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非上場のDMMが持株会を始めたワケ【亀っちの部屋 持ち株会編 1/2】

「NewsPicks」2023年05月12日掲載
※音声版は「亀っちの部屋ラジオ」でお聞きいただけます。配信先は SpotifyApple PodcastVoicyです。


“株価”は何を基準に判断するか

亀山 実はDMMが社員向けに持株会を始めることになってね。社員向けだから一般の人は買えないんだけど、他の非上場の会社や中小企業にとっても面白い仕組みだと思うから、ぜひ聞いてもらえるとうれしいかな。

野村 わかりました。まず、始めようとしている持株会はどういったものですか?

亀山 うちは非上場だから株価がないわけよ。じゃあどうやって価値を決めるのかというと、会社の純資産で判断する。事業会社ごとじゃなくてDMMグループ全体の純資産だね。

野村  DMMグループ全体のバランスシート(貸借対照表)における純資産を、株の発行数で割ると1株当たりの株価が決まる、と。

亀山 そう。仮に純資産が10%増えたら、株価も10%上がるという感じかな。

野村 一般的な株のように配当はあるんですか?

亀山 配当や議決権はないんだ。買う買わないは自由だし、売るのはどのタイミングで売ってもいいけど、退職するときには必ず売ってもらう仕組みだね。

要は退職金の上乗せみたいなもので、給料からの天引きで積み立てていって、会社の利益が伸びていたら、投資してもらった分が還元されるという感じ。

うちは創業してから赤字になったことはなくて、ここ最近の10年だと、会社の純資産はだいたい4倍になってる。利回りでいうと15%くらいかな。

野村 利回り15%!それはすごいですね。

導入の大きな理由は「世代交代」

野村 そもそも、なぜ持株会を始めようとしたんですか?

亀山 今までは利益が出たら、常にそれを次の事業に投資してきた。もちろんこれからもそうするけど、最近は投資し切れずに純資産がたまってきたというのが一つ。

もう一つは、商売を始めて40年以上になるんだけど、ビデオレンタル時代のアルバイトとか、初期からいる社員の年齢が上がってきた。すると現場ではどうしても、世代交代が起きるよね。

生産性を上げて組織を健全に保つためには、ベテランを若手に交代させなきゃいけないこともある。そうしないと会社がおかしくなるからね。結果的に、年齢とともに社内でのポジションや給料が下がってしまうことがあるんだ。

能力的な面で見ても、昔のヤンキーたちに比べたら最近は優秀な人間がどんどん入ってくるしね。

でも俺としては、昔からずっと一緒にやってきた仲間がそういう状況になるのは見ていてつらい。実際のところ、そのヤンキーたちがいなければ今のDMMはなかったからね。

経営者としては厳しい判断をしないといけない一方で、社員たちを保護するのも会社の責任だから、これまで貢献してくれた分を還元できる制度があったらいいなと思ったんだ。

野村 では、長く勤めている方にインセンティブのある仕組みになっているんですか。

亀山 そうだね。基本的な購入上限は毎年給料の10%までにする予定だけど、長く勤めてる社員は初回特別枠みたいな感じで、多めに買えるようになっている。

野村 非上場会社の株を社員が買うというのは、すごく面白い試みですね。

亀山 社会全体を見たときに、今の世の中で格差がついているのは給料格差というより、資本家であるかどうかが大きいと思うんだ。要するに、投資をしている人としていない人との間に、大きな格差が生まれている。

だから政府も最近は「資産運用をしましょう」って言ってるよね。

野村 ええ、そうですね。

亀山 それはある意味で正しいんだけど、ある意味では正しくないと思うんだ。たぶん普通の人が資産運用をしても、うまくいっていない人のほうが多いんじゃないかな。

素人がプロには勝てないし、プロに頼もうとしたら手数料もけっこうかかる。それにやっぱり、同じように資産運用しても、お金を多く持っている人のほうが有利だよ。

野村 たしかに、投資はそういう仕組みの世界です。

亀山 運用する腕や情報の差が大きく影響するし、買った株が見込み違いで外れることもあるから、やっぱり資産運用は簡単じゃない。

そういう意味では、自社の状況ならまだわかりやすいと思うんだ。俺が沈んだ暗い顔をしてたら、「やばい!」と売ればいいわけだし(笑)。

野村 上場企業の持株会と違う点はなんですか?

亀山 非上場会社の株だから、市況変動での上がり下がりがないから相場に左右されない。無配当だから、会社が黒字にさえなれば株価は上がるということ。もちろん100%ではないけど、普通の市場での売り買いよりは堅実に資産形成できると思うんだよね。

本当は、ずっと前からやりたかった

亀山 実はこういう制度は、ビデオレンタル時代から考えていたんだ。

野村 そうなんですか。

亀山 40年前は単なる街のビデオ屋さんだったけど、みんなのモチベーションを上げるために、株を持たせるのもおもしろいかなと思って。

そのとき店員たちを集めて「こんなの考えたんだけど、どう思う?」って聞いたら、「いや、1万円分の株よりも給料を1万円上げてもらうほうがいいです」って言われちゃって(笑)。

野村 良さをわかってもらえなかったんですね。当時から持っていたらすごいことになったのに。

亀山 お互い素人で、俺も良さをうまく説明できなかったしね。そこから10年以上経ってまた提案したんだけど、やっぱり経理から「仕組み作りや運営が大変だからやりたくないです」と言われてやめたんだ。だから、10年に1回くらいは議題に上がるのよ。

まあ当時はうちも、利益はほとんど全部を次の事業投資に回していたからね。ビデオレンタル時代は出た利益を全部使ってビデオテープを買っていたし、ネット時代になってからはエンジニアを雇ったり、サイトを作って会員を集めたり、広告費に使ったりしていた。

そういう支出は全て経費扱いになって利益に計上されないから、常に黒字ではあったんだけど、そんなに大きな利益は出てこなかった。
その投資と利益のバランスが逆転したのが、ここ10年くらいかな。過去の投資で出た利益が多くなり再投資しきれなくなってきた。資金繰りは安定してきたが、逆に利益がたまってくると「将来がやばいな」という気持ちになってきた。

それで商売のネタの不足を補うために「亀チョク(亀山会長直属のプロジェクト)」を作って外部人材を雇ったりM&Aもしたんだけど、それでも純資産が増えていった。

そうやって会社の現金が増えて、安定してきて「つぶれないかな」というところまで来たから、そろそろ始めようかなと。今なら社員も半分以上の人は買いたいと思うだろうし。

野村 ずっと構想がありながら条件がなかなか整わなかったのが、ようやく機が熟したんですね。

資産家になりたいわけじゃない

亀山 あと、俺もいい年じゃない。そろそろ終活というか。

野村 終活、ですか。

亀山 俺は商売人だから、出た利益を使って新しい事業ができるのが楽しいんだ。資産がないと事業ができないから稼いできたけど、商売をやりたいのであって資産家になりたかったわけじゃないんだ。

でも結果的に、それで資産がたまってきたことは間違いないし、今の状況は、俺が資産のほとんどを独占してる形になったわけよ。

一人で抱えるにはちょっと多いし、「子どもに少しでも多く残したい」とも思っていないから、どこかに還元するなら社員か社会。やっぱり、まずは社員かなと。ぼやぼやしてるとある日突然、俺がポックリ逝くかもしれないし。

野村 可能性としてはゼロではないですよね。

亀山 それに、まだ何も決めてなくてまったく仮の話だけど、もし俺が死んで、DMMを大きい会社に買ってもらうことになったとしよう。

そうすると、PER(株価収益率)評価が入ると思うんだよね。普通、PBR(株価純資産倍率)1倍で買収されることはあまりないから、うまくいけば株価が5倍、10倍になる可能性もあるわけ。そしたら社員たちはみんな、俺の葬式で「ありがとうございます!」って言うよね(笑)。

野村 おかげさまで、みたいな(笑)。気前がいいですね。

亀山 資産家としては損でも、商売人としては利害が一致するところもあるんだ。仮に、社員の給料に年間300億円かかっているとしよう。すると、株の発行上限が10%だから全員が目いっぱい買うと30億円だよね。

株は俺の持ち分を買ってもらうんじゃなく、増資をして会社がお金をもらうわけよ。だから会社としては運転資金が30億円増えて、また新しいビジネスに投資ができる。社員たちは30億円を出すけど、後々の資産が増えるという話で。

野村 お互いにウィンウィンなんですね。

持株会導入にデメリットはある?

野村 どんな仕組みにも良い面とそうでない面がありますが、デメリットや注意点としては、どんなことを想定していますか?

亀山 純資産で株価を判断するから、みんなが純資産を求めて目先の利益に走って、守りに入ってしまうことかな。そこは気をつけなきゃいけない。

野村 それは私も思いました。「あまりお金を使わないでほしい」と考える人が増えないかなって。

亀山 だから議決権は渡さないし、社員たちにも「DMM TVとかオンラインクリニックとか、これから大きな投資をしなきゃいけない事業もあるから、来年は今より利益が少ないかもしれない。株価は長期的な視点で考えてほしい」と口酸っぱく言っている。

さっきから「純資産」と言ってるけど、俺が思う会社の本当の資産とは、現預金とか土地とか帳簿に出てくるものだけじゃなくって、ブランド力や信用力、人材、会員数、開発力など、そういったさまざまな目に見えないものだと思うんだ。

そういう金額に表れないものを積み重ねて、長く利益を出し続けられるのが、価値のある会社だと思うので、ここは理解してもらうしかないかな。とはいえ、それでも自然と目先の利益に走る可能性はないわけじゃない。

だから社員への約束としては、「いったんやってみるけど、うまくいかなければやめるかもしれないよ」と言ってる。でもやめるとしても、買ってもらった株はちゃんとその時点の利益をつけて買い戻すから安心してねと。
将来、持株会はやめちゃうかもしれないし、反対にうまくいって「20%くらい持たせてあげよう」となるかもしれない。読者の皆さんには、また3年くらい後に結果を報告します。

野村 「どうなりました?」って聞きますよ。

亀山 株主総会で吊るし上げにあってるかもしれないよね(笑)。実際、役員たちからも懸念の声は出たんだけどね。ただ現在、うちの社員たちは会社全体の利益や株価にまったく無関心だから、関心を持ってもらうだけでも良いことかなと思ってる。

ただ、それが社員のモチベーションにつながるかどうかは疑問だよね。DMMグループ全体の純資産だから、自分の部署が赤字でも他が良ければ上がることもあるし、逆に投資フェーズで赤字の事業があったら、そこに非難がいってディスり合いになるかもしれない。

まあ、やらなきゃ何も始まらないんで、「やりながら考えます」という感じでございます。

野村 いつもの感じですね(笑)。

亀山 今回は「非上場会社の持株会」という話をしたけど、次回はもう少しテーマを広げて、上場・非上場のメリット・デメリットという話をさせてもらおうかな。

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