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学校の外に居場所を作る私が、学校内の支援に入る理由

こんにちは。発達障害をはじめ「学校生活に特別なニーズがある子どもたち」を対象にした学習教室スタジオplus+で支援員をしている渡辺です。
私は今年度、スタジオplus+の教室長をしながら、週1回、アウトリーチ活動として市川市内のA中学校の、3年生の数学の授業の補助に入っています。

ダイバーシティ工房※、とりわけスタジオplus+は元教員も多い環境(私自身は教員出身ではありませんが…)ですが、その職員が学校に行くとなると、少し意外な印象を持たれるかもしれません。

ダイバーシティ工房は、スタジオplus+を運営するNPO法人です。
学習教室のほか、保育園、コミュニティカフェ、自立援助ホーム、SNS相談の運営などを通し、地域の0歳~20歳の子ども・若者とその家族の成長にあわせた居場所・地域づくりを行っています。

今回は、スタジオplus+の職員である私が、学校での学習支援が必要だと考える理由について書きたいと思います。


A中学校の「自由進度学習」とは?

A中学校の3年生は、1年時から数学の学習を「自由進度学習」というスタイルで行っています。

自由進度学習とは、今注目されている学習スタイルの1つです。先生が計画する学習内容のフレーム内で、子ども一人ひとりが課題を自己決定し、計画を立てて自分の学習速度で進め、その過程で友達と相互に作用しながら学びを深めていくことを目指します。
参照:https://kyoiku.sho.jp/239588/

自分で50分の授業時間中に取り組む内容と目標を決めて取り組み、振り返りを記入します。塾の宿題を進めても、ワークを進めてもいいし、前の単元に戻って復習するのもあり、音楽を聴いたり、友達と相談したりしながら学習してもOKです。

先生は各教室を巡回しながら、生徒からの質問に答えたり、手が止まっている生徒に声を掛けたり、時にはちょっとしたお話をしたりしています。学習に取り組めていないからと言って注意するというわけではなく、言うならば一人ひとりの課題解決のパートナーといったところです。

他にもA中学校では、全学年定期テストをなくして、単元テスト(小学校のように各単元ごとにテストを実施する)を行う等、先進的な仕組みが取り入れられています。

そんな自由進度学習ですが、中には自習じゃないかと捉える人もいるでしょう。教科書を進める、テスト対策、自分が間違えた問題の解き直し等、その時の自分に合った学習を自ら選択して進めたり、わからない時に友人同士で教え合いながら進めたりできる生徒もいる反面、自分だけではどこから学習を進めればいいのかわからない、何をすればいいのかわからないという生徒もいます。

支援については内部の事例共有会でも話し、よりよい関わり方を模索します

中には1時間すべてサボってしまう生徒や、中学校のみならず小学校の基礎的な内容につまずきがある生徒も。
先生たちも、そういった生徒がどのようにしたら自発的に学ぶことができるかを試行錯誤しており、習熟度別に分けたり、丁寧な解説が必要な生徒に向けて最初に講義を行ってから自由進度学習に進むという形を取ったりしています。

NPOの学習支援スタッフが学校の中へ

工房がA中学校に関わりはじめたのは数年前。
2年ほどは放課後の数学教室という形で、補習の希望がある生徒たちの質問を受けたり、テスト対策のサポートを行っていました。しかし、放課後は部活に励む生徒がほとんど。テスト休みがないA中学校、なかなか参加人数が増えず…

そんな折、実際に自由進度学習を見学させていただくと、生徒がいる3教室を先生2人で巡回しており、生徒たちをサポートする大人が足りないのではないかなと感じました。

一人ひとりの学びを支えるには、わからない時、学習の進め方に困った時にすぐに聞ける人が必要なのではないか。子どもたちが自分に合った学び方を身に着けることができるよう、授業のサポートに入れないかな?と考えるように。そのことをA中学校に相談したところ、数学担当の先生、校長先生や教頭先生のご協力も得て、今年度は晴れて授業のサポートという形で関わらせていただけるようになりました。

学校での「学習支援」の難しさ

授業のサポートに入るようになって約半年、それぞれのクラスにどんな生徒がいるか、誰と誰が一緒に学習しているか、サポートが必要そうなのはどの生徒か等、クラスごとのカラーが見えるようになってきました。

生徒たちも次第にこちらの顔を覚えてくれて、挨拶すると挨拶が返ってくるように。最初は手が止まっているものの、なかなか自発的なアクションがなく、こちらから声を掛けると、ようやく分からないところを教えてくれるといった様子でしたが、最近は困った時にこちらを呼び止めて、質問してくれる生徒が増えました。

中には授業前や授業中に声を掛けてくれて、好きなことや最近あったことを教えてくれる生徒もいます。生徒たちにとっては、先生という立場とはまた違う、話し相手としての存在でもあるのかもしれません。

他のスタッフが学校の出張支援に入っている様子

学校の授業のサポートといえど、行うことはスタジオplus+での支援と変わらないと私は思っています。生徒との信頼関係を築き、どこにつまずきがあるのかを見つけ、一緒に解決していくこと。それを学校という場で、個々の生徒との関わりの中で行っているのかなと思います。

ただ、スタジオplus+の支援と違って難しいところは、単元テストという通知表の評価を決めるためのものさしが彼ら彼女らのすぐそこに迫っており、そこからは逃れることができないという点です。なのでどうしても、基礎の積み重ねが十分にできていない状態で、目の前の学習を進めようとすることが起きてしまいます。

つまずいているところから復習する時間を授業だけでは十分にとれない中、それぞれの生徒が自由進度学習の時間を有意義に使い、かつ学びを積み重ねていくためには、一人ひとりに合わせた関わりが必要です。

「ひとり」を見ることができる意味

中3の数学は因数分解、平方根、二次方程式と難しい単元が並びます。教科書を一度読んだだけでは、よくわからないことも多々。中学校や小学校からの基礎が十分にできていない生徒たちにとっては尚更でしょう。

数学が苦手なある生徒は、基礎を理解するのがなかなか大変そうでした。
平方根の単元テスト2週間前に、ワークを見ながら手が止まっていたので声を掛けると「なんで有理化するのかがわからない」とのこと。原理を一から説明すると、その最中にも頭に「?」がたくさん浮かんでいる様子。基本的な内容から丁寧に確認を行いました。

テスト返却の日、大丈夫かな?と思ってその生徒に声を掛けたところ、満足そうな表情で「ワークを全部やって、計算はちゃんと解けた!」と教えてくれました。

点数的にはまだ十分ではないようですが、個々の学習をサポートできる環境の中で、基礎から丁寧に確認を行った上でテストを迎えたことで、「計算問題は解けた」という本人の成果や納得感につながりました。そして私は何よりも、自分で授業時間中に積み重ねた学習が、苦手教科でも納得の行く成果に結びついて自信がついた様子が見て取れたことがとても印象的でした。

それぞれに得意不得意があり、進度も人それぞれ。
その中でも、自分で決めて取り組んだことに納得できる成果を得ることができれば、次の学習につなげることができる。きっとその生徒は次の単元でも、分からない時には他者の力を借りながら、自分でワークを進めて行くことができるでしょう。
学び方の試行錯誤から成功体験が生まれたのを見て、自分なりの数学との向き合い方を知ることや、今後の学習の取り組み方を考えることに結びつくと感じました。

スタジオplus+が「必要ない」社会をつくりたい

誤解を恐れずに言うと、私は子どもたちにスタジオplus+が必要な場だと思うのと同じくらい、スタジオplus+が必要ないと言える社会になってほしいと思っています。

スタジオplus+の理念は、「子どもたちが一人ひとりに合った学び方を見つけるための場所」です。学校とは違う特別な場で、1:1で自分に合わせた学習を行えて、分からない時にすぐに質問ができる環境はとても大切です。学校がその子にとって苦しい、つらい場であったり、子どもが自分に合った学び方を知りたいと願っていたり…それぞれの子どもたちに合わせた多様な選択肢のひとつとして、スタジオplus+が果たす役割は大きいと感じています。

目標や進め方、教材などを子ども一人ひとりと話しながら決めていきます

けれども一方で、スタジオplus+を利用する前の面談で「学校は楽しく行けてるけれど、授業にはついていけないから」「学校では本人に合ったレベルの学習がされていない」という話を聞く度に心が痛みます。その生徒が楽しく通えている学校、クラスで、本人に合った学習ができないという状況を簡単に見過ごしていいのだろうかと…

本当は「学習のサポートが必要」という理由で特別な場に行かなくても、普段から通い慣れた場で、それぞれのニーズに合わせた学習の支援が受けられる環境が理想なのではないでしょうか。

これまでの一斉授業では、習熟度別の少人数授業等様々な方策をとっても、個々のつまずきの根っこに対応するのはどうしても限界があり、「学習がわからないなら塾へ、あるいは個別のサポートを受けられる場(スタジオplus+も含むが、場合によっては通級、支援級等)」という流れになっていたように思います。一方で、既に理解ができている生徒にとっては、一斉授業は同じことを繰り返すだけのつまらない時間となり、意欲的に向き合えない時間となってしまいます。

多様な学び方ができるインクルーシブな環境とは?

A中学校の自由進度学習の目的は、個々の進度に合わせた学習と、友人と共に学び合う取り組みを通して、一人ひとりに合った学び方を身に着けること。クラスの中には数学が得意な生徒も、苦手な生徒もいます。それぞれの生徒が取り組む内容が違っていてもいいし、テストはあるけれど、自分が納得できる成果が違っていてもいい。生徒がお互いに助け合い、理解を高めていけばいい。誰かと比べるものではなく、自分の将来のための学習を目指しているように思います。

多様性のあるインクルーシブな学校というのは、本来そういうものなのではないかと私は考えています。でも、今の学校はやらなければならないことがいっぱい、様々な事情を抱える生徒がいて、個別の対応が求められ、先生たちも時間に追われています。また高校受験という一大イベントも差し迫っており、生徒一人ひとりに合わせた学習をしたいと願っても、その役割を先生たちが担うことが難しいというのも重々承知しています。

そういった中で、工房、スタジオplus+が「地域の専門職」としてアウトリーチし、個別の学習サポートが必要な子どもたちや、関わりを求めている子どもたちに専門職としての視点を持って関わることの意義が生まれてきます。

私たちが行いたい支援とは?日常業務から離れ、事例をもとに徹底的に考えるワークの日

学校でも、スタジオplus+のように一人ひとりの学習の状況に合わせたサポートを行うことができれば、ただ点数を取ったり成績を上げるだけではなく、生徒たちが自分に合った取り組み方や学び方を知ることができ、ゆくゆくはこの先の生活でも自分で試行錯誤して、様々な困難を乗り越えていくきっかけをつくることができると考えています。

スタジオplus+で積み重ねられた学習支援のまなざしを提供することで、生徒たちにとっても、先生たちにとっても個々のニーズに合わせた、より有意義な学習時間をつくりだすことができます。そして「学習のサポートが必要だから特別な場へ」という形で排除しない、学校がよりインクルーシブな場になるためのひとつのお手伝いができると思っているのです。

学校が、その子に合う学び方をサポートする場になってほしい。
そういった学校をつくるための1つの活動として、A中学校の自由進度学習の取り組みに共感し、学習支援にやりがいを持って取り組んでいます。

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