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非上場のメリットを語り尽くす【亀っちの部屋 持ち株会編 2/2】

「NewsPicks」2023年05月19日掲載
※音声版は「亀っちの部屋ラジオ」でお聞きいただけます。配信先は SpotifyApple PodcastVoicyです。


野村 前回は、DMMが始めようとしている、純資産評価での持株会について伺いました。非上場の会社がこういう仕組みを取り入れるのは、珍しい印象を受けたのですが。

亀山 あまり一般的じゃないけど、グロービスとか、他社でもやっているところはあるよ。むしろ非上場会社だからこそやれる仕組みではある。上場していたら、純資産で増資させるなんてことは一般株主が許さないからね。

 なんだかんだ言っても、世間には非上場の会社のほうが多いわけだし、老舗のようかん屋さんとか、何十年も手堅く利益を出している中小企業はやってみてもいいんじゃないかな。

 創業者にとっても、過大な遺産相続が家族にとっての幸せとは限らないからね。興味ある人は問い合わせてくれたら、細かいやり方をアドバイスするよ。全然パクッてくれていいからさ。むしろ広がってほしいよね。

野村 仕組みに著作権はないと。そして今回は、非上場企業向けのアドバイスということで。

亀山 うん。まずは上場企業と非上場企業の違いを整理しようか。経営の考え方というか、ゲームのルールが全然違うからね。

野村 お願いします。

非上場は「儲かってない」と言う

亀山 そもそも、非上場のDMMは、八百屋のおやじが大きくなったようなもんなのよ。

野村 八百屋のおやじですか?

亀山 そう。八百屋のおやじは少しでも税金を払いたくないから、「うちはそんなに儲かってまへんで〜」って言うわけよ。中小企業のおやじは手取りの収入を増やしたいから、だいたい同じことを言う。

野村 ああ、そうですね。

亀山 前回、出た利益で再投資するという話をしたよね。投資というと土地や有価証券を思い浮かべる人もいると思うけど、そういうものへの投資は、利益から税金が引かれたあとのお金を回すわけよ。

 でも俺のいう投資は、事業や人への投資だからほとんどが経費にできるんだ。100億円の税引前利益があったとして、そのまま事業や教育に回すなら100億円分投資できるけど、土地や株への投資なら、税引後利益の65億円分くらいしか再投資に回せない。

野村 土地や株は経費にならず資産として計上されるから、税金を払わなくてはいけないってことですよね。

亀山 そうそう。だからうちは他社をM&Aするときも「株式じゃなくて営業譲渡してくれませんか?」と持ち掛けることがある。

 仮に10億円の会社を買うとしよう。株式で買うと資産に計上されるけど、営業譲渡だと経費にできるから、その10億が5年で償却できたりするんだ。だから「株式で買うなら10億だけど、営業譲渡にしてくれるなら13億出しますよ」と言ったりする。

 それに応じてもらえるかは売る側の都合にもよるけど、税引後に残る純利益を考えると、株式より効率のいい投資なんだよね。非上場会社だと資産よりも経費になった方が良いという考え方になる。

上場企業は長期投資がしづらい?

亀山 一方でこれが上場企業だと、株主に対して「みなさん、うちは儲かってますよ」と言わなきゃいけない。

野村 将来有望だと思わせて、株を買ってもらわないといけないですからね。

亀山 だから上場企業ではたまに、利益が上がってるように見せる粉飾決算が起こったりする。八百屋のおやじが利益を多く見せる粉飾なんてするわけないよね。

野村 税金が高くなりますからね。

亀山 俺は、会社にとって一番大事なのは税引後の純利益だと思ってるんだけど、上場企業では株主に見せる手前、営業利益が重視されがちなんだ。「営業利益を上げてます」と言うと、社長もちょっと鼻が高い。でも実際よく見ると、営業利益が良くても、純利益が悪くなっているケースもあるんだ。

 それと、上場企業はどうしても長期投資がやりにくい。新規事業なんてものは、1年や2年でうまくいくことなんてほとんどない。5年、10年と投資してやっと結果が出てくるもんなんだ。

 5年後を考えたら、いま広告をバンバン打っておくべきとか、一時的には赤字になってもチャンスだから投資したいという時があるんだけど、上場してると株主総会で「なんだこの赤字は」「不確実な投資するくらいなら配当してほしい」と言われがちだよね。

 「未来のためにこの投資が必要なんです」と株主を説得しなきゃいけないし、理解されないと社長がクビになりかねない。大きい会社になればなるほど、社長が持ってる株の割合も少なくて、権限も強くないしね。

野村 構造上、上場企業は長期の事業投資がやりづらいと。

亀山 そういう意味では、非上場のオーナー企業のほうが、長い目でものごとを見て投資しやすいかな。一時的に利益を減らしてでも、胆力をもって「やる」と決めたらできるからね。

 うちがほとんど利益を出さなくてもやってこられたのは、非上場で株主からあれこれ言われることがないから、俺の独断で長期的な投資ができたからなんだ。それが結果的に会社全体の稼ぐ力を強くしたから、社員の給料も上げられるようになったというわけ。

ストックオプションも良し悪し

野村 亀山さんはレンタルビデオ時代、出た利益をほとんど全部使ってビデオテープを買っていたと言っていたじゃないですか。ビデオテープの在庫数を増やせば、そのぶん売り上げが上がる想定ができていたんですか。

亀山 在庫数が増えると、まずは店舗数を増やせるから売り上げは上がるよね。それにビデオテープは一括で経費計上できるから税金を減らせる。そして、その気になれば中古市場で売れるから、含み資産が増えると思っていた。

 でも世の中がDVDになって、結局は含み資産がゼロになっちゃった(笑)。そこはちょっと見込み違いだったけどね。

野村 ITに参入してからは、そちらへの事業投資もしましたよね。

亀山 うん、レンタルビデオ店のアルバイトにプログラミングの勉強をさせてたね。ヤンキーにITの勉強させるのは大変だよ。だから最初は、IT部門はめちゃくちゃ赤字だった。当時はまだビデオやDVDの利益があったから、それでなんとかまかなっていた。

 でも結局、そのときにITに投資してたから、ビデオレンタルが下火になっても雇用を守れたんだよ。

野村 当時だとビデオテープよりITのほうが、ビジネスとしてどっちに転ぶかわからない感じだったと思うのですが、そこは経営者として「やる」と腹を決めたということですか?

亀山 サイトへの集客力や会員数が、ビデオテープに代わる新しい資産になるかなと思ったわけよ。バランスシートの資産には載らないけど。それは、ヤフーや楽天、GAFAもみんなそうだよね。

 誰かに売れる資産ではないけど、会社にとっての大きな資産になる。時代とともに一般の投資家もそれを理解してきたから、たとえ赤字でも「会員数が多いから」「将来性があるから」と市場でも株価が高くつくようになった。ユーザーを資産だと、みんなが思うようになったんだ。

野村 たしかに。

亀山 ただ一方で、「昔は赤字でも株価が上がっていたのに、今は黒字を出してるのに株価が下がる」ということが起きている。とくにIT系では。

 どういうことかというと、「毎年の売り上げが10%伸びると思っていたのに、5%しか伸びなかった」というふうに期待値を下回ると、業績が伸びても株価が下がることがあるんだ。上場していたユーザベースもそれで苦労したと思うけど。

野村 そうですね(笑)。

亀山 上場企業だと、ストックオプションを出せる。それで社員のモチベーションを上げられるから、これは非上場にはないメリットだよね。ただ、株価が上がらないと意味がないわけ。せっかくストックオプションもらったのに、株価が上がらなくて行使できないまま終わっちゃう気持ち、わかるよね?

野村 はい、実によくわかります(笑)。

亀山 スタートアップが初期メンバーに配るストックオプションは、上場できればバンザイ、できなければ紙くずの宝くじみたいなものだけど、上場後のストックオプションは株価が上がってこそ価値があるし、それも会社の業績と必ずしも連動してないから不安定なわけよ。

 そういう意味では、「上場企業のストックオプションよりもDMMの株のほうが手堅いよ〜!」ってこと(笑)。赤字にさえならなければ上がっていくからね。非上場企業が持株会をやるメリットはそこかな。

 まあ逆に言うと元本割れはほぼないけど、利益の分しか増えないから極端に跳ねることもない。

野村 ローリスク・ローリターンですね。

亀山 大きなリターンがあるとしたら、前回言ったように俺がポクッと死んで会社がどこかに売却されたときだね。そのときは「やったー!」みたいな。

野村 インセンティブがそれでいいんですか(笑)。

連結決算を深掘りすると…


野村 それでも多くの企業が上場を目指すのは、やっぱりスピーディーに資金調達ができるからですか?

亀山 うん、上場はもちろんメリットがたくさんあるよ。いま言ったように最初の資金が少なくても、株主からお金を集めるから大きな事業ができる。融資と違って、それ自体に金利がかかるわけじゃないしね。

野村 反対に非上場の会社の資金調達方法は、やっぱり融資がメインなんですか?

亀山 うん、ほとんどみんな金融機関で借りてやってるよね。俺も当初は信用金庫から借りた。もちろん返済しないといけないし金利がかかる。最近はだいぶゆるくなったみたいだけど、基本は個人保証がつくから大きなリスクを背負う。

 一方でスタートアップの資金調達って実績に関係なく、その起業家に対してVCからお金がつくようなとこあるじゃない。

野村 ええ。逆に金融機関だと「まず3年、黒字を出してください」などと言われがちです。

亀山 だから起業のスピードが全然違うね。ただエクイティで資金調達したら上場を目指すしかなくなる。他の人の投資を受けたからには途中で「やめます」とは言えないし、IPOでもM&Aでも、投資家に出口を作ってあげないといけない。

 他に上場のメリットといえば、やっぱり信用だよね。社会での信用があるから他社との取引もしやすいし、採用もしやすくなる。

野村 社会の公器ですからね。

亀山 非上場のオーナー企業は、言ってみれば独裁国家みたいなものだからね。自由にできるぶん、もし俺がボケて経営判断を誤ったら大変なことになる。だから上場企業のほうが民主的な安定はあるよね。

野村 そのぶん、意思決定に時間がかかるというのはあるでしょうね。

亀山 どっちも良し悪しだけど、最近いろんな上場企業の人と会って本音の話を聞くと、ちょっと窮屈なところはあるみたいだね。

 たとえば、上場を維持する経費も毎年数千万以上かかるらしいから、利益が2億~3億円の比較的小さな会社だと大変だと思う。

 あと、さっき営業利益と純利益の話をしたけど、上場企業だと子会社を持ってることが多いよね。親会社が子会社の株を51%以上持ってたら、子会社の売り上げや営業利益が100%つくらしいんだ。

野村 いわゆる連結決算ですね。

亀山 ただこれが純利益になると、親会社に計上されるのは持ってる株の相当分になる。

 営業利益を目標にしている会社からすると、「子会社の営業利益が丸々つくならいいじゃないか」となるらしいんだ。だから、いろんな上場企業の決算書を見てると、売り上げや営業利益が良くても、純利益があまり良くない会社がけっこうあるんだよ。

上場企業は“化粧”していると心得よ

亀山 だから、会社の健康診断を純利益だとするなら、非上場のほうが健全な経営はしやすいんじゃないかな。

 最近はうちにも、上場企業で役員をやっていた人材が入ってきてくれたりするのよ。彼らの買収提案を聞いていると、明らかに買収のハードルが緩い。

 「これだとこれくらいで回収できます」と言うけど、ちょっと待てよと。「それって税引前の話だよね? 税引後だとこれくらいになるけど」と説明したら、「たしかに」ってなるんだけどね。

 営業利益を重視する上場企業の発想のほうが、基準が緩くなるから、買収はしやすいんだよ。非上場企業は純利益で考えることが多いから、辛(から)めの基準で見ちゃう。何を基準に考えるかによって正解は違うだろうけど、俺はやっぱり、純利益が大事なんじゃないかと思うんだ。

野村 最後に残るのは税引後の純利益だと。

亀山 まあ何が言いたいかというと、上場企業は非上場に比べると、実態より見かけを良くしなきゃいけないというか、世間体や株主のことを気にして化粧を厚めにしないと、美人コンテストで勝てないということだね。

*経済学者のケインズが、株式投資を美人投票にたとえた例より

……まあ、こんなことばかり言ってるから俺、VCや証券会社に嫌われちゃうんだ(笑)。

野村 そうした方々とは逆のことを言っていますからね。

亀山 たまに「DMMと取引すると上場できませんよ」とか言うVCもいるのよ。

野村 そうなんですか!

亀山 いや、それはひどいデマだろうって。別にうちは普通に上場会社と取引してるし。要するに、俺と関わってるとスタートアップに「上場するのやめたら?」と言われそう、ってことだと思うんだけど。こんな感じで、たまに風評被害があるのよ(笑)。

亀山さんが上場したくない一番の理由

野村 上場のほうが、非上場よりも社会的信用があっていいのでは、という見方が一般的だと思っていましたが、そんな単純な話じゃないんだと勉強になりました。

亀山 もちろん、上場のいいところはいっぱいあるよ。証券取引所で鐘を鳴らしたいというのもわかるし(笑)。どちらが正しいというものじゃない。

 ただ、会社の規模によっては上場維持費だけでも大変だし、「自分のやりたいようにできるか」という視点や長期的なことを考えたときに、非上場のままのほうがやりやすいことはあるかなと。

 たまに、大きな投資予定もなくて、資金繰りもこのままでもやっていけるのに「上場してモテたいんですよ」というやつもいるのよ(笑)。

 結局、俺が言いたいのは、世間の中小企業のおやじは、もっと誇りを持って「うちは非上場だ!」と言ってもいい気はするということ。あくまで「上場は経営のひとつの手段」でしかないからね。

野村 あえて意志を持って、本質の経営をやるということですね。

亀山 非上場企業ならではの自由度をフルに使って、長期的な視点での経営をしてほしい。持株会などを使えば社員に資産を還元することもできるし、それが広まれば社会の格差もいくらか減るんじゃないかな。

 流行りの言葉で言うなら、今の資本市場とは違った「新しい資本主義」ができるかもしれないよね。

野村 「DMM流・新しい資本主義」ってことですね。

亀山 まあ、非上場の俺が言ってることだから、半分はポジショントークだと思って聞いてくれればいいよ。実のところ「上場したら公人になって顔を出さなきゃいけないからやだ」ってのが、俺の一番の理由なんだから(笑)。

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