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アイスランドから見る風景:vol.21-1 レイキャネス半島での噴火 2021年3月編

今回は2回に分けて、アイスランドでの2021/22年の噴火について書いてみたい。この前編は2021年の噴火が主題で、以前配布していた会社のニュースレターを基にしているため、すでに読んでくださった人もいるかもしれない。その場合はご容赦いただき、2022年の2度目の噴火を扱う次回のコラムを楽しみにしてくださると有難い。

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アイスランド災害対策本部で働く隊員たち (上記写真:RÚV出典)

2021年3月19日の22時ごろ、781年ぶりに、レイキャネス半島で火山の噴火が始まった。ここは、ケプラヴィーク国際空港やブルーラグーンなど、観光には欠かせない施設がある場所だ。

2021年2月24日から続いたこの地域での絶え間ない地震は、グリンダヴィーク村の住民たちの神経をさんざんにすり減らしているところだった。2つのプレートが生まれているアイスランドでは、地震はつきもの。地震は島のどこかで毎日あるにせよ、たいていそれは人の住んでいない山間部や島で起こり、実際に揺れを感じることは稀だ。しかしながら、このエリアでは過去3週の間小さな地震を含め、約5万回近い揺れが観測された。約45kmほど離れた首都レイキャヴィークでも、この地域でマグネチュード5の地震があったときには、多くの人が突き上げるような揺れを感じた。

この地震が地殻変動のために起こっていることは、専門家の意見も一致していた。震源地の多くはケイリール(山)から南西のファグラダルスフャトル(山)の地域だった。GPSを使って、毎日エリアを観測していたところ、下記の地図にある赤の点線の場所(距離約7km)で、マグマが地下5キロの場所を移動していることが判明した。この下でマグマが地表に上昇してきており、それが地下5キロという浅いところまで移動していたのだ。地下に生息している大蛇が目を覚まし、ゆっくりと動き出したと想像していただきたい。

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レイキャネス半島の地図。レイキャネス半島は、アイスランドの島の南西部に当たる。左上の赤丸がケプラヴィーク国際空港。レイキャヴィークは地図上では示されておらず、右上の赤枠、白抜きの文字ハプナーフョルズールの先に位置する。(RÚV出典)

過去のこの地域の歴史と、地球内部から上がってくるマグマの量が地殻下で15-20㎥/Sと見積もられたことから、たとえ噴火があっても、爆発型ではなく、地殻の弱いところから溶岩が流れ出るタイプになることが予測されていた。ただ、噴火のそのものが実際にどこになるかを100%言い当てることは不可能だ。昨年の地震の多くが、ブルーラグーンの南にあるソールビョルン(山)付近だったことから、ここで噴火が起こるとブルーラグーンばかりか、近郊の村・グリンダヴィークにも被害がでると、住民たちは大変心配していた。

ソールビョルン(山)。スヴァルツセンギ地熱発電所とブルーラグーンの北に位置する火山。


地図赤点線の北東端にあるケイリール山。佇まいがとても美しい円錐形の火山。
その特異な形状のために、レイキャヴィークからも容易に見つけることができる。
実際に噴火した場所はファグラダルスフャトル(山)の東。赤枠の白字はアイスランド語で火口。
約700-800mと予想されていたものの、実際は180m(3月20日)の長さだった。(RÚV出典)

そのマグマが、地表から1キロ、500メートルと上昇を続け、とうとう3月19日に赤線のところで噴火を始めた。幸いその場所の南にゲルディンガダーリルという名の谷があり、噴出したマグマはここに流れ込んだ。観測されている溶岩の量はおよそ5㎥/sと見積もられ、谷が埋まるまでには少なくとも数週間は必要、例え長く続いたとしても、この溶岩流がグリンダヴィークの村まで届くことはないだろうとの見通しがたった。(追記:その予測通り9月18日に噴火が終息したときは、溶岩流はこの区域に留まった。ちなみにこの噴火の1秒あたりの噴出溶岩量は9㎥、総噴出量は0.15k㎥と記録された。)

噴火が始まって以来、地震は激減した。レイキャネス半島の地殻の変動が地震の原因で、火山の噴火はその過程の一部である、というのが専門家の見解だ。地殻に溜まっていたエネルギーが、噴火を機に多少解放されたと考えていいのだろう。アイスランドの地震は日本の海溝型と異なって火山に起因しているので、噴火が始まると終息することが多い。

今回の噴火は、アイスランド史上からしても小規模の噴火で収まるだろうと専門家は見ている。このような比較的小さな噴火は、アイスランドでは “ツーリスト噴火” と呼ばれ、観光客を呼び込む機会になることが、これまでも多くあった。

噴火後、時を待たずして多くのアイスランド人が観測に出かけた。(友人の撮影を借用)

今回もその例に漏れず、観光客こそコロナ渦で簡単には来れなかったが、その分アイスランド人たちが噴火見物に押し寄せた。噴火の翌日の3月20日、21日は特に賑わい、まだ熱の冷めない溶岩の上に寝っ転がったり、フライパンでベーコンや卵、ソーセージまで焼いたり、まるでお祭り騒ぎ。それでも日中はまだましで、夜になると暗さと寒さに遭難しかかる人たちも出て、警察の災害対策本部や地元のレスキュー隊が40人ほど保護する始末だった。

翌日22日は天候が悪く、この地区一帯を封鎖したものの、天候が回復した夕方ごろから道路局職員が駆り出され、噴火を見に行く人たちが迷わないよう、また必要以上に自然を荒らさないよう、道しるべの杭を地面に打ち込んで歩道を整備し始めた。同日の夜、専門家たちが噴火現場の危険を説明するインタビューも放映された。二酸化硫黄、二酸化炭素、臭いのない一酸化炭素がガスとして溶岩と一緒に地表に噴出されている、噴火口の周りの溶岩の壁も高くなればなるほど崩れるリスクが大きい、火口が今現在の場所から拡大する可能性があり、その予知は難しい、などの情報が流れた。そのように行かないことを勧める一方で、道路局は杭を打っているわけですから、一見すると矛盾しているようにも見える。

しかしながら、これがまさにアイスランド。行きたかったら行ってもいいけど、これだけは気を付けてね、と事前にリスク情報を開示して、あとは個人の決断に任せる。現場を封鎖してしまうのが一見簡単に思えるのかもしれないが、禁止すると必ず破る人が出てくるのも否めない。それを考えると、手綱はきつすぎても、緩すぎてもいけないようだ。しかも、生きた地球科学を学べるという地の利もある。国民が自分の国の自然を理解する絶好のチャンスを、政府としても正面から反対はできないのだ。

ご苦労さまなのは、やはり警察とレスキュー隊の方たちだろう。ちなみに、今現在このエリアはその日の天候や現場での状況により、国の災害対策本部が入場の可否を判断している。(2021年3月24日 執筆したものを多少加筆)


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