見出し画像

268 九九

はじめに

小学2年生の算数の山場と言えばいくつかありますが、中でも学校の先生があの手この手で頑張って教えるのが「九九」でしょう。そんな九九の学習の仕方について今日の教育コラムでは少しお話してみようと思います。

九九って大変なんです

九九は少し、算数の中でも面倒な学習の一つです。様々な問題の中で掛け算を用います。また分数では公約数や公倍数などを考える場面もありますし、その際に九九を使いこなす必要が出てきます。
ですから、数学で大切な概念の理解とぱっと使える暗記の2つの理解をしておくと便利という側面があるのです。算数も数学も基本的には概念の理解が重要で、それがなければいくら公式を暗記していても一定レベル以上の問題は解決できません。そもそも数理的な思考が楽しいのであって暗記を楽しむものではないのです。
そのため授業では九九の概念を理解することに時間を割くことが多くなります。そして、時間がない学校では、暗記の部分を個人の努力や家庭学習に任せるのです。ですからたまに九九ができない、覚えが悪い子どもはもっと家庭で練習させてくださいといった具合になってしまうのです。

九九でつまずく原因

九九でつまずくことが多い点は様々ですが、先ほども言ったように概念として理解していればいいはずなのに、その後の計算に使う内容であるために速さを気にして九九の暗唱をする学校が多くあります。それまでは思考力、数理的な操作などを重要視してきたのにいかに正確にそして余計なのが、速く答えることができるかという指導方法をとるために、ただでさえ小学2年生には暗記の量が多い内容なのに高いプレッシャーをかけることになるのです。その中で81個も語呂合わせを暗記しなければならなくなるため、取り組みづらいと感じ、算数への苦手意識が芽生えてしまうことも少なくありません。だからこそ、いかに賢く覚えるかという工夫をさせてあげることが重要なのです。数学では、初めてに近い暗記する内容かもしれないこの体験をどうやったら楽に上手に覚えられるかという観点で工夫させることこそ学び方を学ぶ大切な視点なのです。

早く言えるとわかるは別の話

九九は、特に現代の子どもたちには珍しい数字の言い回しが多く、言いにくいですし覚えにくいです。そもそも昔の人が工夫して覚えるように使っていたものですから、同じ数字でもいろいろな読み方をします。
例えば、3の段では「さざんが9」「さぶろく18」など、同じ「3」でも「さ」「ざん」「さぶ」といった具合に色々に読みます。
他の数字でも同様に馴染みのない読み方がたくさん出てきます。そこに戸惑う子どもも多いことでしょう。書いて答えてもいいし、口答で応えてもいいし、ましてや10秒、1分などと時間を設けて言えるか言えないかを問うなんて考え方は、たぶん数学の本質的な面からみたら必要ないのです。むしろ、そこでできたできないの劣等感を感じるようならそうしたゲーム性なのか、目標設定なのかわからない要素は不必要なのでしょう。子どもたちが戸惑ってしまうだけです。
早口言葉が得意なことを見抜くなら別ですが、数学に速さが必要なのではなく、試験に速さが必要なことを九九が早く言えるようになることで補うのもまた筋違いな話です。数学の試験が解き切れるか解き切れないかは、九九の速さぐらいでは埋めることはできないと言い切れることは誰もが共通の理解の範囲なはずです。

6の段以上は暗記しなくても平気

九九を早く言えない子どもたちに朗報です。6の段以上については、暗記が不十分になりやすいです。6の段以降の九九は、それまでの段で出てきた計算が多いため、たとえば「8×3」を「3×8」と考えれば答えはおなじですし、掛け算は掛ける数と掛けられる数を入れ替えても同じ答えになるという大切な考え方を学べます。中学生になったら文字より前に数字を書くといった決まりもあったり、さらに順番は大した問題ではなくなります。
実は、8×5と言わずにそう書いてあっても5×8と考えて又はそう言って答えることができるというのは、九九をとても深く理解している証拠でもあるのです。
よく九九をはじめとした基礎的な計算は、できるだけ早くできるように公式や計算のパターンを暗記した方が後々の算数や数学でつまずくことが減るため、覚えてしまった方が良いとよく言われます。
でも、知っておいてほしいのが、「数の処理や四則演算が苦手で、筆算や暗算にはつまずくけれど、数の概念が理解でき、数学的推論や数学的思考ができるタイプ」の子どもたちも多くいるということです。
最後にそうした一例として大変有名な本を紹介しておきます。

『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし』
(バーバラ・エシャム:文、マイク&カール・ゴードン:絵)

この本は、天才の話だから関係ないといった感想を持つかもしれませんが、それは違います。算数や数学に速さを求める風潮や九九を覚えさせる教育法をとっている国がなぜ、世界の中でも少数派なのかという点に思いを巡らせる必要があるのです。考える力をつけること、数学の便利さを感じることをもっと楽しめるような算数や数学の授業を考えるべきなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?