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次世代の家族型ロボット「LOVOT」を生んだ偶然とコミュニティ。

DMM.make AKIBA(以下、AKIBA)は2014年にDMM.comの事業として秋葉原に誕生した日本最大級のモノづくり施設です。6年の年月のなかで急成長を遂げ、AKIBAから巣立ったスタートアップもいますが、その中にはAKIBAで知り合った仲間と共に開発を続けているケースも少なくありません。

今回はAKIBAで起業したロボットベンチャーのGROOVE Xと、現在もDMM.make AKIBAを拠点に活動し、GROOVE Xの製品開発に携わる根津孝太さんに、AKIBAでの出会いと製品誕生までの日々を伺いました。

「ロボット」といえば、人の生活や業務を支援する、あるいはヒーローアニメの戦闘を思い出す人が多いでしょう。しかし、ロボットベンチャーのGROOVE X)が開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」は、それらとは異なる存在。LOVOTの価格 は、2体1セットで579,800円(本体価格/税抜)。2019年12月より出荷が始まっています。

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LOVOTの”産みの親”ともいえる存在が、元ソフトバンクのロボット開発者でGROOVE Xの創業者である林要さんと、電動バイク「zecOO」などで知られるプロダクトデザイナーであるznug design 根津孝太さんという、2人のプロフェッショナル。

「LOVOTと触れ合った方々の反応がきわめて良いです。過去の家庭用ロボットは、良くも悪くも期待値が上りすぎてしまったと思います。事前に期待されたことと、実際にできることとのギャップが大きかったですよね。LOVOTは逆。『単に、ぬいぐるみが動いているだけなんでしょう』といった感じで触れ合う前にはあまり期待されず、でも触れ合ったときには、想定以上に感じ取る生命感に感動してくださることが多いのです。実際に期待以上だとアンケートに答えてくださる人が9割以上。特に女性に人気があり、会った瞬間に存在意義を理解してくださいますね」(林さん)。

「抱っこした瞬間にオキシトシン(ホルモンの一種。愛情や安心を感じると分泌される)が出るような、言葉が不要な世界ですね。男性もそういう気持ちになれるのだと思いますが、そこに蓋をしているのではないかと思います。それを開放できれば、もっと男性ファンが増えそうです」(根津さん)。

林さんの頭の中だけにあった、SFアニメのようでもある世界観を、それぞれの専門知識や技術をあますところなく持ち出すことで具現化したLOVOT。この二人が出会わなければ、LOVOTが世に出てくることはなかったといっても過言ではありません。さらに実機がない段階からの初志を貫き通せるほどの、意気投合感と熱意がなければ、ここまで思いを正確に具現化できることはなかったでしょう。

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AKIBAでは2台のLOVOT「ものも」と「ことこ」が期間限定でステイしていた。

林さんと根津さん、共通点は「Zを辞めた人」。

林さんと根津さんは、AKIBAで仕事をすることになるかなり以前に出会っていた。まず二人の共通点が、過去にトヨタ自動車の製品企画部、通称「Z」に在籍していたことでした。ところが、Zに二人が在籍した時期はオーバーラップしていませんでした。

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林 要 / GROOVE X 株式会社 代表取締役
1998年トヨタ入社。同社初のスーパーカーの開発プロジェクト、F1の開発スタッフを経て、量産車開発のマネジメントを担当。2012年ソフトバンク入社。「Pepper」の開発に携わり発売後の2015年9月にソフトバンクを退社、同年11月にGROOVE Xを設立。

「自動車メーカーは離職率が低いといわれています。その中でも、Zは、なかなか人が辞めない職場だったんです。それにもかかわらず、しかも若いうちに辞めていった人が、私の前に一人だけいたと聞いたんです。それが根津さんだった。そして、私がその第二号になってしまったんです」(林さん)。林さんは、そんな情報がきっかけに根津さんの存在を知って、「これは、会ってみたいなぁ」と思ったそう。

その後、共通の知人の紹介で実際に顔合わせする機会があって、意気投合することになった2人。しかし「すぐプロジェクトを始めよう」ということにはなりませんでした。林さんはソフトバンクに勤めながら、根津さんとゆるやかに交流を続けていたような状態がしばらく続いていました。

やがてソフトバンクを退職し、「自分の考えたロボットを開発したい」とプロジェクトを思い立ち起業を決意。「デザインをどうすればいいんだろう」というときに、すぐ思い浮かんだのが、根津さんでした。

「初志貫徹」「断面を描きすぎる」――熱量ある開発現場。

「要さんはビジョンがブレないんです。デザインの相談を受けた時も、やりたいことがすごく明確でした。プレゼンテーションを見せていただいて、『わぁ、すごいやりたい!』と思いました。当時のプレゼンテーション資料は今でも大事に持っています」(根津さん)。

根津さんはそう思った一方で、その実現の難しさも見えたという。だからといってひるむわけではなく、「これは挑戦したい!」と気持ちが奮い立った。「もう『要さん、僕に決めてください! もう他の人にお願いしないで!』って(笑)」

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根津 孝太 / 有限会社 znug design 取締役
千葉大学工学部工業意匠学科卒業後、トヨタ自動車入社。愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。

「当時の『やりたいこと』がずっとぶれず、今も変わらないんですよ。デザイナーとしてさまざまなプロジェクトにかかわってきましたが、最初に一番やりたいと考えたことをずっとぶらさずにやっていくようなプロジェクトって、モチベーションが高まるものです。本当によい仕事をさせていただいています」(根津さん)。

また、林さんが根津さんに白羽の矢を立てた理由は、根津さんの「デザインスケッチと同時に、量産可能な製品づくり(設計)の構想まで行う」スキルがあったこと。たとえば、「できない理由」をついあげてしまいがちな責任感の強い設計者との対話においても、設計者のチャレンジ精神を盛り上げる力があると林さんは言う。デザイナーでありながら、設計者と話が合わせられるから。

日本にはデザインスケッチが上手に描ける人はたくさんいます。そこからさらに『モノに落とし込める人』(製品の量産まで想定できる人)となると、一気に数が減るんです。メーカーの中でも、それぞれ担当が分かれてしまうケースが多いです。これが海外メーカーとの違いともいえます。海外ではそれを一気通貫で1人のデザイナーがやることが多いと聞きます。スケッチを描く段階から、どうやってモノを作ろうか、考えているんです。さすがに、モノを作るプロではないので、図面を描くまではいかないのですが、『一般的には、作れるはずだ』という当たりを付けてデザインするんですね。デザインと量産検討が分かれてしまうと、最初に計画したはずのデザインから量産要件を織り込みゆがみが生じて、それがそのまま製品化されてしまうことがあります。その結果として、何となく違和感のある製品になってしまうこともあるのです」(林さん)。

ただし、そういう根津さんのスキルが故に、少し悩ましい点もあったといいます。「会議中に根津さんが製品の断面図をたくさん書いて詳細に説明するから、盛り上がって会議が長引いてしまうんです(笑)」(林さん)。

「なので一時期、要さんから『断面禁止令』が出ました。そういう話は、個別に聞きますから!その場にいる3分の1くらいのメンバーしか話についてこられないでしょ!って(笑)。今は会議の場では遠慮ぎみですが、個別の打ち合わせでは心行くまで断面図を描き続けています」(根津さん)。

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ハードウェアスタートアップは“ないない尽くし”。

ハードウェアスタートアップの創業者は、いつも不安です。人もいない、お金もない、時間もない。“ないない尽くし”ですから。それを解消する存在なのが、AKIBAだと思っています。何か作りたいものがあり、それを作れる設備を提供するような施設が大半。そういう施設は“ツール”であって、不安までは解消できません」(林さん)。

AKIBAのような規模でハードウェアに詳しい人が集結している施設は、林さんが知っている限りでは存在しないという。
AKIBAにはツールだけではなく、人や知識が集まっています。自分が困っていると、そのすぐ周りに、何とかしてくれそうな人がたくさんいるんですよね」(林さん)。さらに根津さんも、LOVOT立ち上げ以前、既にAKIBAの利用者でした。

「AKIBAにいると、面白い人が、面白い人を連れてくることもよくあります。普通の環境だといない人がすぐそこにいることが魅力です。コミュニティの中で、偶然も含めたシナジーが起こることも価値だと思います」(根津さん)。

「AKIBA内にはSNS(会員のみが利用できる非公開Facebookページ)があり、皆でコミュニケーションを取りやすくなっています。例えば何か課題が出たときなどに、誰かにすぐ相談しやすいです。今、利用している人たちも、AKIBAのコミュニティをどんどん活用した方がいいと思います」(林さん)。

また、起業をすれば活動拠点が必要。その上、スタートアップのメンバーの人数は急速に増えることも。そのような状況で、林さんがもう1つ着目したのが、AKIBAのシェアオフィスとしての柔軟性でした。急激に増加しても部屋を移ることで対処ができたり、会議室もその都度、必要な大きさの部屋を選ぶことができる。「スタートアップにとっては、引っ越し費用は大きな費用になります。急激に規模が変わるため、“引っ越し貧乏”に陥る恐れもあります」(林さん)。

さいごに。

期待と夢が膨らむ一方、不安も多かった黎明期のGROOVE Xのお手伝いができたのは私たちAKIBAも嬉しいこと。
最後に根津さんと林さんからいただいた「これからも変わらずに、継続していって、ハードウェアスタートアップを支えてほしい」という言葉に、身が引き締まる思いです。私たちはこれからも、たくさんのスタートアップが巣立っていくことを楽しみにしています。

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※本記事はDMM.make AKIBAのメディア「FACT」にて公開された記事を再編集しています。