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ある砂漠の小さな国の物語(童話)

これは私が5年近く前に糖尿病ブログに掲載した自作童話と挿絵代わりの漫画の再掲です!

昔、ある国のめったに雨が降らない砂漠の真ん中に小さな村がありました。雨が降らないので生活に必要な水を遠くのオアシスまで汲みに行かなければならず、それは面倒なことでしたがみんなは幸せに暮らしていました。

ある日、どこからかやってきたキツネの商人が村で商売を始めました。「さぁ、いらっしゃい、いらっしゃい!美味しい甘いお水だよ!これさえあれば、わざわざ遠くのオアシスまで水を汲みに行かなくてもいいんだよ!?」 村のみんなはその甘い水を試しに飲んでみると、これまで飲んだこともないぐらい甘くておいしかったのです。みんなすっかり夢中になりました。 「俺にもその甘い水をくれ!」「これから毎日買いに来るよ!」みんなは喜んで甘い水を買い求め、キツネの商人のお店も大繁盛です。

キツネは最初、甘い水をとても安い値段で売っていたのですが、もっとお金が欲しくて水を値上げしても相変わらずたくさんのお客がそれを求めて店に押しかけました。 しかも、1人のお客が買う量はだんだん増えていきました。


ところが、奇妙な病気にかかる者が出るようになりました。 やたらとのどが渇いたり、しょっちゅうお手洗いに行ったり、目がかすんでよく見えなくなったりするのです。 するとキツネの商人が「それはこの甘い水を飲む量が足りないと起こる症状なのです。さあ、もっとたくさん飲んで病気と戦うチカラをつけてくださいよ」と言いました。

キツネの商人の店の横にはタヌキの商人のお店が建ちました。タヌキの商人は「甘い水と一緒にこの秘密の薬草を飲めば、さらに病気が早く治りますよ」と言って薬草を売りました。 人々は甘い水と薬草に大金を払いましたが、病気になる者が一向に減らないので内心誰もが「おかしいな…」と思い始めました。だって以前はこんな病気にかかる者はいなかったからです。

そんなある日、フクロウのおじさんが大発見をしました。なんと、美味しい水がたっぷりたたえられた泉を発見したのです。 「あの泉に行けばタダでおいしい水が飲めるし、もうのどが渇くこともないよ」と呼び掛けてみたのですが、泉に向かったのはごくわずかな者だけでした。

ほとんどの村の者は「こんな水はただの水だ、甘い水と比べたらまずすぎて飲めやしないぞ!」「ただの水に病気を治すチカラなんて存在しない!この甘い水と薬草こそが病気を治してくれるんだ!」と言いました。 ですが、泉に通い始めた者たちの病気がどんどん良くなっていくのを見て「僕も」「私も」と少しずつ泉に通う者が増え始めました。何しろ、無料ですし!

「ちくしょう!これじゃオレたちの商売あがったりじゃねーか!よし、どうするか見ていろよ!」キツネは「甘い水が体にいい、ただの水を飲む者は病気になる」という内容のチラシを大量に印刷し、カラスにお金を払ってそこらじゅうにばらまいてきてもらうようにお願いしました。

そしてタヌキは夜中にこっそり泉に毒を入れようとしました。泉の水を飲んだ者が病気になれば、みんな泉の水は危険だと思うと考えたのです。しかし、こんなこともあろうかと見張っていたフクロウたちにつかまってしまいました。

そうこうしているうちに、とうとうキツネとタヌキまでがあの奇妙な病気にかかってしまいました。村の者たちは、キツネとタヌキの病気が良くなるかどうかじっと観察しました。 ところが…そのうち、キツネもタヌキも姿を見せないようになり、「私は甘い水と薬草のおかげでとても元気です」という貼り紙が入り口に貼られるようになりました。

次第に村の者たちは「こんな貼り紙、信用できないじゃないか」「本当に元気になったのなら姿を見せてみろ」と中に向かって叫ぶようになりましたが、返事はありませんでした。 ある日とうとう彼らは村から姿を消していました。後には、空っぽの甘い水の空き瓶と薬草が入っていた袋、そして空き店舗だけが残されていたのでした…

村の者たちは泉のそばに引っ越し、病気だった者もすっかり回復して、またみんなで元気に楽しく力を合わせて暮らすようになりましたとさ。めでたしめでたし。


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