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なぜ同じストレスフルな環境でも生き生きと働ける人とそうでない人がいるのか。

10月20日に発売された『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』。
本書では、ストレスフルな状況でも心の健やかさを保つための「首尾一貫感覚」についてわかりやすく紹介します。

著者はストレスマネジメントの専門家で公認心理師の舟木彩乃さん。これまでカウンセラーとして1万人以上の方の相談に乗ってきました。

今回は、著者の舟木さんに、「首尾一貫感覚」の肝について、実際のエピソードをもとに語っていただきました。

「首尾一貫感覚」とは

働いているとしんどいことや、不安になること、落ち込むこと、自分が嫌になること、イライラすることがありますよね。

"なんとか毎日しのいでいるけど、もう限界寸前かも"
そんなふうに思っている人が、心の余裕を取り戻すために役に立つのが「首尾一貫感覚」です。

首尾一貫感覚とは、
「ストレスが高い状況にあっても、それにうまく対処して、心の健やかさを保てる力」
といわれています。
そのため、首尾一貫感覚は、別名「ストレス対処力」ともよばれています。

首尾一貫感覚が高い人は、ストレスのある状況でも負けずに、その状況すらも糧にして生き抜く力があるとされています。

この「首尾一貫感覚」ですが、もっと具体的にご説明すると、次の3つの感覚からなっています。

 ① 把握可能感(「だいたいわかった」という感覚)
自分の置かれている状況や今後の展開を把握できている、あるいは、ある程度予測できると思うこと。自分の身に起きていることは「おおよそ想定の範囲内」「だいたいわかった」と思える感覚です。

②処理可能感(「なんとかなる」という感覚)
自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると思うこと。自分のもつ「資源」(人間関係やお金、知力、権力)を活用することで「なんとかなる」と思うことのできる感覚です。

 ③有意味感(「どんなことにも意味がある」という感覚)
自分の人生や自分自身に起こることにはすべて意味があると思うこと。目の前に大きな困難があっても、「これを乗り越えたら、私は成長できる」と意味あるものととらえ、「どんなことにも意味がある」と感じられる感覚です。

私は、ストレスマネジメントの専門家として活動をしてきた経験から、「首尾一貫感覚」は、ストレス社会を生き抜いていくのに、とても有用で、大切な力だと実感しています。

なぜならば、同じストレスが高い環境にいても、負けずに自分らしく活躍できる人(=首尾一貫感覚が高い人)と、そうでない人がいるからです。

議員秘書というストレスフルな仕事

この「首尾一貫感覚」が高い人というと、思い出す人がいます。
「議員秘書」をしていたある人です。

私自身、かつて議員事務所で働いた経験があり、さらには大学院の修士・博士課程で、議員秘書のストレス状況について調査し、そのストレスを緩和したり予防したりする方法を研究テーマとしました。

その経験から、議員事務所はブラックな職場である場合が多いこと、議員秘書という職業はストレスフルな仕事であることはよくわかっていました。

しかし、そんな中でも、生き生きと働いている議員秘書の方もいたのです。

その一人である鈴木さん(仮名、30代男性の政策担当秘書)のエピソードをご紹介したいと思います。

鈴木さんは、ある議員の「政策担当秘書」をしていました。

あまり「議員秘書」に馴染みがない方も多いと思いますので、ざっくりとご説明しますね。

議員秘書は、大きく2つ「公設秘書」と「私設秘書」に分かれています。「私設秘書」は、給与は議員事務所などが負担し、採用人数に制限はありません。
「公設秘書」は、国費によって国会議員に付される秘書のことです。給与は国から支払われ、身分は国家公務員特別職となります。現在は、1人の議員につき、政策担当秘書、公設第一秘書、公設第二秘書と、3人の公設秘書を採用することができます。
給与と職級は、政策担当秘書、公設第一秘書、公設第二秘書の順です。

公設第一秘書や第二秘書になるために資格は必要ありませんが、政策担当秘書になるためには、以下の3つのルートのうちどれかを経る必要があります。

①「国会議員政策担当秘書資格試験」に合格する
②10年以上公設秘書を務めて研修を受ける
③司法試験や国会公務員総合職試験などに合格して認定される

政策担当秘書は、国会法で「主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書」とされ、その役割が規定されています。
政策担当秘書には、政策立案を遂行できる専門的な知識と能力が必要とされるので、国家公務員総合職試験と同レベルの「資格試験」があるわけです。

しかし、実際に政策担当秘書に就いているうち、①の資格試験に合格した「試験組」は1割ほどと非常に少なく、永田町ではある意味異質な存在です。

そのため、若くして「資格試験」に合格し、形式的に秘書の中でトップとなる政策担当秘書に就くと、事務所の他の秘書からの嫉妬やイジメを受けることが多々あります。

鈴木さんは民間企業に数年間勤めたのち、議員秘書を目指しました。自分の考えたことが現実の政策に活かされるような仕事がしたいと考えたからです。
優秀な鈴木さんは、①の「資格試験」に見事1回で合格し、政策担当秘書として採用されました。

政策担当秘書に就任してからの鈴木さんは、会社員時代の経験を大いに活かし、自分の仕事によって実際に政策が動いている手ごたえを感じていたそうです。

3年間ほど順調に政策の仕事を中心にこなしていたのですが、なんと、それまで仕えていた議員が選挙に落選し、次の議員に仕えることになりました。
最初のうちは、その議員との人間関係はうまくいっていたそうです。

しかし、1年ほどたった頃から議員の様子が変わってきます。
鈴木さんの書いた原稿を否定したり、意見を聞き入れなくなったりすることが増え、とうとう鈴木さんは、政策の仕事から外されました。

慣れない車の運転を命じられ、道がわからずナビに頼って運転していると、「その道は遠回りなんだよ!」などと怒鳴られ、後部座席からものを投げつけられたり。
また、「〝試験組〟は頭良くても選挙には使えないんだよ」とたびたび嫌味を言われたり。

とうとう「政策担当秘書の給料は多すぎるから、毎月自分に寄付をしろ」と違法な要求をされるようになりました。

この回答を留保していると、今度は突然「事務所内で人間関係を乱した」などという身に覚えのないことで反省文を書けと言われ、それを断ったところ解職されたそうです。

その後、鈴木さんは政策担当秘書の立ち位置や制度が変わらないかぎり、政策担当秘書としてキャリアを積んでいくことに意味を感じられなくなり、民間企業に転職しました。

「働く意義」を見出せる人はストレスに強い 

鈴木さんの仕事ぶりを首尾一貫感覚の面からみると、どうでしょうか。

鈴木さんは、「自分の能力を、国をよくすることに活かしたい」「世の中の役に立ちたい」という思いをもって「議員秘書」という仕事を選んでおり、仕事に対して強い「意義」をもっています。

そのため、どんなつらいことや困難なことがあっても、「地域・社会への貢献につながる」と考え、「どんなことにも意味はある」と思って頑張ることができます。

「どんなことにも意味がある」と思える力は、「有意味感」です。この有意味感があることで、自分の人生や自分自身に起こることにはすべて意味があると思えたりします。

経験したことがない大きな壁にあたって、先が見通せず「だいたいわかった」という把握可能感がもてないときも、どう考えても「なんとかなる」なんて思えず処理可能感をもてないときにも、「どんなことにも意味はある」という有意味感はもてるものです。
「この困難にも必ず意味がある」「このことを意味あるものにするために私は何をすべきか」と思えるのです。

そう思うからこそ、「何ができるか考えよう」と把握可能感を高めようとしますし、それにともない「なんとかしよう」と処理可能感も高めていけます。
有意味感が高い人は、成長意欲が高く、課題に果敢に取り組むことができる人なのです。

したがって、首尾一貫感覚を構成する3つの感覚「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」のうち、いちばん肝になるのは、「有意味感」だと思っています。

鈴木さんもそうですが、有意味感の高い人で、重要な地位にいる管理職や官僚などの話を聞いていると、ストレスフルな環境のなかでもそこで働く意義を見出し、自身を鼓舞しながら困難な事態を「なんとかなる」と信じて打開していく力があるな、と感心します。

すべてに意味を見出す必要はない

ただ、その上で、彼らの潔い〝引き際〟も興味深いです。

自分の人生にとって「この課題を乗り越えることに意味がある」と感じる感覚が「有意味感」ではありますが、あらゆることに意味を見出して乗り越えよう、ということではありません。

「どんなことにも意味がある」と言いつつも、「乗り越える意味がある」と思えるものと、そうでないものを区別することが、時には必要なのです。

鈴木さんも高い「有意味感」をもっており、ストレスフルな職場環境であっても、ある一定のところまでは自分の目標を達成するために頑張れていたようです。

しかしながら、努力してもコントロールできないこと(最初に仕えた議員の選挙での落選や2番目の議員の性質)によって、仕事に有意味感が感じられなくなったとき、〝辞めどき〟を意識しだしました。

大切なことは、ブラックな環境で働いていたとしても、いかにしてその仕事に意義を見い出し、折り合いをつけていくかだと思います。

意義を見い出すとは、つらい日々の中に何か自分の成長の糧にできるようなものを見つけ出すことです。

ただ同時に、自分が〝意義〟のために我慢できる限界を普段からある程度決めておくことも大切です。その限界を超えたら、いつでも去る覚悟をしておくことも重要なのです。


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