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映画レビュー四十二本目「ポランスキーの欲望の館」

シドニー・ローム、と聞いて反応出来る人は、大体が既に年金受給者の筈。
または、私のように相当な早熟、マセガキだった男の子。子って。
映画熱が突然勃発した小2の頃から、映画雑誌「スクリーン」と「ロードショー」を毎月定期購読していたワケですが、確か取り始めた最初の号の「ロードショー」の表紙が彼女でした。
何故おぼえているのかと言うと、何の映画に出てる人だか分からない(小2の知識では)のに、表紙?という、この疑問もまたマセガキ。
そして、アクション映画好きの両親に連れられて家族で観に行った「ポール・ポジション」で、彼女がインタビュアーで出ていることを知るワケです。
いや、この記憶は捏造です。「ポール・ポジション」はカークラッシュシーンしか覚えてません。
そのショッキングさと、帰宅してから寝込んで学校を休んだことは覚えてます。

そんなシドニー・ロームが「ポール・ポジション」から遡ること4年前、1972年に主演を務めたのが本作。
製作;カルロ・ポンティ、監督;ロマン・ポランスキー、W主演;マルチェロ・マストロヤンニ。
そんな超豪華メンツで作り上げた映画なのに、内容は軽いエロコメです。
70年代のヨーロッパ映画によくあったスタイルですね。今ならR指定っぽいですが、当時は小学校低学年でも鑑賞可能でした。治安が思い知れますね。
まぁ、今作は日本未公開のビデオスルーでしたが。
ポランスキーについても細かく書きたいところですが、あまりにもヤバい話ばかりなので割愛。
まぁ、これはアレで騒がれた後の血みどろ映画「マクベス」で大発狂した次の作品だったので、製作のカルロも「俺の別荘を使って好きに撮りたまえ」とリハビリに撮らせた気がします。
本人もメインキャストで出演して、楽しそうにやってますし。

お話は、ヒッチハイクで欧州を旅している若い娘ナンシー(シドニー)が、何台目かの車の男たちに襲われそうになり、日記帳だけを抱えて逃げ込んだ先が、全てが不条理で仕上がっているような変態紳士アレックス(マルチェロ・マストロヤンニ)の豪邸だった...
というもの。

本当に、本当に、つまらない作品。
けど、「つまらない」と「面白くない」は別。
『ラ・ラ・ランド』は「面白くない映画」、これは「つまらない映画」。
その違いは、どこかにグッと来る画が沢山盛り込まれている点と、話の滅茶苦茶さが、例えば誰かが「臭い!」と叫んだモノを嗅ぎたくなってしまう心理を突く点。
どうでもいい展開の一つ一つが、一瞬ポーズボタンを押して見てみると、まるで絵画的であるという点。

例えば、ナンシーがアレックスに「翌朝早く起こせ」と頼まれるも、部屋が知らない観光客夫婦に占領されて浜辺に追い出され、持ち出してきた目覚まし時計をセットしようとするも、見事にバラバラに壊れて途方に暮れて眠るカット。
これがまるで、80年代後期の北欧映画のように美しい。
シドニー・ロームの演じるヤンキー娘のスレ感と相まって、一瞬の安堵感を与えてくれる。

こういうカットが挟み込まれているので、話を追うだけではダラけていても、時折目を奪ってくれるのは嬉しい。
そこからナンシーがどう出るのか、その終わり方はとりあえず良い。とりあえず。



余談として、プロデューサーとして有名だったロバート・エヴァンスは、ポランスキーに次作「チャイナタウン」を撮らせると決まった段階で、ポランスキーが作品の映像化権を50%掌握していると知り、この「...欲望の館」が成功したら「チャイナタウン」の監督としてのギャラを、興行成績がどうであれ封切りの初週で支払うと持ちかけ、ポランスキーもその旨を呑んだ
けど結果惨敗。
...何故エヴァンスは賭けに出たのか?
それもまた、時代的。
こんなZ級エロコメが世界的に当たってたってことなんだろうね。

あと、カルロ・ポンティが別荘全面開放で撮らせたのは、その後添い遂げた大女優、ソフィア・ローレンとの再婚が上手く行った勢いで酔ってたからだと推測。
たぶん合ってる。

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