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219 世界の15歳


はじめに

2022年に実施した学習到達度調査の結果が出ました。この結果は、今後の教育の課題を明確にする上で重要な指標の一つとされています。
今回、最新の結果が12月5日に発表されたわけですが、結果として日本の成績は全ての科目において順位が上昇しました。今回の調査は、世界81カ国・地域の生徒69万人を対象に2022年に実施したものですから、日本が世界の中でどのような教育水準にあるのかを部分的ではありますが見定めることができます。
今日の教育コラムでは、この調査の結果について少しお話してみたいと思います。

PISA

「PISA(Programme for International Student Assessment)」は、OECDが中心となり実施している国際的な学習到達度に関する調査の名称です。
義務教育修了段階の15歳の生徒(日本では高校1年生)を対象に、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る目的で、「数学的リテラシー」「読解力」「科学的リテラシー」の3分野について、2000年から3年ごとに調査を実施しているものです。

2022の結果

新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期されていた調査が、2022年に本調査を実施しました。この調査では、3分野にわたるリテラシーを測るだけではなく、学習到達度との関連性を分析する「生徒質問調査」と、デジタル機器の利用状況について尋ねる「ICT活用調査」が行われました。
日本の得点は、数学的リテラシー536点(OECD平均472点)、読解力516点(OECD平均476点)、科学的リテラシー547点(OECD平均485点)という結果でした。これを順位にすると全参加国(81か国・地域)中の順位は、数学的リテラシーが5位、読解力が3位、科学的リテラシーが2位となります。

日本の順位の推移
〇読解力
全参加国・地域中で2000年8位、2003年14位、2006年15位、2009年8位、2012年4位、2015年8位、2018年15位、2022年3位と過去最高の水準となったことがわかります。

〇数学的リテラシー
比較のできる2003年からの順位の変動を見ると2003年6位、2006年10位、2009年9位、2012年7位、2015年5位、2018年6位、2022年5位となります。

〇科学的リテラシー
比較できる2006年以降をみると、2006年6位、2009年5位、2012年4位、2015年2位、2018年5位、2022年2位となります。

3分野すべてにおいて世界トップレベルとなったわけです。また、OECD加盟国(37か国)では、数学的リテラシー1位、読解力2位、科学的リテラシー1位という結果でした。

考察

今回の日本の結果について見ていくときに、他国の平均の下降傾向を考慮に入れる必要があります。
これは、新型コロナウイルス感染症のため休校した期間が関係しています。日本は、新型コロナの蔓延状態であった2019年から2020年にかけて他国に比べて休校していた期間が短かったのです。
感染状況の厳しかったヨーロッパの国々では、休校による学習単元の未修状況があり、それが今回の結果に影響した可能性があるのです。
ただし、そうした外的な要因だけではなく、学校現場では前回の大幅な順位の下降を真摯に受け止めた現行の学習指導要領を踏まえた授業改善が進められてきました。また、学校におけるICT環境の整備がギガスクール構想の前倒しにより進んだことも生徒が学校でのICT機器の使用に慣れることにつながりました。こうしたさまざまな要因も、結果として日本の順位を好転させた要因だと言えます。

読解力の教科は全ての強化に

文部科学省は、前回のPISAの結果で日本は読解力の順位が15位ということで、その低さに多くの人が衝撃を受けました。この結果を受けて読解力の強化を指示していました。具体的には次のような指導の方針を示しました。

・読解力を支える語彙力の強化(例:学習指導要領における語彙指導の位置
 付けの明確化、読書活動の充実など)

・文章の構造と内容の把握、文章を基にした考えの形成など、文章を読むプ
 ロセスに着目した学習の充実(例:文章の構成や展開について記述を基に
 捉える学習、文章を読んで理解したことを基に自分の考えを深める学習の
 充実など)

・情報活用に関する指導の充実(例:比較や分類など情報の整理に関する指
 導の充実、実用的な文章を 用いた学習活動の充実など)

・コンピュータを活用した指導への対応 (コンピュータ上の文章の読解や情 
 報活用に関する指導の充実)

こうした指導の方向性は、結果としてに入学試験の内容に影響を与え、その結果、各学校での定期試験問題などにも変化を与えました。
そして、日常授業では文章や資料、グラフを読み取る力を培う指導や読み取った内容を基にまとめる力を高める時間が授業の中で取り上げられるようになってきているのです。
また、国語以外の教科の指導でも語彙の獲得を意識した授業が行われています。わからない言葉や意味のはっきりしないものを調べる時間や教える行為が定着してきています。語彙の獲得は、文章の意味を理解する上で重要なわけで、他教科でも意識している点が高い効果につながっているのです。
今回の調査は、新型コロナの影響が顕著に表れているわけですが、次回の調査では、やはり日本の順位はまた降下してしまうのでしょうか。結果を左右するのは、やはり読解力ということになるのではないでしょうか。

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