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起業するなら「今」と語るワケ【亀っちの部屋 起業のすすめ編 1/2】

「NewsPicks」2023年07月21日掲載
※音声版は「亀っちの部屋ラジオ」でお聞きいただけます。配信先は SpotifyApple PodcastVoicyです。


商売の資金の集め方は2通り

野村 今回は亀山さんのソロ回です。「起業のすすめ」は、亀山さんのビジネスの一丁目一番地という感じですが、どうしてこのテーマを選んだのですか?

亀山 前のソロ回では、非上場の持ち株制度や上場・非上場の違いを話したけど、あんなことばかり言ってたらVCや証券会社に嫌われちゃうんで(笑)、上場・非上場に関係なく、起業について話せたらいいかなと。

 NewsPicksを読んでる人たちは、起業と聞くとITをイメージすると思うんだけど、そういうものに限らずラーメン店開業とかも含めて、広い意味で話そうかなと思ってる。

野村 いわゆる「商売」ということですね。

亀山 そうそう。まず、起業したい、商売をやってみたいと考えてる人は、けっこういると思うんだ。仮に1000人いるとしたら、実際に行動に移すのはせいぜい100人かな。口だけで終わったり、計画段階でやめたりするから、だいたいそこで10分の1になる。

 動き出した100人のうち、投資をしてもらえるのは1割くらい。さらに上場となると、そこまで行くのは1人くらいかな。これは何かデータを見て言ってるんじゃなくて、あくまで俺の中のイメージだけどね。

野村 亀山さんがいろんな人と会ってきた感覚でいうと、起業志望者が1000人いたら、その中で上場まで行くのは1人くらいだと。

亀山 うん、そんな感じ。

 じゃあ、起業したいと思ったらどうすればいいか。まずはお金が必要だよね。そのお金を集める方法は、ストックとデットの2通りがある。

 ストックとは、誰かにお金を出してもらうこと。いわゆる投資だね。デットは、銀行などの金融機関からお金を借りること。最近はクラウドファンディングとか別の方法もあるけど、大きくいえばこの2つが、一般的なお金の集め方というわけ。

 まずは、人にお金を出してもらうストックのほうから話をしようか。

野村 お願いします。

投資される業種が「ほぼIT」な理由

亀山 人にお金を出してもらおうと思うなら、業種はWeb3やAIなど、いわゆる今どきのITビジネスに絞られる。ヤンキーのあんちゃんが「僕、ラーメン屋をやりたいんです」と言っても、投資してくれる人はほとんどいないよね。

野村 やっぱりそうなんですか。

亀山 ITビジネスは基本的に、サービスというより人に投資するようなところがある。ほとんどが失敗するんだけど、うまく当たれば100倍、1000倍になって返ってくる可能性があるから、投資家としては夢があるんだよね。

 一方でラーメン屋だったら、成功したとしても利回り10%とか、上限は知れてるじゃない。何かリアルな業種をしたいなら、それにITを掛け合わせるような新しい形にしないと、投資家は振り向いてくれない。

 だから、お金を調達して将来的に上場を目指したいなら、IT業種で起業するのがいいと思う。 

野村 それはやっぱり、ITがスケールしやすいということですか?

亀山 うん。あとは初期費用が比較的抑えられるところかな。極端な言い方をすると、初めはエンジニアの労力さえあれば、何かアプリを作ってAppストアに出すだけでいいからね。

 これが、製造業で家電を作りたいとか車を作りたいとなると、設備投資や在庫管理の費用が莫大になるから大変なんだ。

 費用が大きくなるぶん、投資家にとってもリターンが少ないよね。うちもDMM.make AKIBAでものづくりのスタートアップを集めていたけど、資金はすごく集まりにくかった。

 それに経営者側から見ても、リアル業種は販売ルートの開拓や営業、CSなどが絡んでくるから、ビジネスが複雑になってくる。

 起業したいけどやりたいことが決まっていない場合は、こういう考え方で業種を決めるのもありだと思うよ。

ここ10年で投資家が増えた

亀山 じゃあ「ITで一発当てて、華々しく上場したい」という若者は何をすればいいかというと、まずは自分のできる範囲でアプリなり何なり、サービスを作ってみることだね。

 その先、資金をどうやって集めるのか。有効なのはIVSやB Dash Campみたいな、投資家とスタートアップをマッチングさせるイベントに参加することかな。そこで「こんなサービスを作ってるんですけど、お金を出してもらえませんか」と投資家にアピールする。

 そこにはエンジェルと呼ばれる個人投資家もいるしVCも来ているから、彼らと出会って最初の資金調達(シード)をすることが、第一ステップだね。

野村 そうしたイベントは、スタートアップが投資家と出会う場としては有効なんですね。

亀山 うん。俺も年に何回か行くけど、VCの人たちの話を聞いていても、最近はみんな、投資先に困ってる感じがする。

 俺がこういう場所に行き始めた10年くらい前は、スタートアップはたくさんいたけど、投資家やVCが少なかった。でも、その頃に投資した会社は成長してリターンの良かったものが多かったの。

 だからその後、大手も含めて多くのプレイヤーが、スタートアップ投資に参入してきたんだ。

 そうなると需要と供給のバランスで、昔に比べてそれほどでもない事業にも、投資したがる人がたくさん出てくる。

野村 一般にどんな市場でも、早く参入したプレイヤーほど儲かって、後になればなるほど利益率が下がるといいますが、スタートアップ投資に関してもそうなんですね。

亀山 そうだね。昔は投資家から見れば、スタートアップ界隈はブルーオーシャンだった。それが数年前からは、お金を持った漁師がうわーっと集まってきた状態。

 投資家が増えて投資したいお金の総額が増えたから、「起業したい人は多いけど、投資家が少なかった」という10年前に対して、スタートアップのバリュエーション(企業価値)がどんどん上がってきたわけ。

 ちょっとしたアイデアでも「企業価値10億円で、1億円を投資しましょう」みたいな。10年前から見てる俺からすると、「いやこれ、10億の価値もないだろう」みたいなものがあったりする(笑)。

 要するに、スタートアップ業界全体の値上がりが起きたってことだね。

 最初は10億だったのが、そのまま20億、30億となって、上場した頃には時価総額が100億円になったりするケースもあった。スタートアップはデビューしやすくなったし、投資家にとっても利益率が良かったから、ウィンウィンだったのよ。

 これが、ここ2~3年前までの状況かな。

IT投資家の立場は他ほど強くない

野村 最近は違うんですか?

亀山 少し前からIT市場は悪くなったから「確実に利益を出していないと評価できませんよ」みたいな状況になってるね。以前は赤字上場なんて当たり前だったんだけど。

 すると、上場してもあまり株価がつかないから、上場前に100億円だった時価総額が上場したら50億円になる、みたいな変なことが起こるわけ。

野村 後から参加した投資家は、逆に損をしますね。

亀山 だからここ1~2年は、上場見送りになるケースも少なくない。かといって追加資金も入れられないから、「逆にM&Aしたほうがいいんじゃない?」となってるんだ。

野村 まだ黒字化できていないスタートアップは、投資マネーを入れ続ける必要がありますよね。本来であれば上場して資金を集めたいところ、それができないから売却するしかない、ということですか。

亀山 そう。逆に俺たちからすると、去年100億だった会社が今年は「20億でいいです」となったりして、買いやすいんだ。

野村 そんなに下がるものですか。

亀山 もちろん、ものによるけどね。でも追加資金がなくて前に進まないなら、究極的には「売却ゼロ円でもいいから経営は続けさせてください」となるからね。

 でもそうなったら、他の株主は文句を言わないの?って話になる。

野村 ええ、そう思いました。

亀山 これがちょっとITのおもしろいところで。

 ITって無形のものだから、結局は人に投資してる形になる。のれん代みたいなものだね。不動産のように売り払える資産がほとんどないわけよ。

 これが旅館や工場だったら、いざとなったら建物をもらって経営者を入れ替えて……ってできるんだけど、それができない。投資家としては、追加投資をするか、ダウンで手放すかのどっちかしかないわけ。

野村 巻き取ったところで、資産がないから意味がないということですね。

亀山 だからIT業界の投資家の立場は、他の業種ほど強くないんだ。

今ならやっぱり生成AIで起業?

亀山 こうした前提を知ってもらったうえで、最近のITスタートアップ業界の動きを見てみよう。

 まず、Web2はちょっと元気がないよね。Yahoo!や楽天のようなB2Cサービスは、仮にうまくいっても大手ライバルがパクるから、昔ほど成功しにくい。

 まだITがあまり普及していなかった20年前なら、資金力のある大手企業でも技術がないからまねできなかった。だけど、今なら大手IT企業が自社でエンジニアを抱えてるから、サイトを見ればだいたいのサービスは作れる。

 だから基本的に、Web2のC向け事業はあまり有望とはいえない。ここ10年で大きくうまくいったのは、メルカリくらいじゃないかな。

野村 そうですね。

亀山 10年前はゲーム起業が多かったけど、今は流行らない。そうなると、IT起業したい人たちが向かう先はB2Bだよね。SaaSといわれる法人向けのサービスだ。

 B向けの分野はCほど大きくなることは少ないんだけど、会計ソフトとかなら外資と戦わなくていいし、手堅い利益を出しやすい。一時はB2Bのスタートアップが多かった。

 で、その後ちょうど1年半くらい前に、Web3の波が来たわけよ。

野村 メタバースやNFTなど、すごく盛り上がりましたね。この「亀っちの部屋」Season3も、Web3を学ぶというコンセプトで始まりましたし。

亀山 そうだ、そんなこと言ってたわ!

野村 忘れてたんですか(笑)。

亀山 それでスタートアップがぶわーっとWeb3に行こうとしたんだけど、去年の後半にバブルが弾けて一気に冷え込んでしまった。本来のWeb3は、もっと長い目で見るものなんだけどね。

野村 たしかに、話題に上る頻度は一時期より減りましたよね。

亀山 それで今は、生成AIになってる。NewsPicksもChatGPT特集をやってるように、猫も杓子もAIになってるから、投資家たちの間でも「ここにチャンスがあるんじゃないか」って話になったりするわけよ。

今は「金余り」、そのワケは…

亀山 ただ、話題になってるからといってAIにみんなが投資してるかというと、そうでもないんだ。AIへの投資は、実はけっこう難しい。

野村 それはどういうことですか?

亀山 B向けであれC向けであれ、「うちのAIを使ってこれができます」というサービスが、まだほとんど出ていないからね。今はみんな、AIの基本的な技術に「すごい」と思ってる状態だから。

 インターネットができたときは、Yahoo!みたいなプラットフォームビジネスをやろうとか、Appストアができたときはゲームをやろうという世の中の動きがあった。

 じゃあAIができて起業家に何ができるだろうと考えると、絵を描くにせよ文章を書くにせよ、外資開発のAIを使えば誰でもできるわけだから、それを差別化したサービスにして一番になるのは現実的ではない。

野村 たしかに。

亀山 既存の事業を効率化するとか、事業のコストを抑えることにはAIは使えるんだけど、それ自体で新しいビジネスモデルができるかというと、なかなか難しいのが現状なんだ。もちろん、これで社会が大きく変わるから、変化には夢もチャンスもあるけどね。

 そういうわけで、儲かる会社を起業するのは難しい。その一方で国はAIを後押しする姿勢だし、「スタートアップ支援で10兆円」とか言ったりしてる。そしてさっき言ったように、投資家は投資先に困っている。

 こうした背景を総合すると、金余り現象みたいなことが起こっているのが今というわけ。

野村 なるほど。だから、いま起業すれば資金が調達しやすいということですね。

亀山 うん、調達はしやすいね。そんな状況だから逆に言うと「これなら確かにビジネスになりそうだ」というものが一つ出てくれば、そこにぶわっと資金が集中することが考えられる。

 投資家をちゃんと説得できる材料があり、ビジョンをうまく語れる口達者なやつが一人勝ちする可能性はあるね。投資側にはお金はあるんだから、優秀な起業家を探している。実際、6月に京都で開催されたIVSでも、参加人数が増枠されていたし。

 だから、もし自分の中で「これはいけるんじゃないか」というアイデアがあるなら、勇気を出して飛び込んでみてもいいと思うよ。

野村 なるほど、それで「起業をしよう」というメッセージなんですね。やっぱり起業するなら、ITがおすすめですか。

亀山 おすすめというより、若い人が起業するなら今どきのITがやりやすいってことかな。アイデアとエンジニアの力があればストックで資金が集まるからね。建築や物流業界となると、お金や経験のあるオジサンたちに勝つのは大変だからね。

 じゃあ後編は、IT以外の業界で、借金して始める起業についても話していこう。

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