雨の日

いつも会社へ行く手段として自転車を使っている。

自転車は良い。なんせ気持ちいい。
昔から大好きだった。

力一杯にペダルを踏んで、風を切って進めば
夏の暑さも関係ないのだ。

一人が好きな自分にとって
自転車は最高の乗り物であり、相棒ともいえる。

会社に行きたくない朝も、
なんとか頑張って仕事を乗り切った夕方も、
お腹が空いたけど冷蔵庫が空っぽな夜も。

サドルに跨がれば「よし、行くか。」と
前に進むスイッチが入るのだ。

目的地に向かって一直線に進んでくれる。
車輪が地面を滑る音も心地良い。

そうやっていつも最短距離で自分を後押しくれる自転車に、僕は絶対的な信頼を寄せていた。

しかし今日は違った。

珍しく朝から大雨が降っている。

さすがに自転車には乗れない。くーっ。

こんなのは初めてだ。

仕方なく会社までいつもの倍の20分をかけて、
傘を差して別ルートを歩くことに。

思った以上に強い雨だったので、
革靴を濡らさないように、
なるべく足元に注意して歩いた。やはり雨は嫌いだ。

目の前で滝のように流れる雨水に鬱陶しさを覚え、
全身を濡らさないように神経質に歩く。

しかし最悪なことに信号に差しかかった。
赤色が青色になるまで、
雨を受け続けなければならない。

しかもこの信号は青になるまでとても長いのだ。

あー革靴に雨が染みてくる。困ったな。
防水スプレーしておけばよかった。

気になって足元を見ると、
革靴のすぐそばのコンクリートの割れ目に、
赤く小さな花が咲いていた。

大量の雨で小さな花びらが大きく揺れている。

傘も差さずにひとりぼっちで濡れているその花を見ると、自分よりもかわいそうじゃないかと感じた。

そういえば今日は雨だけど、昨日は暑かったな。
あの炎天下でたった一人、踏ん張っていたのか。

想像を膨らませるうちに、その花が愛おしく見えてきた。名前がわからなかったのが悔しい。

大量の雨のシャワーが、控えめに開いた花びらをキラキラと照らしている。受け止めきれなかった一粒の水玉が、か細い花びらからぽとんと落ちた。

ひとしずく、ふたしずく、ぽとんぽとん。

赤く染まった花びらから滴り落ちる雨粒。

綺麗だな、と思った。

何度も信号が青色から赤色に、
赤色から青色に変わっていたのに
僕はしばらくその花と、零れ落ちる雨粒を見つめていた。革靴はとっくにびしょ濡れだ。

でもそんなことはもうどうでもよかった。

自転車も好きだけど、自分の足で歩くと
素敵な景色が見えるじゃないか。

美しさを求めて色々なものを探し求めるけれど、
実は足元にあったりするじゃないか。

そんなことに気づけた、なんかいい1日だった。

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