりしていた。要するにあれは、事件にはなってないよね。

 ドラマでは、頭取が大和田常務に「君の力を買っているから、役員に残ってもらおう」と言っていい話みたいになってたけど、俺からすると「いやいや、それクビだろう!」って(笑)。

 内々で終わらせる様子がドラマでも描かれるくらいなんだから、世の中にはけっこうある話ということだよね。

野村 亀山さんが知る範囲でも、そういう話を聞くことはあるんですか?

亀山 うん、ときどきあるよ。たとえば俺の知り合いが、「ある大企業の友達から連絡があって、お金を貸してくれと言われたんです」と相談してきた。理由を聞くと、会社の金に手をつけてしまって返さなきゃいけないんだと。

 「どうしたらいいと思いますか?」と聞かれたから、「返ってこないかもしれないけど、あげたつもりで貸すならいいんじゃない」と言ったけど、結局、彼自身は貸さなかったみたい。本人が親戚中からお金を集めて返したらしいんだけど。

 で、結局本人がどうなったかというと、今も同じ会社の同じポジションにいるんだって。

野村 補填できたから、お咎めなしということですか……。

亀山 そうみたいだね。あくまで想像だけど、なぜなかったことにするかというと、社員への温情もあるだろうけど、それ以上に、不正があったら上司や会社の管理責任が問われるわけじゃない。

 会社としては身内の失態を出したくないから、「お金が戻ってきたなら、なかったことにしよう」となるんじゃないかな。なかったことにするから、異動もさせられないし。

野村 会計上、何も動きがなかったことにして、終わらせたということですね。

初めの「これくらい」が分岐点

野村 不正をする人は、それができる環境だからしてしまうんでしょうか? 最初からお金を盗むつもりで入社する人はいるのかなと気になりました。

亀山 それは、ほとんど出来心だね。計画的にするというよりは、タクシー代をごまかした、くらいから始まって、出張がないのにあったようにしたりとか、だんだんエスカレートするのが多いんじゃないかな。

 あとは、取引業者からの接待もあるよね。飲みに行った後にキャバクラに行ったりと、だんだん過大になってきて、途中でやめにくくなるわけよ。商品券を差し出されて断ったら「え、そんな堅いこと言うんですか?」みたいに。

野村 「前は受けてくれたじゃないですか」と、向こうもこちらの行動を知っていますしね。

亀山 三上洋さんに闇バイトの話を聞いたときもそうだったけど、ちょっとしたことからエスカレートしていくんだよね。

 これがIT系の企業なら、お金のやりとりはキャッシュレスだし社内のあらゆることがデジタル化されてるから、まだ起こりにくいんだけど、飲食店みたいに現金を扱う商売だったら、売り上げを抜くことができるからね。商品そのものを持っていくこともあるし。

 あるコンビニオーナーの知人は、店内の防犯カメラを「お客さんを見る以上に、スタッフを見ています」と言ってたよ。

 どうしても現金を扱う仕事では、インもアウトも管理できないから起きやすいよね。ビデオレンタル時代にも何度かあったし。

野村 ではDMMの2つの掟は、ビデオレンタル時代の経験が大きいんですか?

亀山 そうだね。CDやDVDを持っていくやつを1人見つけたら、芋づる式に発覚してスタッフのうち半分くらい辞めさせないといけないことはあったね。1人が最初にうまくごまかせたら「俺もやろう」みたいになって。

 でもさっき言ったように悪党の信頼関係はもろいから、1人見つかると「僕だけじゃないです」となるんだよね。

野村 けっこう正直に自白するんですね。

亀山 会社が大きくなってからも、そういうことがあったときに現場の上司が「本人は反省してますから、今回だけは」と言ってくることはあるけど、掟だからそれだけは飲めない。

 もちろん状況によって、解雇もあれば自己都合退職にすることもあるけど、辞める形は取ってもらうことにしてるんだ。

 なんでかっていうと、さっきの話みたいに対外的になかったことにしたとしても、周りの社員は見てるわけよ。じゃあそういう会社がその後、健全でいられるかってことだよね。

 大企業の社長でも中小企業のおやじさんでも、経営をしてる人なら、多少なりともそういう経験はあるんじゃないかな。

手を染めるのは、意外にも優秀な人材

野村 さきほど、ビデオレンタル時代に店員の半分が関わっていた話もありましたが、会社の重要人物が不正に手を染めてしまって、その人が辞めることで業務に影響が出ることはないんですか?

亀山 それは、かなりあるよ。

 というか、むしろ権限を持っているからできることだよね。優秀で権限を持ってる中で行われるから、厄介なんだ。

野村 たしかに。

亀山 だから、国税に「抜かれているのが、何億円あります」と指摘されたときは「ああ、聞きたくなかった」となるよね。その何億より、信用して任せていたこいつが、というショックだよね。

 あと、優秀だから任せていたわけで、こいつが抜けることで毎年何十億の損害が出るよな、って。でも掟にしてるから、辞めさせないといけない。

野村 「重要人物だから許されるんですか」となって、示しがつかないですよね。

亀山 こういうことは、会社経営の1%にもならない出来事なんだけど、この1%にどう対応するかが、経営者として大事なことだと思う。

 何も、事件を公にする必要はないかもしれない。でも社内的なことを考えると「え、これで済むんだ」となることは避けたいから、少なくとも辞める形にはすべきかなと。

 だって、『半沢直樹』みたいに不正が起きるたびに地方に飛ばされてたら、地方が犯罪者だらけになるじゃない(笑)。「え、また本社から盗んだ人が来たの?」って。

野村 受け入れる側も大変ですよね(笑)。

亀山 30年前の飲食店やビデオレンタルの頃は、俺たちの職場はアルバイトで成り立っていて、いろんなやつがいるのでこういうことも起きるけど、まさか大企業はそんなことないと思ってた。

 でも、いざ大きくなって他の会社の話も聞ける立場になると、いや、けっこうあるなと。つくづくそう思うよ。

野村 イメージしていたより、大企業の中でもいろんなことが起きているということですね。

亀山 経営者どうしの会話でも、内々に済ますという話は本当によく聞くよ。

 オーナー社長じゃない人も多いし、株主にも知られたくない。気持ちも仕組み的にもわかるんだけど、俺としてはちょっと違うかなと思う。

 不正した人を社内にとどめることで、一時的には損失を抑えることができるかもしれないけど、長い目で見たら社員のためにも、そこはちゃんとしたほうがいいんじゃない?って。

野村 亀山さんは以前、社長になる人が気をつけるべきことは、自身の経費を曖昧にしないことだと言っていましたもんね。その姿勢を周りにも示すのが大事だと。

亀山 そうだね。じゃあ次回は、どうして不正が起きやすくなるのか、具体的にどう対処するかについて話していこうかな。

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