コンビニで考えさせられた〝余白〟の効果
今月、僕は不思議な体験をしました。
ATMを利用するために入ったコンビニ。何気なく店内を回ってみたら、ふと気になるものを見つけたんです。
「あれ?」
思わず手に取ったそれには、ペットボトル飲料にはあって当たり前の〝あるもの〟がない……。
ほら、ラベルがないでしょう。
シールは貼ってあるけど、そこには小さな文字で「伊右衛門」という商品名と、さらに小さな文字で原材料と製造元が書いてあるだけでした。
新商品か限定商品だと思うけど、ポップの類はなし。
つまり、売り文句はなかった。そして、喉が渇いていたわけでもなかった。
しかし……。
僕の購買意欲はライジング📈
普段の仕事で、言葉を操って人の心を動かそうとしている僕としては不思議な感覚でした。
だって、言葉がないことで〝逆に言葉を想像させられた〟のだから。
ラベルがないってことは 「 」
僕は、カギカッコの中を補完させられたんです。
ラベルがないってことは、剝がす手間が省ける。
ラベルがないってことは、環境にも優しい。
ラベルがないってことは、ほかと比べて目立つ。
ラベルがないってことは、お茶の緑が引き立つ。
また、ラベルがない=商品名を大々的に打ち出していないとも解釈できる。ってことは、中身で勝負!という意気込みがあるのではないか。
などなど。
もしも、ポップがあって売り文句が書いてあったら、ここまでの想像はせず、購買意欲は少ししかライジングしていなかったでしょう。
ポイントは「ラベルがないってことは?」と、謎かけを仕掛けてあげること。
相手に〝余白〟を想像させる。
ここまで書いて、僕は過去に携わったあるVTRを思い出しました。
主人公は、東日本大震災で被災した農家さん。津波で家族を失い、畑も失い、生きる気力も失いましたが、ある日、夢枕に立った奥さんが怒っているのを見て、再起を決意したというストーリーです。
頑張ることに疲れたときは家族に会いに行きます。
その墓参り。
ディレクターさんは、思い切った編集をしてきました。
「 」
「 」
「 」
「 」
(手を合わせたまま動かない)
「 」
「 」
「 」
「 」
長い、長い、長い、長い〝間〟
最終的には大幅にカットしてしまったんですが、最初の試写で見たときのことが忘れられません。
あの沈黙に、余白に、カギカッコの中に、僕は主人公と家族の会話を想像させられました。
VTRを放送してから9年、僕はまだ余白を使った演出がうまくできていません。いつか、きっと。
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