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Da Grassroots - Passage Through Time (1999)

 カナダのプロデューサーチームDa Grassrootsがリリースした最初で最後のアルバム。Da GrassrootsはMr. Attic、Mr. Murray、Swiftの3人組で、1995年にリリースしたシングル"Drama"でデビューを果たした。この"Drama"の中で、彼らは「どうぞ2枚使いして下さい」と言わんばかりの楽曲の構成、洗練されたサンプル、そしてそこに組み合わせる声ネタのセンスの良さ(Beastie Boys)という絶妙のコンビネーションを繰り出し、イントロが始まって僅か10秒でヒップホップファンをノックアウトしてみせた。リリース直後から大きな話題となったこの曲は、25年経った今もなお多くのDJにプレイされ続けている。間違い無く90年代のアンダーグラウンドヒップホップを代表する名曲の一つと言えるだろう。

 そんな彼らが満を持してリリースしたフルアルバムが、このPassage Through Time (1999) だ。作品にはカナダから10組を超えるアーティストが参加し、カナダのヒップホップのコンピレーション的な作品となっている。そのためか、ビートだけでインパクトを与えるというよりは、どの曲もラップを軸に据えた仕上がりとなっている。楽曲の構成だけでなく、サンプリングソースのチョイスやビートの鳴りも控えめだ。いずれの楽曲もインストだけでは"Drama"のような強い印象は残らないだろう。だが、自らを脇役に据えるという方向性が作品全体に統一感をもたらし、結果としてアルバムが高い評価を得ることに繋がったのだと思う。

 サウンド面では、全体的にジャズやそれに近いジャンルと思われる音源からのサンプルが多く、その点では、ちょうどこの作品がリリースされる時期に活動を始めたSound Providersにも通じる部分がある。彼らの作品群とこのアルバムを聴き比べると、自分達のサウンドを全面に押し出すSound Providersとのスタンスの違いが感じ取れて面白い。

 また、シングルカットされた"Price Of livin'"と、同じサンプリングソースを用いているSoul Scream "君だけの天使"との聴き比べも楽しい。メロウで心地好い極上のネタだけど、"Price Of Livin'"はかなり引っ込んだ感じで鳴っていて、ラップの邪魔にならないよう心掛けている印象を受ける。”君だけの天使”では、このメインループの鳴りがより強調されているが、だからと言って決してネタ頼みではなく、楽曲の構成に合わせた展開が上手くはまっている。プロデュースはRhymesterのMr. Drunk (a.k.a. Mummy-D)。Da Grassrootsに先駆け1996年にリリースされた。

 残念ながら、このアルバム以降Da Grassrootsの作品はリリースされていない。個々の活動としては、この作品で最も多くの楽曲を手掛けたMr. Atticが、その後TermanologyやToraeなどのアルバムに参加している。また、メンバーのSwiftは一昨年2018年の7月に癌で亡くなった。

Da Grass Roots Music - Drama feat. Elemental (1995) prod. by Da Grass Roots Music

Da Grassroots - Thematics feat. Arcee (1999) prod. by Mr. Attic

Da Grassroots - Price Of Livin' feat. Mr. Roam From The Plant (1999) prod. by Mr. Attic

Soul Scream - 君だけの天使 (1996) prod. by Mr. Drunk


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