【DIR EN GREY 楽曲感想】VULGAR

昨日も投稿しましたが、PSYCHONNECTの大阪公演に参加してきたため、首と声がボロボロです笑 詳しくは昨日の記事を参照していただきたいところですが、ここにきて『GAUZE』の真の魅力が引き出された素晴らしいライブだったと思います。

そんな感じでまだまだ「mode of GAUZE」な気分が抜けきらない私ですが、
今回は4thアルバム『VULGAR』の感想を書いていきたいと思います。

3rdアルバム『鬼葬』の時点でその片鱗は見えていましたが、その後発売されたシングル『Child prey』、ミニアルバム『six Ugly』では、完全にニューメタル、ヘヴィロックへと音楽性を転換させました。90年代V系としてのDIRの面影をほとんど感じられないような作風となっており、ライブのノリも、ハードコアのバンドのような、拳を突きあげたり、モッシュ・ダイブなどをしたりするようなものに変わっていったとのことです。

『鬼葬』のツアーとして開催されていた列島激震行脚シリーズは2003年1月11日の横浜アリーナ公演で終了し、その後シングル『DRAIN AWAY』『かすみ』をリリース。その後6~7月に、「BLITZ 5DAYS」という5日間のライブが行われました。このライブでは、初日はオールタイム、2日目以降は各日、『GAUZE』『MACABRE』『鬼葬』と当時未発売だった『VULGAR』をフィーチャーしたセットリストが構成され、映像作品も残っています。おそらくですが、ここで一旦これまでの道のりを清算した上で新たなスタートに向かっていきたかったのかもしれませんね。

9月には4thアルバム『VULGAR』をリリース。『six Ugly』で培ったヘヴィロック路線を踏襲しつつ、以前の持ち味だったメロディアスさと上手く融合させ、一つの到達点にたどり着いた作品となりました。その後、このアルバムを引っ下げて、「TOUR03 OVER THE VULGAR SHUDDER」「TOUR04 THE CODE OF VULGAR[ism]」と、2回の『VULGAR』ツアーが敢行されました。


DRAIN AWAY (2003.1.22)

14thシングル。c/wは表題曲「DRAIN AWAY」と「逆上堪能ケロイドミルク」「JESSICA」のリミックス音源です。本作のボーカルクレジットは「アントニー佐々木ポッタリー」と表記されているようです。なお、「DRAIN AWAY」はリリース前に列島激震行脚ツアーで先行披露されていました。

1 DRAIN AWAY

和風な歌詩・メロディと、ニューメタルのサウンドを融合させた、Dieさん原曲のミドル曲です。『six Ugly』で培ったヘヴィなアレンジとそれ以前のメロディアスさが良いバランスで混ざった集大成のような曲で、非常に人気の高い一曲ですね。
サビから始まる珍しい曲構成となっていて、メロディをしっかり聴かせるような意図を感じますが、随所に縦ノリ的なヘヴィなフレーズが入っていて、「聴けてノれる」という二度美味しい曲です。 全体的に音は激しいですが、フレーズは和の情緒を感じる部分も多く、ノスタルジックな雰囲気があります。
演奏面で耳を惹くのはやはりDieさんのギターですかね。ユニゾンしてる部分も多いんですが、所々細かいフレーズを入れてきていてそれが悉くカッコいいです。あとは曲の緩急を作るようなベースラインも結構好きですね。またこの曲、間奏はシンプルなリフなんですけど、変にギターソロを入れるよりもノりやすくて良いと思います。
ボーカルについては、また京さんの声質がよりミックスに近づいた気がしますね。サビのメロディの平均ピッチがまあまあ高くて歌うの難しいと思うんですが、しっかり歌いこなしてます。また、この曲にラップをぶち込んだのもかなり挑戦的だなと思います。ホントに面白いことしますね笑
歌詩は想いを寄せていた人が、見世物小屋で辱めを受けているのを、何もできずにただ見ているしかなかったことを、思い出しては悔やむ主人公の回想ってことで良いんですかね。古風で風流な言葉で書かれていますがなかなかに痛々しい歌詩ではありますね。ちなみにMVは珍しく歌詩に忠実です。
ライブでは2016年の『VULGAR』ツアーと、25周年のアニバーサリーツアーで聴きました。この曲、楽曲バトル総合2位だったんですよね。聴くところはしっかり聴いて、頭を振るところはしっかり振るという、メリハリのある感じでした。『VULGAR』の方向性を象徴しているような曲だと思います。


かすみ (2003.4.23)

15thシングル。c/wは「腐海」と「umbrella」のライブ音源です。「腐海」については、アルバム収録曲でもリメイク曲でもない純粋なc/w曲としては、現時点ではこの曲が最後の曲で、このシングルにしか収録されていないレアな曲となっています。ボーカルのクレジットは「I LOVE レゲエ パピオン」と表記されています。以降クレジットはすべて「京」で統一されます。

1 かすみ

日本的情緒と浮遊感のあるサウンドが特徴的なミドルバラード。おそらくメンバーからかなり大切にされている曲だと思います。ちなみにこの曲を起点に、以降リリースされるアルバムでは必ず一曲は6/8拍子の曲が入るようになります。
一曲の中で繊細で美しいフレーズと、ヘヴィなサウンドが共存しているのが特徴です。特にクリーンギターのアルペジオが、イントロをはじめ、随所に反復して使用されていますが、これがシンプルながら余韻の残る儚さを演出していて良いんですよね。DIRの曲の中でも耳に残る名フレーズだと思います。
一方でサビの部分はパワーコードで攻めてきますが、6/8拍子のリズムと合わさって、底に引き込んでくるような重みがありますね。対して京さんの歌うメロディはどこか浮遊感があるので、演奏とは逆方向の力が作用しているように思います。この対比も非常に美しいと思います。
この曲もかなり歌うの難しいんですよね。特にサビは低〜中音域が入り乱れながら徐々に高くなっていくので、声の切り替えが難しいと思います。ラストの部分はかなり高いですしね。リメイク版と比べて癖の強い歌声ではありますが、ドロドロした世界観にもマッチしていると思います。
歌とギターの話ばかりですが、この曲、ドラムの音とフレーズもかなり好きなんですよね。Shinyaさんの叩き姿も美しい曲だと思います。リメイク版も原曲フレーズをそのまま再現したみたいなので、気に入られているんだと思います。特に、ラスサビ前の静かにドラムの音が響くパートが好きです。
歌詩は子殺しの話だと解釈しています。「林檎飴」「祇園坂」「紙風船」といった言葉選びに情緒を感じつつも、どこか不穏な空気を漂わせ、飴玉が溶けていく様子と死別をリンクさせています。母の自殺とも解釈できそうですが、この曲、後にリリースされる「朧」の歌詩と繋がっているそうで、それも踏まえると、多分子殺しの方かと思います。
この曲は2013年に京さんの提案でリメイクされます。というか、「THE FINAL」のリメイクと合わせて『THE UNRAVELING』制作のきっかけとなったそうですね。 リメイクは不評のイメージがありますが、私はどっちも好きです。ただ原曲の方が、世界観の演出が秀逸で、余韻の残るアレンジだと思います。

2 腐海

ヘヴィなサウンドと歌謡曲調のメロディが特徴的な、Shinyaさん原曲のミドル曲です。
基本的にDieさんがイントロで弾いているリフがギターフレーズの大半を占めているにもかかわらず、全く単調さを感じさせません。また、要所で入ってくるクリーンギターがどこか神秘的で、ヘヴィなパートとの対比が素晴らしいですね。個人的には2回目のBメロのベースの入り方とかも好きです。
また、京さんの歌が情熱的で良いですね。歌い方が『MACABRE』期に近いような、低音を強調しつつちょっと張り上げるような感じが、曲に合っていると思います。終盤もキーはかなり高いのですが、太さがあって力強い歌声です。随所で使用されているファルセットも不気味さを演出しています。
歌詩はこれまた『MACABRE』期を彷彿とさせるような、別れに苦しむ女性の姿が描かれています。タイトルにもなっている「腐海」というのは、絶望に打ちひしがれて腐ったような精神状態の比喩のことかと思います。「ゆらゆら」や「深く深く」など、リフレインが多用されているのも特徴的です。
この曲、当時ライブの度に歌詩とメロディが変わっていったようで、最終的には原型がなくなったようですね笑 そのため、原曲準拠のライブ映像はほとんど残っていない状態です。 2018年にリメイクされましたが、そちらは変化した後のメロディで録り直されています。
ちなみに私はというと、近年のライブではリメイク版の方ばかり聴いているので、最近すっかりリそっちのメロディが沁みついてしまってましたが、久々に原曲を聴いて、こっちも悪くないなと思いました。歌のメロディって案外柔軟に変えられるんだな、というのが分かる面白い曲だと思います。
しかし、律儀にc/w曲もアルバムに入れるDIRなのに、この曲はなぜ『VULGAR』に入らなかったのでしょうか…?収録時間的にも問題ないはずなのに笑

VULGAR (2003.9.10)

4thアルバム。『鬼葬』から約1年8か月、『six Ugly』から約1年1か月ぶりのアルバムで、メンバー自身「自分にとっての一作目」と語るような、バンドとしてのオリジナリティの確立を感じさせられる1枚となっています。
特徴としては、『six Ugly』で排除されていたメロディアスさが復活し、かつ音作りは『six Ugly』を上回るヘヴィさになっており、これまでの集大成のような作品になっています。同時に、少なくともV系バンドで当時ヘヴィかつメロディアスな曲をやっているバンドってあまりなかったんじゃないかと思いますので(ムックくらい?)、その意味では新しい音楽ジャンルを切り開いたとも言えるのではないかと思います。後続のV系でこのアルバムに影響を受けたバンドも多いみたいですしね。
音のミックスはかなり荒く、低音部分とドラムの金属音が強調され、どっしりとうるさい音になっています。ここは賛否両論のようですが、個人的にはこの時期特有の若さを感じるヘヴィロックと合っていて良いと思います。また、ファストな曲とミドルテンポの曲で占められており、スローテンポなバラードが一切なく、その点は引き続きライブへの意識の高さを感じますね。そのためか、曲数が15曲と多い割には再生時間は1時間を切っていて短いです。攻めの姿勢を感じるアルバムですが、1曲くらいは落ち着いたバラードが聴きたかったな…というのも正直な感想です。(「かすみ」がその枠だと思うんですが、バラードと呼ぶには速いような気がします。)
また、アルバムの中に和の要素と洋の要素が混在していますが、このアルバムでは和寄りの曲と洋寄りの曲ではっきり分かれている印象です。次作『Withering to death.』ではそこが見事に融合を果たすわけですが、それはまた先の話。
アルバムとして「痛み」をコンセプトとしているので、歌詩も京さんの反骨精神や世間とのずれから生じる孤独を描いたものが増えてきています。また、『鬼葬』からの流れか、日本的情緒を感じる表現も特に多い印象ですね。ただ、『鬼葬』の頃と比べると、いやらしさよりは抒情感が強調されている印象です。
風流な日本的情緒を感じられるヘヴィロック、反骨精神溢れるヘヴィロック、そのどちらかあるいは両方を聴きたい、という人にオススメの1枚です。

1 audience KILLER LOOP

OPナンバー。和風ホラー的な雰囲気のあるヘヴィなミドル曲です。アルバムのテーマである「痛み」を体現している曲で、怒りとともにやり切れなさを感じるような演奏と、皮肉の込められた歌詩が、リスナーのメンタルを抉ってきます。
不気味なショーの始まりを感じさせるホラーチックな効果音から静かに始まり、京さんのシャウトとともに、一気に激しくなります。曲全体としては、終始不気味な雰囲気のまま、静と動を繰り返すような曲展開ですが、徐々に激情的になっていきます。冷笑から嘆きへと、感情が剥き出しになるイメージです。
演奏面では、Aメロでグイグイ引っ張るベースラインと、16分音符で鳴らす美しいギターソロが好きなんですが、この曲は、使用されているSEも含めてバンドサウンドの全体感が非常に魅力的だと思います。DIRは個々の音に耳を惹かれることが多いのですが、この曲は聴かせたい音にどこか統一感を感じますね。
また、京さんのボーカルもかなり聴こえやすい音作りになっているのですが、艶っぽさと荒々しさが共存したような歌声になっており、特に終盤の高音のサビは圧巻です。地味に最高音もE5に更新されています。また、終盤のシャウト連発も、怒りや哀しみなどの「感情」を感じるシャウトに進化しています。
この曲で一番話題に上がるのは歌詩ですよね。「ここは自殺の庭さ 楽しい?」という衝撃的なフレーズを始め、、最後のフレーズ以外全て疑問文で構成されていて、この世界で生きる苦しみをこれでもかと問いかけてきます。傷つけ合ったり、解り合えなかったり、偽りだらけの世界への絶望を感じます。
この曲、近年のDIRが表現したい「痛み」と親和性があるのか、『VESTIGE OF SCRATCHES』がリリースされた頃からかなりプッシュされるようになり、最近はフェスなどのライブのセトリの常連となりました。ある意味名刺代わりの曲なのかもしれません。タイトル通り、オーディエンスがいて真価を発揮する曲だと思います。

2 THE ⅢD EMPIRE

京さん、Dieさん、Toshiyaさん共作の、戦争をテーマにしたミクスチャーロック。ライブ定番曲で、一時期はラストに演奏されていることも度々ありました。ヘヴィで暴力的なサウンドと、ラップを基調とした、まるで楽器のごとく暴れまくるボーカルが特徴的な曲です。
全体的に音が歪んでいて重たい上に、ボーカル含めノイジーな音作りがなされているので、音の爆発力が凄まじいです。また、ミクスチャー調で跳ねるようなリズムなので、音の塊で殴ってくるような暴力性があります。途中音が減ったり、メロディが入ってくるパートも挟みつつ基本的にはずっと激しいです。
演奏面ではイントロをはじめ多用されているDieさんの高音リフが特徴的で、低音重視のサウンドの中では良いアクセントになっています。ベースのスラップや、ドラムのリズムなどグルーヴ感がありつつ、低音のサウンドで攻めてくるあたりが良いですね。個人的にはサビの攻めたユニゾンギターが好きです。
ボーカルはほぼ全編ラップとシャウトで構成されています。エフェクトがかかっているのと、声をかなり歪ませているので、もはや誰が歌っているのか分からないような感じになっていますが、めちゃくちゃ迫力があります。コーラスとの掛け合いが多く、楽器のように声があちらこちらから飛んできます。
歌詩は戦争がテーマですが、ストーリー性はなく、戦争をイメージさせる言葉をひたすら並べて叫んでるような感じです。京さんの意図としては、戦争を知らない人間があえて戦争を表現することで、その馬鹿馬鹿しさを強調したかったようなので、あえて意味を感じさせにくい歌詩にしているのかと思います。
この曲は最近こそ演奏頻度は減ったものの、かなりの定番曲で、一時期は海外のフェスなどでもラストに演奏されることも頻繁にありました。ライブだとToshiyaさんがマイクスタンドを投げるのが有名で、歌詩の爆裂都市とかけて「爆裂としや」とか言われることがあります。ひたすら飛べる曲って感じです。
ちなみに2018年にリメイクされますが、大きくアレンジが変わることなく、原曲に忠実でした。この曲に関しては、私はリメイクの方が音と声が聴きやすいので好きですね。原曲も良いんですが、京さんの声が作り込まれ過ぎているように思うことがあるんですよね。

3 INCREASE BLUE

Shinyaさん原曲の、ハードかつ軽快な疾走曲。ロックンロール調のリズムにヘヴィなリフと歌謡曲風のメロディが乗っているのが特徴で、比較的ポップでノりやすい曲です。バンドサウンドだけでなく、デジタルなボイスエフェクトも効果的に使用されています。
メロディアスなAメロ、シャウトとともに激しくなるBメロ、再びメロディアスなサビ、ボイスエフェクトのリフレインが盛り込まれた間奏などで構成されていますが、イントロのリフが主体で曲が進んでいくので、そこまで変則的ではないですが、Bメロからサビにかけての盛り上がりが個人的には好きです。
演奏面で好きな部分は、ドラムの音と、要所で使われているDieさんのカッティング音ですね。VULGARのドラムの音はスネアが特徴的なんですが、この曲にはマッチしていると思います。またメインとなるリフは、黒夢のfake starを彷彿とさせるような、軽快さの中にシリアスさを感じるようなフレーズですね。
京さんのボーカルは、速い曲のわりにはストレートな気がします。その代わりボイスエフェクトつきのボーカルが曲の中で効果音的に使用されています。サビがかなりシンプルでキャッチーですね。個人的にはいきなり入ってくる「Ladies and gentleman, It's a show time!」のハイテンションな感じが好きです笑
歌詩は英語と日本語の混ぜ方がハイになっているような感じでちょっと不気味ですね。あくまで私の解釈ですが、主人公がJelyという女性と交わってから殺害するまでの様子を記録している映像を自分で見て、興奮する一方でブルーな気分も増していってるような状態なのかなと思っています。
この曲は先日のPHALARISのFINALツアーの最終の大阪公演で、Wアンコで演奏されたのが印象に残っています。カムイでボロボロになって、PSYCHONNNCTのツアー発表で会場が湧いた直後の演奏だったので、平常とは言い難い情緒で聴いていたのを覚えています。Wアンコなのに、意外と淡々と終わったのが印象的でした笑

4 蝕紅

日本民謡「かごめかごめ」をモチーフにした、和風ミドル曲。ヘヴィなバンドサウンドと不気味な打ち込み音、歌謡曲調のメロディが特徴で、重くてジメっとした雰囲気が漂う一曲です。この和と洋の混ざり具合が『VULGAR』らしいなと思います。
イントロから低音のユニゾンリフがずっしりとうねってきて、頭を振りやすいリズムになっていますが、歌が始まると落ち着いた雰囲気になります。シャウトのパートはまたリフがうねり、サビに入ると叙情的なサウンドになり、一曲の中でもメリハリがありますね。SEも曲の不気味さを強調しています。
個人的にはこの曲はやはりリフがカッコいいなと思っていて、思いっきり頭を振りたくなりますね。『VULGAR』のリフの中では一番好きかもしれないです。一方、サビの美しいギターフレーズも魅力的だと思います。1サビ後の間奏の、音が徐々に増えていくカオスのような展開も面白いですね。
京さんのボーカルは、この曲においてはかなり多彩ですね。シャウトも低音から高音まで幅広く使用されており、歌以外にもいろんな声が効果音のように使用されていて、曲の大部分に何らかの声が入っています。個人的には、他の曲では聴けない「アッアオ、アッアオ」みたいなシャウトがお気に入りです笑
歌詩は「かごめかごめ」の遊女説をより濃く再構築したような内容になっています。いつか自由になることを夢見て身体を売っている少女が主人公で、その自由がいつまでもやってこない生き地獄感が表現されています。曲の不気味さも相俟って、「暗闇に誰かが潜んでいる感」の演出がリアルですね。
この曲は正式にはリメイクされていませんが、2009年に大きくアレンジを変えて一発録りされます。個人的には2009年版のアレンジの方が気に入っていますが、原曲の方が和風ホラーの雰囲気が生々しく表現されているように思います。ライブではラスサビ前の歌のパートがアカペラになるのが特徴的ですね。

5 砂上の唄

京さんのメロディ、Dieさんのコード進行をもとに制作された歌モノミドル曲。ヘヴィな曲だらけの『VULGAR』では唯一、低音がそれほど目立っていない曲です。感傷的なバンドサウンドと、切ないメロディと歌声が特徴的で、非常に聴きやすい曲だと思います。
曲の構成は至ってシンプルで、2種類のコードがひたすら繰り返される中で、王道のJポップのような展開がなされます。出だしは珍しく京さんの歌とDieさんのギターで始まりますが、ラストも同じフレーズで終わるという、起承転結が美しい曲だと思います。
Dieさんのカッティングで鳴らす軽快なギターが音の要になっていますが、薫さんのギターソロが、シンプルながらも本当に泣いているかのようで非常に美しいです。リズム隊は意外と激しくて、特にベースはめちゃくちゃうねっていて目立っています。なんというか、楽器隊全員泣いてる感じがします笑
京さんの歌も感傷的で良いですね。『VULGAR』の曲の中では平均キーがかなり高い曲なんですが、力強く歌い上げています。歌唱力の向上がかなり分かりやすい曲だと思います。また、『VULGAR』では珍しく、シャウトもラップもなく、歌一本で勝負しています。あとは、シンプルにメロディが綺麗で良いです。
歌詩は、恋人と別れた男の孤独と苦しみが、四季の巡りとともに表現されています。「砂に消えた君」とあることから、多分死別なのかなと解釈してるんですが、思い出が「砂に消えた」とも捉えられるので失恋かもしれないです。曲の雰囲気も相俟って、夜の砂浜を彷徨っている情景を想像してしまいます。
この曲は10年前にDUMの武道館で聴きました。なかなか意外な選曲だったのでかなり印象に残っています。京さんの音域もかなり広がったので、この曲ですら余裕を感じました。あとこういう曲でのDieさんの荒ぶった弾き姿はカッコいいですよね。

6 RED…[em]

京さん、Dieさん、Toshiyaさん共作のミドル曲。原曲者のカラーが出ているというか、DieさんのギターとToshiyaさんのベースが目立っていて、クールな世界観ながら「熱さ」を感じる曲です。個人的には『VULGAR』で一番好きな曲かもしれないです。
どっしりした打ち込み音ともにDieさんの切れ味鋭いカッティングギターから始まり、そこに京さんの歌が入り、バンドサウンドが一気に入るという導入です。メロディ的には終始落ち着いた感じですが、バンドサウンドの緩急が絶妙で、特に間奏からラスサビにかけての盛り上がりがめちゃくちゃ好きです。
この曲はやっぱり間奏のギターソロなしには語れませんよね笑 これぞDie節と言わんばかりの熱いギターソロが魅力的です。その直前部分のクリーンギターとベースの絡み合い方も、独りで観る星空を想起させるような美しさがあって好きです。あとは、ラスサビ入る直前のベースの入りもグッときますね。
京さんの歌はどちらかといえば終始落ち着いた感じですが、間奏が終わってからのAメロ、オク下のBメロで落ち着いた後、シャウトからのラスサビの怒濤の盛り上げは圧巻ですね。「扉は閉ざしたまま」の絞り出すような高音でしっかり締めてくるのも粋ですし、そこからのアウトロも良いんですよね。
この曲のタイトルの由来は英単語のredeem(神が人を罪から救う)という説があって、「自分の罪の意識は神に祈ったくらいでは消えない」という皮肉を込めた内容の歌詩なのかなと思ってます。恋人に対して犯した罪への贖罪の意識というか。もし殺害だったら「INCREASE BLUE」とかとも関連付けられそうな気も笑
この曲は2004年のVULGAR[ism]の映像が好きです。後半の「バカにしてる」連呼からのラスサビが圧巻ですし、曲のテンポもかなり速いので、特にDieさんの弾き倒してる姿もカッコいいですね。2016年のVULGARツアーではラストの「閉ざしたたま」を3回繰り返してましたが、こちらも良アレンジだと思います。

7 明日無き幸福、呼笑亡き明日

DIRでは珍しいシャッフルビートが用いられた、ジャジーな疾走曲。軽快でノリの良いサウンドと、V系感溢れる艷やかなメロディの融合が特徴的です。全体的にキャッチーですが、歌詩のやさぐれ感がいかにもこの時期のDIRって感じです。
曲の構成としては、2種類のメロディパートと、シャウトのパートで構成されており、間奏らしい間奏はなく、最初から最後まで突っ走っています。メロとサビの区別もあまりない感じですが、最後で高音域のメロディが入ってきてハッとさせられますね。シャウトのパートはちょっと縦ノリ感があります。
ジャズ風な曲調ということもあり、ベースがかなり目立っていて、特にAメロの部分ではバキバキした音でグイグイ引っ張ってきます。また、Dieさんのカッティングも要所に入ってきて、ジャズとは異なったバンドサウンドの鋭利さが際立っています。音は刺々しいのに曲は軽快というのが『VULGAR』らしいですね。
曲に引きずられてか、京さんの歌はかなりネットリしてますね。シャッフル曲ってDIRでは珍しいですが、V系とは親和性があると思うので、歌い方的にも合ってると思います。シャウトも心なしか初期っぽい。巻舌を入れたり、ドスの利いた声でシャバダバ言ってみたりと遊び心のあるアレンジですね。
歌詩はやさぐれてますね笑 大人になるにつれて、本音と建前の使い分けを周囲が覚えていく中、本音で生きてる自分は白い目で見られる。周囲を内心バカにしてるけど、気づけば孤立してるのは自分の方、というリアルな話です。歌詩に出てくる「White-washing」はクリーンな建前で染めていくという意味だと解釈しています。
この曲はあんまりライブでは演奏されていない印象がありますね。2016年の『VULGAR』ツアーで聴いたときは、DIRにはあんまりないリズム感ということもあってノリ方がよく分からなかったという記憶があります。でも巻舌をしっかり再現していたのが印象的でした笑

8 MARMALADE CHAINSAW

京さん、Dieさん、Toshiyaさん共作の和風ホラー系のミドル曲。まさにチェーンソーのようにザクザク刻んでくるおどろおどろしいリフと、変幻自在のボーカルワーク、冷笑的な歌詩と、DIRの本領がこれでもかと詰め込まれている人気曲です。
イントロからして人を殺してそうな不穏なギターから始まり、不気味な裏声とともに曲が始まります。ヘヴィなサウンドと吐き捨て系のボーカルで進行しますが、時折入る裏声とクリーンギターが、ホラー感に拍車をかけています。全体的にちょっとDEAD ENDの曲のようなオカルト感があるような気も。
この曲もDieさんのギターが良い味を出しています。イントロの不気味なエフェクトとミュートを効かせたギター、サビ前や間奏後に入ってくるクリーンギターなど、音選びのセンス抜群です。8ビートのリズムを基調としていますが、時折入ってくるヘドバンパートもめちゃくちゃ好きです。改めて聞くと展開めっちゃ凝ってますよね。
京さんのボーカルもかなり凝っていますね。「One Twelve Two…」の右から左から殴りかかってくるようなシャウトや、「遊びましょうチェーンソーで」の気色悪い声からの低音シャウト、「素直に生きてるのが…」のファルセットなどの飛び道具だけでなく、メロディも普通に綺麗という贅沢ぶりです。
歌詩はなんとも厨二心をくすぐられるというか。「明日無き幸福、呼笑亡き明日」とテーマは近いと思いますが、こちらは世間への反骨精神をシニカルにぶつけている感じですね。「素直に生きてるのが長所で短所はございません」は本当に名言だと思います。でもどこか世間との折り合いを薄っすらと夢見てるようにも見えます。
この曲、「時計じかけのオレンジ」がモチーフらしいですが、映画見たことないんですよね… ライブではあまり演奏されていないんですが、かなりノれる曲なので、もっとやってほしいと思います。頭も振れるし踊れるし、叫ぶこともできてかなり美味しい曲です。

9 かすみ

15thシングル。「MARMALADE CHAINSAW」の緊張感を浄化するような美しい曲です。『VULGAR』はテンポが遅い曲が少ないので、良い意味で浮いた曲だと思います。グイグイ攻めてくる曲が多い『VULGAR』ですが、この曲はゆっくりと闇の中に引きずり込んでいく重みを感じます。
シングル版とアルバム版で違うみたいなんですが、アルバム版の方が音圧があるように思います。それ以外は違いを感じないので、再録ではなくリミックス、リマスタリングされてるんですかね。

10 Я TO THE CORE

Shinyaさん原曲のパンク曲。ボーカルが入っている曲の中では現状最短(1:47)の曲です。泥臭い歌詩とともに爽快に駆け抜けていくメロコア系の曲ですが、音はどっしりと重くボーカルはいかついガナリ声という「ずらし方」が面白い一曲です。
出だしのパートは『VULGAR』色全開のヘドバン系の縦ノリ感がありますが、30秒あたりからはパンキッシュに疾走します。全体的にちょっと青春パンク感すらあるような明るめのコード進行で、メロディもキャッチーですが、歌も演奏も激重というギャップが特徴的ですね。
演奏面ではやはり疾走感のあるドラムが耳を惹きますね。こういう正統派のフレーズってDIRだと珍しいというか。あとは曲のエモさはベースラインによるところもかなり大きい気がします。曲のジャンルもあるのか、バンドの一体感を一際感じられるような楽曲だと思います。音の激しさが心地良いです。
京さんのボーカルも、かなりガナってますね。でもこういう声質でちゃんとメロディを歌ってる曲ってかなり珍しいような気がします。というか、普通に器用ですよね。この曲、普通に歌えば歌詩もストレートに入ってきて相当エモいと思うんですが、そこでずらしてくるあたりが京さんらしいですね。
歌詩については、またもや世間との断絶がテーマになってそうですが、自分の言いたいことが伝わる人に向けては声を枯らしてでも伝えたいという前向きさがあります。左耳のことにも言及されてますし、京さん個人としてのメッセージ性を感じます。「汚れてしまえば誰もが一緒さ」は個人的にかなりお気に入りの歌詩です。
この曲も最近はほとんど演奏されてませんね。2016年のVULGARツアーではほとんど客に歌わせてたような記憶があります。 昔の映像を見ていると、短い曲だからか、2回連続で演奏されていたようですね。拳を上げながら一緒に歌いたくなる曲です。

11 DRAIN AWAY

14thシングル。改めて聴くと、メロディアスさとノリやすさが上手く共存していて、『VULGAR』の曲を一曲に凝縮してキャッチーにしたような作りの曲になっていると思います。
アルバム版は再録されており、音がクリアになった他、サビのメロディも一部変わってます。私はアルバム版から先に聴いたので、シングル版のメロディはどうしても違和感がありますね…笑 音的にもアルバム版のほうが好きです。

12 NEW AGE CULTURE

ダンサブルでファストなハードコア曲。音自体はゴリゴリですが、時折入ってくるシンセの音や、コード進行とメロディが軽やかで、踊れる曲という感じです。個人的には羅刹国をパリピ風にアレンジした曲っていう印象で、ライブで演奏されると楽しい曲です。
最初と最後にパーティ会場か何かのガヤの音があり、どことなくムーディな雰囲気ですが、曲が始まるとゴリゴリ疾走していきます。全体的に速いテンポですが、間奏では浮遊感のあるシンセがフィーチャーされていたり、ノリの良いリフが多用されていたりと、踊りやすさを重視したアレンジになっています。
音作りの面では、やはりシンセが効果的に使用されているように思いますね。ヘヴィなギターの音とも違和感なく溶け合っていて、ポップさとヘヴィさが上手く混ざっていると思います。個人的には、出だしの薫さんのワウの効いたギターで溜めてから、一気に走り出す感じが好きです。
この曲でも京さんはいろんな声を使っていますね。時折ファルセットも混ぜ込まれつつ、低音のメロディが主体ですが、サビではメンバーのコーラスと掛け合いながらさまざまなシャウトを披露してくれます。志村けんのような鼻にかかった声も結構使われてますね。心なしか全体的に歌い方が軽やかな感じがします。
この曲の歌詩もどこか建前批判的というか、ヤケクソな反骨精神を感じます。口先で生きている奴らをこき下ろしつつ、自分たちは欲の赴くがままに踊りまくろう、みたいなニュアンスを感じます。「You know, money can by anything.」というフレーズが印象的ですが、これは本音っぽくないように思いますね。
この曲は本当に時々セトリに入ってくる印象ですね。直近だと2019年の「This Way to Self-Destruction」ツアーで聴きましたが、結構楽しかったです。コーラスが多い曲はやっぱり盛り上がりますね。アルバムだと地味な立ち位置の曲ですが、VULGAR特有のポップさとヘヴィさの融合が象徴的な曲だと思います。

13 OBSCURE

『VULGAR』のリード曲。7弦ギターと5弦ベースを用いたドロドロの重低音、美醜と緩急が入り混じった曲構成、阿鼻叫喚のボーカルワーク、和風エログロな世界観と、まさにこの当時のDIRの真髄が詰め込まれた一曲となっています。MVが過激なことで有名です。
不気味なピアノの音から静かに始まり、スローな縦ノリのパート、ヘヴィに疾走するパート、静かに聴かせるメロのパート、跳ねるようなシャウトのパート、美麗なサビと、VULGAR全部盛りみたいな構成が魅力的です。雰囲気は終始おどろおどろしいですが、不思議と切なさも感じるのがDIRらしいと思います。
この曲はやはり薫さんの弾くリフの音がシンプルながら印象的ですね。近年の音作りにはない独特の汚さがあって、まさに嘔吐を連想させるようなサウンドになっていると思います。Dieさんの高音で聞かせる日本音階のフレーズとは良い対比になっていますね。美醜の入り混じり方が絶妙だと思います。
ボーカルについては、特にファルセットが効果的に使用されており、主旋律でもバックでもいろんな形で登場し、曲の狂気と儚さを演出しています。野太いシャウトからふざけたような声まで多彩ですが、歌うところはしっかり歌っていて、特に、阿鼻叫喚のシャウトのパートと力強く高らかなサビの対比が良いですね。
歌詩については、日本的な情緒を感じさせるようなフレーズが多いですが、字面の美しさとは裏腹に悲劇的な場面が想起されます。繰り返される男との望まない交わり、悪阻による吐き気、幾度となく中絶してきた未熟児、最終的には男を殺してしまう女の物語が描写されているのだと解釈しています。
この曲は2011年にリメイクされるのですが、音のドロドロ感とサビのパワーの面で、圧倒的に原曲の方が勝っていると思います。なお、個人的には『UROBOROS』の武道館の時のアレンジが一番好きで、あれこそがこの曲の完成形なのではないかと思っています。いつか戻してほしい…というのが正直なところです笑
ちなみにこの曲、ライブでは最多の演奏回数を記録しており、まさにDIRを象徴する曲の一つと言えると思います。しかし、かれこれ30回くらいライブに足を運んできた私は、この曲とはあまり縁がないのか、まだ3回くらいしか聴けていません笑 あわよくば旧版で聴ける日を楽しみにしています。

14 CHILD PREY

13thシングル。どちらかと言えば『six Ugly』の雰囲気を感じる曲ではありますが、音のミックスが変わって『VULGAR』にしっかり馴染んでいます。アルバム版は音がよりヘヴィになっており、またシングル版ではセリフだった「The reason 〜」の部分がシャウトに変わっていてパワーアップしています。ちなみに、タイトルの表記も、他の曲に合わせてか「Child prey」から全て大文字に変わっています。
「OBSCURE」の狂気とは対照的に、明るいノリの曲です。DIRのアルバム恒例の、「終盤の速い曲」枠だと思います。

15 AMBER

ラストを飾るメロディアスなミドル曲。アルバム内では珍しくストレートな曲で、ヘヴィさの中から聴こえてくる美麗な旋律、クリーンボイスを主体としたエモーショナルなメロディ、絶望の中で少しの前向きさを感じる決意表明のような歌詩が特徴的です。
曲の構成も王道のAメロ→Bメロ→サビの繰り返しと、DIRの曲ではむしろ珍しいくらいにシンプルな構成で、ある種の潔さを感じますね。また、チューニングは落としているものの、曲のキー自体は『MACABRE』期の曲と近いこともあり、音の荒さの中に懐かしい耽美さを感じます。まさに琥珀色の音という感じです。
どこか侘しさを感じるイントロのシンセを始め、随所に電子的な音が混ざっていますが、薫さんのギターのエフェクトが効果的に使用されています。特に1サビ後のワウを効かせたギターのフレーズが印象的ですね。また、歪んだギターの音に隠れていますが、クリーンギターやバキバキのベースの音も密かに曲を彩っていますね。
京さんのボーカルはほとんどクリーンボイスで、サビは1回目と2回目で1オクターブ違っているのが特徴的です。まさにこの頃の京さんの小細工なしの歌声が聴ける曲だと思います。間奏ではほぼ聴こえないウィスパーで英詩を呟いていますが、楽器隊といい、聴こえにくい音へのこだわりが魅力的ですね。
歌詩は京さんいわく、このアルバムで一番攻撃的とのことですが、おそらく、自分たちのことを分かったような気でいるファンとの決別の歌ではないかと解釈しています。それは苦しいことではありますが、それでも本当に伝わる人に向けて「声が枯れるまで歌おう」と決意しているのではないでしょうか。
この曲は『VULGAR』では唯一、まだライブで聴いたことがないんですよね。2016年の『VULGAR』ツアーでも聴けませんでした。一応、時々セトリに入ってくる曲なので、何回かライブに通っていたらいつかは聴けるのではないかと思って楽しみにしています。


明らかに方向性を模索していた『鬼葬』とは異なり、本作は方向性がかなり明確になっているような印象があり、アルバムとしての統一感を強く感じました。全体的にアグレッシブな作風ではありますが、聴きどころも盛りだくさんで、バランスの取れた作品だと思います。

この作品で一つの到達点に辿り着いたDIRですが、今後はこの『VULGAR』の曲の作り方がある種の基盤となり、時系列を追うごとに音も世界観も深く、重くなっていきます。次回は名曲揃いと名高い『Withering to death.』ですね。最高傑作と呼ばれることも多いアルバムなので、また聴き直すのが楽しみです。

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