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『哀れなるものたち』ポスターデザインに見た「博士の異常な愛情」のパブロ・フェロ

ヨルゴス・ランティモス監督『哀れなるものたち』のポスターデザインのフォントを見て、グラフィックデザイナーのパブロ・フェロを感じた。

『哀れなるものたち』(2023年)

パブロ・フェロとは、キューバ系アメリカ人の著名なグラフィックデザイナーである。彼の代表作としてよく語られるのが、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』だ。

『博士の異常な愛情』(1964年)
画像は「Art of the title」より

このように『博士の異常な愛情』では、手書きで細く、縦横の比率を変えた字が特徴となっている。彼の作品には似たような手書き風フォントを使ったものが多数ある。そうでないものも含め、代表作をいくつかご紹介したい。

『ストップ・メイキング・センス』(1984年)
画像は「Art of the title」より
『アダムス・ファミリー』(1991年)
画像は「Art of the title」より
『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(1997年)
画像は「Art of the title」より
『メン・イン・ブラック』(1997年)
画像は「Art of the title」より
『BONES ボーンズ』(2001年)
画像は「Art of the title」より

ここでもう一度『哀れなるものたち』のポスターをご覧いただきたい。

線の細い手書き風の文字で縦横比率を変えるという、パブロ・フェロ作品の特徴が見てとれる。日本語版ポスターも英語版に合わせてフォントが変形しており、「れ」の崩し方などは素人目に見ても素晴らしいと思う。

『哀れなるものたち』(2023年)

そんな類似点があったことで『哀れなるものたち』からパブロ・フェロを感じた訳だが、残念ながら彼は2018年に亡くなってしまっているので、本作は彼の作品ではない。

このデザインを担当したのは、これまでも多くのヨルゴス・ランティモス監督作品に携わってきたギリシャのグラフィックデザイナーVasilis Marmatakisだ。

Vasilis Marmatakisデザインのポスター
いずれもヨルゴス・ランティモス監督作品

Marmatakisは1990年代にロンドンのキャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツとロイヤル・カレッジ・オブ・アートでグラフィックデザインを学んだ後、広告代理店に勤めている時にヨルゴス・ランティモス監督と出会った。

MPA (Motion Picture Association)の運営するWebメディア「The Credits」のMarmatakisへのインタビューによると、ポスター作成にあたっては監督から特に指示があるわけではなく、2~3ヵ月ほど自分のスタジオで作業をして、自分の中で完成に近いものを監督に直接会って提案する流れだという。その際にPC画面で見せたり、メールで送ったりするのではなく、70x100cmの用紙に印刷して見せるようにしているとのことだ。

『哀れなるものたち』では12種類のポスターがデザインされ、その内の1つか2つについてヨルゴス・ランティモス監督が細かい変更を提案し、それが最終的にプロデューサーへと提示された。

Marmatakisは同インタビューの中で次のように語っている。「ポスター制作にあたって最初に手掛けるのは、映画のタイトルです。どんなタイポグラフィを使うかは慎重に決めなければなりません。『哀れなるものたち』では、各章にモノクロのシークエンスが含まれているので、その背景で起こっていることを見えるようにするために、細いフォントを使う必要がありました。非常に細くて長いフォントが使われているのは、そのためです。」

彼が意図したように、
フォントの線が細いお陰で背景がよく見える

Vasilis Marmatakisの口から直接「パブロ・フェロ」について言及した記事は見当たらないので、『哀れなるものたち』のデザインにあたってオマージュを込めたかどうかは定かではない。ただ筆者のように「オマージュかもしれない」とテンションを上げることは個人の自由であるので、今後も彼の作品には注目していきたい。

『哀れなるものたち』に加え『女王陛下のお気に入り』のポスターについてもインタビューで語っているので、興味がある方は(英文記事だが)ぜひ読んでいただきたい。

※上記の記事のトップ画像も、Marmatakisが『哀れなるものたち』のために制作したフォントでデザインしたもの

▼Vasilis Marmatakis

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