あゝ筋肉
…筋肉信仰、あると思います。
現代社会において、肉体的強さなんてものは、
もはや飾りでしかない。
マッチョだろうが、ガリガリだろうが、
さしたる権力には直結しない。
世間において、多くの場合あんまり意味がない。
学生時代はずっと運動部、ガタイの良さだけ一丁前の私は
ロンリーライフを極め、私の友人K君は、ぽっちゃり小兵ながら
幸せ掴んで楽しくやっている。
そう、「筋肉=モテる」なんてものは、所詮全くの幻想である。
しかし私のような阿呆は、どうしても筋肉の可能性を信じてしまうのだ。
そんな私が一時期「脳筋」となって、ハッとした時のことを、
ふと思い出した。
当時、私は悶々としていた。
いつも通り自室に篭り考え事をしながら、天井のシミを数える
陰湿なルーティンを、淡々こなしていた時のこと。
内に沸々湧き上がる衝動に、私は跳ね起きた。
モテてぇ!
好きなあの子に好かれてぇ!
なれば、私は「ステキ」にならねばならぬ。
では素敵な人間とは何であろうか。
その尺度も感性も、人によって異なる。
顔がよい、金がある、優しい、ちょっと意地悪、
いろんな魅力があり、確かに千差万別だ。
だがその傾向の大小たるは、残酷ながらも存在している。
だからこそモテの兵法などが、数多く書籍化されたりしているのだろう。
そう、なんだかんだ言って結局、イケメンこそ最強なのである。
イケメンにはどう足掻こうと勝てっこない。
いやしかし、光る未来をこの手に掴むため、
我ら雑兵なれど、やらねばならぬ時がある。
凡ゆる手段と努力を講じ、なさぬ限りは死せるのみ。
ブサイクよ立ち上がれ!立ち上がるしか道はないのだ!
無情にも、その力は絶大である。
草木の如くへし折られ、志半ばで潰えた同志も少なくない。
震える身体を鼓舞して立ち上がれども、
尚も圧倒的な力量差が、これでもかと喉元へ突き付けられる。
マズい、このままではメゲてしまう、ショゲてしまう!
なればこそ、
ここにおいて真に平等で、確実な手法とは、我等に眠る、可能性とは。
そしてややおかしな視点から、この牙城を切り崩さんと、
革命の糸口を捻り出したものが、ここに1人。
誰にも宿り得る、そして多少なりは最低、武器になり得る絶対的概念。
そうか、筋肉だ!
筋肉は、信じたその日から、その身に宿る。
というよりすでに皆に宿っている。
教義はない、制約もない。
結果として与えられるバルク(筋肉量)のみが、そこにある。
筋肉は我らと常にともにあるが、筋肉は何も助けてくれない。
我らはただ祈り(筋トレ)、捧げる(タンパク質)のだ。
筋肉は己の上腕、胸、脚、全身に佇み、静かに我々を見守る。
我々は決して一人じゃないよ、そう語りかけるように…。
僕らはそこにあって、そこにないんだ…
君が願えば必ず応え、願わなければひと時去るのみ…さ
おお筋肉、なんと慈悲深いのか筋肉よ、ありがとう。
私はお前がついてくれるなら、きっと頑張れる。
きっと君が、いずれあらゆる問題を、解決してくれる。
筋肉は決して偉大ではない、だが筋肉は誰にも平等だ。
同時に、筋肉は私そのものであり、友だ。
あなたにとっても、筋肉はあなたそのものであり、友である。
筋肉こそ、世界平和ではないか。
なんと!なんと筋肉!素晴らしい!
みんなで祈り(筋トレ)を捧げよう!ペイス!
でも筋肉ってば寂しがり屋さんだから、
定期的に愛(乳酸)を与えてやらねば、すぐに私を去ってしまうのだ。
君には…僕がついてるよ…(圧)
ウォォン!そうはさせぬ!
君が私を愛してくれるように!私も君を愛そう!
もう君を悲しませるようなことはしない!!
(挙重)(節制)(サプリメント)
優しく、厳しく、平等で、誰にも分け隔てない我らの筋肉は、
祈り(筋トレ)と愛(乳酸)と捧げもの(プロテイン)の日々で、
着実に形となり、熱き願いはその身に現れ大きく実る!
誰であっても、程度はあれど、必ず実る!
おお筋肉!筋肉最高!
時に圧倒的パワーとなりて、場合によってはモテとなり!
人は!その威光に平伏すであろう!アナボリック!
おお筋肉!ありがとう!
我々はあなたがいてくだされば、それでいい!
最早何もいらない!この身朽ち果てようと『負荷』をあなたに捧げよう!
だから私を支えておくれ!ずっとそこにいて頂戴、おお私の人生!
…あれ?
なんだこれ????
そこで私はハッとした。
マッチョが一部で激しく嫌われる理由を、やんわり理解した。
そしてちょっと冷静になって、
ものすごい無理して筋トレしてたのに気づいちゃった。
そうして程々の筋トレに、落ち着くのだった。
でも私ってば結構、素養あるのかもしれない。
でも体調を崩すほどの我慢とノルマを課して、
モテるかもわからない努力に命をかけようなど、
立派かもと思う反面、なんか違う気もする。
…まぁ、程々がいいよね!
これも人によるけれど。
そもそも何かのお陰で得たものなんて、
それが無くなったら同時におしまいじゃないか。
モテ、ひいては人生の主軸に置くべきではない、と、
個人的に感じた出来事であった。
もちろんこんな様に、鍛錬を通して学べることもある。
だが、筋肉はあくまでその人の、素敵なオマケのようなものと思う。
その人の全てではない。
筋肉とは、その人を強固にする鎧である。
はき違えぬよう、生きていきたい次第。
でも筋肉は、良いものだ。
縋るのも、大いに、アリ。
…パワー!
というところで、
最近筋トレをサボりがちな私への戒めとしたい。
因みに私は、未だ一つもモテやしない。
大変、世知辛い。
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