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【「はじめに」公開】リチャード・テンプラー著『できるリーダーの仕事のルール』

本書は、旅行代理店、スーパーマーケット・チェーン、レストラン、カジノ、大学自治会など、幅広い分野で30年を超えるマネジャー経験を持ち、出版社を創設するやわずか4年で「イギリスで最も成功した出版社」と呼ばれるまでに育て上げた著者が、リーダーがするべきこと、心がけるべきことを116項目にまとめた一冊。
このnoteでは、書籍の冒頭「はじめに」を公開します。

はじめに

 マネジメントとは奇妙なものだ。「将来の夢はマネジメント」という人はめったにいないが、ほとんどの人が、人生のある時点でマネジメントに関わることになる。

 キャリアカウンセラー:将来どんな仕事をしたいのかな?
 高校生:マネジャーになりたいです。

 あなたはこういう高校生だっただろうか? おそらく違うだろう。私も違う。しかしそれでも、今のあなたはマネジャーだ。
 マネジャーは一人で何役もこなさなければならない。チームを支える柱であり、リーダーであり、イノベーターであり、さらには昇給や、リソースや、追加の人材を帽子から取り出すマジシャンだ。泣きたい人には胸を貸し、情熱的な言葉でチームを鼓舞し、何かあったら厳格かつ公正なジャッジを下す。外交官でもあり、政治家でもあり、財務の魔術師だ。守護者であり、救世主であり、聖人だ。あなたのチームに集まった人たちは、おそらくあなたが選んだわけでもなければ、特に好きというわけでもない。共通点も特になく、あなたのことを好きにならない可能性も高い。それでもあなたは、彼らのために全責任を背負わなければならない。彼らを働かせ、恥ずかしくない結果を出させなければならない。
 彼らの身の安全に気を配り、彼らの心の健康に気を配り、お互いにケンカをしないように気を配る。彼らが業界の規則や法令を守って仕事を進めるようにするのも、すべてあなたの責任だ。さらに自分の権利にも、彼らの権利にも、会社の権利にも、組合の権利にも精通していなければならない。

 そしてさらに、これらのすべてに加えて、自分の仕事でも優秀であることが求められている。
 また言うまでもなく、あなたはつねに冷静沈着でなければならない。怒鳴ってはいけない。物を投げてもいけない。ひいきするなどもってのほかだ。マネジメントとは、なんと過酷な仕事であることか……。
 あなたはチームの世話をしなければならず、チームから最高の力を引き出さなければならない。チームはときに、まるで小さな子供のようにふるまうこともあるだろう。それでもお仕置きに「お尻ペンペン」はできないし、おそらく解雇もできない。あるいは、まるで不機嫌なティーンエイジャーのように、朝寝坊したり、遅刻したり、やっと出社してもいつまでだらだらしていたり、こっそり会社を抜け出したりする。

 私もかつてはマネジャーだった。100人もの部下を抱えていたこともある。マネジャーであれば、部下全員の名前はもちろん、それぞれの個人的な事情も熟知していなければならない。ああ、ヘザーは娘のお迎えがあるから火曜は残業ができなかったな。トレヴァーは色覚特性があるから展示会のメンバーには選べない。マンディに昼休み中の電話番を頼むと、むくれて電話をしてきた人に失礼な態度をとる。クリスはチームワークが得意だが、一人で考えて動くのは苦手だ。レイはしょっちゅう飲んでるから、絶対に運転させてはいけない。
 さらにマネジャーには、現場と上層部の間に入る緩衝材という役割も求められている。上から理不尽な指示が出たら、あなたのやるべきことは3つある。(a)上の指示を現場に伝えて納得してもらう。(b)あからさまに不満を言わず、大笑いもしない。(c)たとえ理不尽であっても、上の望み通りの結果が出るようにチームを動かす。
 また、上から「今年の昇給はなしだ」と言われたら、それがチームのやる気に冷水を浴びせるとわかっていても、その通りにしなければならない。乗っ取り、合併、買収、秘密の取引といったニュースを知っていても、部下には秘密にしていなければならない。たとえ噂が飛び回り、部下からことあるごとに尋ねられても、知らぬ存ぜぬを貫き通さなければならない。

 しかも、責任を持たなければならないのは人だけではない。チームの予算、規律、コミュニケーション、効率性、法律問題、組合のあれこれ、健康と安全、人事、年金、病欠、産休、育休、有給休暇、長期休暇、タイムカード、メンバーのお見舞いやお祝い、退職祝い、勤怠管理、避難訓練、空調、水道管の詰まり、駐車場スペースの割り当て、電球の交換、備品の補充など、あらゆることがマネジャーの責任だ。もちろん、顧客に関するこまごまとしたことも、マネジャーならすべて把握していなければならない。
 それに加えて、チームを代表して他の部署と戦い、クライアントと戦い、上層部と戦い、経営陣と戦い、取締役会と戦い、株主と戦い、経理部と戦わなければならない(あなたが経理部のマネジャーでないのなら)。

 それにマネジャーは、チームのお手本であることも求められる。時間を守り、正直で、身だしなみに気を配り、勤勉で、誰よりも遅くまで働き、誰よりも早く出社して、個人的な争いに巻き込まれず、いつも超然としていて、責任感が強く、思いやりがあり、物知りで、すべてを完璧にこなさなければならない。これは恐ろしい話だ。
 それに加えて、マネジャーはいじられて笑いものになることも、冷血な暴君扱いされることも覚悟しなければならない。部下、株主、さらには社会全体からつねに厳しい目を向けられ、「使えない」「いらない」といった評価を下されてしまうこともある。
(ここまで読んで震え上がり、マネジャーなんかにならないほうがいいと思った人もいるかもしれないが、そこまで怖がる必要はない。マネジャーとは世界を動かす存在だ。人々を導き、鼓舞し、未来を形作る。ビジネスを変え、人々の人生を変える。マネジャーたる者、目に見える形で世界に貢献しなければならない。解決策の一部になるだけでなく、自分から解決策を提供しなければならない。マネジャーは保安官であり、軍曹であり、レンジャーだ。船を動かすエンジンであり、船長だ。とてもやりがいのある仕事であり、この仕事ができることに感謝すべきである。ただ、楽ばかりできるというわけではないというだけだ)

 あなたはただ、自分の仕事をきちんとやりたいだけなのに……。幸運なことに、マネジャーのための役立つヒントがないわけではない。このヒントがあれば、涼しい顔で、山のような役割をすべてこなすことができる。それが、マネジメントのルールだ。誰も教えてくれず、本を読んでもわからないけれど、たしかに存在するルール──もしライバルに差をつけたいのなら、ルールのことは誰にも秘密にしておこう。
 マネジメントは技術であり、科学だ。世の中には、マネジメントの方法だけを書いた分厚い教科書があり、マネジメントを教える講座も数え切れないほどある(あなたもいくつか受講したことがあるだろう)。しかし、教科書を読んでも、講座に通っても、本当に大切なことは誰も教えてくれない。
 あなたに必要なのは、知っている人だけが知っている暗黙のルールだ。そのルールを知っている人だけが、真に優秀なマネジャーになることができる。部下が一人か二人でも、あるいは何千人いても、このルールさえ知っていれば大丈夫だ。
 この本を読んで、「なんだ、知っていることばかりじゃないか」と感じる人はたくさんいるかもしれない。または、たとえ知らなくても、「当たり前すぎる」という感想を持つだろう。あなたの感覚はまったく正しい。この本に書かれたルールは、すべて「当たり前すぎる」ことばかりだ。しかし、今の自分をふり返ってみよう。何もかもがあまりにもめまぐるしく変化するために、ただついていくのがやっとという状態ではないだろうか。そんなとき、人は当たり前のことを忘れてしまうものだ。それにそもそも、いちばん大切なことは「知っているかどうか」ではなく、「やるかやらないか」だろう。

 この本のルールは大きく二つに分けられる。それは、「チームのマネジメント」と「自分のマネジメント」だ。ルールの順番と重要度は特に関係がない。最初に出てきたからといって、最後のほうに出てきたルールよりも大切だということはない。ただすべてのルールを読み、そしてできそうなものから順に実行してもらいたい。ルールの多くは同じ流れの中にあるので、特に意識しなくても同時に実行できるようになっている。あなたはすぐに、いつも冷静沈着で、自信に満ち、仕事のできるマネジャーとして、周囲から一目置かれるようになるだろう。ほんの少し前までは、下からの突き上げと上からの抑えつけで青息吐息だったことを考えれば、なかなか悪くない状況ではないだろうか。

 実際にルールを見ていく前に、そもそも「マネジメント」とは何かということについて少し考えてみよう。マネジメントの定義なんて簡単だと思うかもしれないが、実はそうでもない。私が思うに、私たちの誰もが、何らかの意味でマネジャーだ。親、自営業者、起業家、会社員、それに莫大な遺産を相続した人でさえも、何かを「マネジメント(管理)」する役割がある。マネジメントするのは自分のことだけだという人もいるだろうが、それでも持てるリソースを最大限に活用し、自分を鼓舞して、自分を監視し、目標を決め、予算を決め、決めたことを実行して、最高の自分を引き出さなければならない。いわゆる「マネジャー」と呼ばれる人たちは、チームを相手にそれを行わなければならないというだけだ。相手が自分だけでも、大きなチームでも、基本はまったく変わらない。
 ハーバード・ビジネス・スクールは、マネジャーを「他の人を通して結果を出す存在」と定義している。マネジメントの神様と呼ばれるピーター・ドラッカーによると、マネジャーとは「計画、実行、監視に責任がある者」であり、またオーストラリアン・インスティテュート・オブ・マネジメントによるマネジャーの定義は、「ある結果を達成するために、計画し、導き、チームをまとめ、仕事を割り振り、統制し、評価し、予算を決める存在」になる。私の意見もこれらとほぼ同じだ。
 あるいは、かなり長ったらしくて複雑な表現で、マネジャーを定義することもできる。

 マネジャーとは、組織のマネジメントチームの一員となる従業員であり、組織の目標を達成するために、人間、お金、モノの配分を行う存在だ。マネジャーは、人的資源、コミュニケーション、企業の価値の実践および促進、組織の倫理と文化、組織内での指導と変革の管理に責任を持つ(カリフォルニア州に拠点を置く組織「リーダーシップ・ネットワーク」による定義)。

 なるほど。まあいいだろう。いずれにせよ、私たちは何らかの形でマネジャーであり、このマネジメントという仕事をきちんとこなさなければならない。そして、人生をシンプルにしてくれるものは、それだけでありがたい存在だ。そこでみなさんに、マネジメントのシンプルなルールをお教えしよう。これは深遠な哲学でもなければ、小手先のズルでもない。むしろ当たり前のことばかりだ。それでも、一つひとつのルールについてよく考え、実行に移していくうちに、仕事も人生も驚くほど大きく変わることを約束しよう。
 この本に書いてあるようなことは、すでに知っているかもしれない。しかし、知ってはいても、実行しているだろうか?

目次

第1章 チームをマネジメントする36のルール
その仕事が社会にどう貢献するかを語る
部下にできるだけたくさん仕事を任せる
成功はすべてチームの功績にする…など

第2章 自分をマネジメントする70のルール
仕事を楽しむ
自分がすべきことを知る
つねににフィードバックを求める…など

第3章 起業した人のための10のルール
ビジネスと生活のバランスをとる
自分の弱みを自覚する
仕事を任せる…など

著者について

リチャード・テンプラー(Richard Templar)
旅行代理店、スーパーマーケットチェーン、レストラン、カジノ、大学自治会など、幅広い分野で30年を超えるマネジャー経験を持つ。2003年に出版社White Ladder Pressを創設。わずか4年で「イギリスで最も成功した出版社」と呼ばれるまでに育て上げた。Ruleシリーズは50言語で翻訳される世界的ベストセラーになっている。著書に『できる人の仕事のしかた』『できる人の人生のルール』『できる人の考え方のルール』『上手な愛し方』(以上ディスカヴァー刊)などがある。

桜田直美(さくらだ・なおみ)
翻訳家。早稲田大学第一文学部卒。訳書は『できる人の仕事のしかた』『望む現実は最良の思考から生まれる』『誰でもできるけれど、ごくわずかな人しか実行していない成功の法則』(以上ディスカヴァー刊)、『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』『睡眠こそ最強の解決策である』(以上SBクリエイティブ刊)、『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』『読むだけでぐっすり眠れる52の話』(以上かんき出版刊)、『The Number Bias 数字を見たときにぜひ考えてほしいこと』(サンマーク出版刊)など多数。

本書では、チームをマネジメントするルールと自分をマネジメントするルール、起業した人のためのルールの3つのルールがまとめられている。自分にできていないことや、課題を発見することができる本書は、チームのマネジメントを任されて間もない今の自分にぴったりの一冊だ!
(営業部・伊東)

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