【DIR EN GREY 楽曲感想】鬼葬

10年ぶりのPSYCHONNECTツアーが続いている中で、最近自分の中でまたGAUZEが熱くなってきていますが、楽曲感想は引き続き書いていきます。
今回は3rdアルバム『鬼葬』の感想です。

前作『MACABRE』は、ヒット曲揃いだった前々作『GAUZE』とは異なり、非常に作りこまれた重厚な作品でした。また、リリースの際には、京さんが突発性難聴にかかり、ツアーを延期するなどのアクシデントがあったものの、それをきっかけにして、メイクやパフォーマンスもどんどん過激化していきました。近年のDIR EN GREYにも通ずるような基礎となる部分は、この頃に形作られたとも言えるように思います。

2001年4月に、2度目の武道館公演を成功させ、『MACABRE』の世界を一旦完結させたDIRはここから新たなフェイズに入っていきます。9月に『FILTH』、11月に『JESSICA』、12月に『embryo』と、立て続けにシングルをリリース。そしてそのいずれもが『MACABRE』以前には見られなかったような音楽性を感じられるような作風となっています。そして、2002年1月に、3rdアルバム『鬼葬』をリリース。(今見るとめっちゃリリースペース速いですね…)先行シングルの時点からではありますが、バンドとして変わっていきたいという意志を強く感じさせられるような作品となっています。

リリース後は、上海や香港、台湾など、初のアジアツアーも開催。後年、ワールドワイドに活躍するDIRですが、その第一歩を踏み出したと言えるでしょう。


FILTH(2001.9.12)

10thシングル。c/w曲は「逆上堪能ケロイドミルク」です。
この頃のアー写及びMVの京さんの姿がおぞましすぎて面白いです笑

1 FILTH

エログロ変態なミドルナンバー。よくこんな曲をシングルで出せたなと思えるくらいイカれた曲ですね笑 個人的には、一曲の中に『鬼葬』のあらゆるエッセンスが詰め込まれた、非常に完成度の高い曲だと思います。 また、音楽性の変化を顕著に感じます。
この曲から、これまでのDIRとは根本的に違ったアプローチになってきます。例えば、ギターのチューニングが下がっていき、この曲も1音下げで演奏されています。また京さんの声質も、よりミックスボイス寄りになり、この曲では過去最高音のC5が出ており、ここからどんどん音域が広がっていきます。
この曲、正直好きすぎてどこから魅力を上げていけば良いのか分からないんですが、まずはサビとそれ以外の箇所のギャップですかね。サビ以外は音もボーカルもカオスで、電子音やエフェクトも交えつつ、色んなところから音や声が飛んでくるような感覚で、声も裏声から変態声、セリフなど多彩です。
対してサビは超美メロで、京さんの声が美しく響いています。ミックスボイスになった影響か、平均キーがかなり高いですが、余裕で出ているような感じがします。そして、ラストのパートでは内臓の料理についての歌詩を狂ったように繰り返してますが、対照的にバックで流れているクリーンギターが美麗で非常に良いですね。
あとは電子音の使い方、ノイズ混じりのドラムの音、ホラーチックなギターソロなど、好きな部分はいくらでもありますが、歌詩のグロさが直接的過ぎるのが玉にキズですね…笑 私は『鬼葬』ツアーには参加できなかったので、まだこの曲は生で聴いたことがありませんが、一度このカオスを生で味わいたいと思います。

2 逆上堪能ケロイドミルク

和風四つ打ちダンスナンバー。「FILTH」とはまた違った意味で、こちらも新機軸を攻めたような曲です。変態の香りのするタイトルの割には落ち着きのある曲で、どこか社会風刺的な雰囲気もあります。『鬼葬』の中では人気曲のイメージです。
何やら悪趣味なショーでも始まりそうなギターのイントロから京さんの美麗なファルセットが不気味に響く導入部分がインパクト抜群で、間奏やサビは和風な打ち込み音とともにヘヴィに攻めます。歌詩が「夜な夜な夜な夜な」や「ガラガラキリガラガラガラ」など繰り返しの言葉が多いのも印象的です。
サビはシリアスなメロディですが、後半になってくると地声とシャウトが混ざったようなドスの利いた声になり、渋い歌声になってます。 歌詩は、虐待の復讐で親を殺し、死刑判決を受けた主人公の心情と、その事件に関する報道の表面的な情報に踊らされる視聴者への皮肉を表現しているのかなと私は解釈しています。
この曲は『鬼葬』の中でも度々ライブで演奏されている印象がありますが、私はまだ聴いたことがありません。ライブ映像を見る限り、ノリやすいからか結構盛り上がっている印象なので、ぜひとも一度聴いてみたいと思います。1曲目とかに合いそう笑


JESSICA(2001.11.14)

11thシングルで、当時は2か月連続リリースの第1弾とされていたようです。c/wは24個シリンダーです。

1 JESSICA

爽やかに駆け抜けるパンク曲。複雑怪奇な前作から一転、DIRの中でもかなり聴きやすい曲です。底抜けに明るい演奏、高ぶるような疾走感、キャッチーなサビ、女々しくもどこか共感を誘うような歌詩と、どこを取っても隙がないポップソングです。
ただ、ポップではあるものの、意外と曲の構成は変則的です。特に、1サビ→間奏→Bメロ→間奏→Cメロと間奏の挟み方がちょっと珍しい感じですね。 また、基本的にメロディはキャッチーですが、Bメロで急にラップっぽくなったり、ラストでシャウトが入ったりと、平坦な歌にならないような工夫がされています。
演奏面では、低音でヘヴィに刻む薫さんと、高音で掻き鳴らすDieさんの役割分担が分かりやすいですね。あと、ドラムが結構手数が多くて忙しそうです。 また、ボーカルの音域がさらに広がっていて、この曲では当時最高音のD5まで出ています。声のネットリ感とメロディの爽やかさが良いギャップになっていますね。
歌詩はパンクっぽい表現も混ざりつつも、自己開示的でかなり女々しい感じになっているのが面白いですね。個人的にラスサビの「恋い焦がれ〜夢は終わる」あたりの言葉のパズル感が結構気に入ってます。 ライブではまだ聴いたことありませんが、楽しそうですね…アンコラストとかで聴いてみたいです。
初めてこの曲を聴いたとき、DIRにもこんな明るくてノれる曲があったのかと驚いた記憶があります。以降、似た曲はほとんどありませんが、この曲で引き出しが一つ増えたように感じていて、『sixUgly』以降の音楽性の変化の基礎になった曲なのではないかと思います。
ちなみに…車を運転しながら「JESSICA」を聴くとめちゃくちゃ気持ちがいいのでオススメです笑

2 24個シリンダー

Dieさん原曲のミディアムバラード。表題曲は明るいノリの曲でしたが、こちらは対照的にややジメッとしていて哀愁漂う曲ですね。どことなく、日本的な情緒を感じる演奏とメロディで、京さんの感傷的なボーカルが映える隠れた名曲です。
何と言っても特筆すべきはギターのフレーズで、イントロから始まるDieさんのリフのフレーズ、薫さんの奏でるクリーンのアルペジオが哀愁を醸し出しています。また、全編通して機械的な無機質さを感じるドラムも印象的です。珍しく、 京さんが長めの英語セリフを呟くパートがありますが、その部分のベースの音もゴリゴリしてて良いです。
また、歌のメロディがめちゃくちゃ良いですね。京さんの表現力も向上していて、後半にはシャウトと共に感情を爆発させるかのような歌い方となり、ライブのような臨場感があります。直前の英語セリフのパートが、静かな演奏とともに淡々と進んでいくので、そことのギャップも良いです。
歌詩は「時」がテーマになっていて、お互い分かり合えずに冷めきった関係の2人の「終わりの時」について歌っているのかなという印象です。 2017年のライブ映像では一人称が「俺」になってますね。英語セリフは言わなくなりましたが、バックの演奏だけでも、静かな緊張感があって良いなと思いました。


embryo(2001.12.19)

12thシングルで、2か月連続リリースの第2弾。リミックス以外のc/w曲はありませんが、歌詩がアルバム版と全く異なっています。

1 embryo

ポエトリーリーディングのようなメロが特徴的な、陰鬱ミドルナンバー。これも新機軸を攻めてきたような曲ですね。全体的に暗いのですが、どこか浮遊感があって穏やかさも感じます。何かに包み込まれているような、まさに胎児のような曲です。
真っ先に耳に残るのはやはり京さんの呟くような歌唱法でしょう。ラップというかポエトリーリーディングというか、リズミカルに小声でボソボソと、でもいつ発狂するか分からないような不穏な様子の語りが印象的です。 反面、サビに入ると伸びやかに美麗なメロディを聴かせてきます。他の曲にないボーカルアプローチで、初聴の際は驚きました。
曲も独特な雰囲気を放っていて、規則的なドラム、浮遊感のあるベースライン、宇宙感のある打ち込み音、優しげなギターのアルペジオと、思わずボーと浸ってしまうような感覚になります。 特に、打ち込みのようなドラムの音が好きで、こういう曲にこそShinyaさんの色が出ているように思います。
歌詩については、シングルでは規制され、本来の歌詩はアルバム版で披露されます。このシングル版では、規制に対する怒りが込められており、失われていく自由、ということにも触れられていますが、本当にただ書き殴った感じのようです。一応、よく読むとアルバム版の歌詩の内容をぼかして書いているようにも見えますね。アルバム版の歌詩はかなり重いので、密かにこっちの方が好き、という人もいるかもしれないです。
ちなみに、このシングル版は、ベストアルバム『DECADE』に収録されています。


鬼葬(2002.1.30)

3rdアルバム。前作『MACABRE』からは1年4か月しか経っていないにもかかわらず、音楽性の変化がめざましいアルバムです。いわゆる従来の「V系らしい」音楽からの脱却を図ったような作品で、全体的にハードコアに寄っているように感じます。弦楽器のチューニングも下がり、京さんの歌声やシャウトにも変化が見られます。(もっとも、京さんの歌声はある意味以前よりV系らしさを増しているとも言えなくはないですが笑)また、タイトルのイメージ通り、全体的に和風なロックを志向して作られているようにも思います。
「痛み」を表現しているのは結成当初からではあるものの、このアルバムで描かれている「痛み」はこれまで以上に生々しいというか、社会のタブーに触れるような詩世界や、吐き気を催すようなエログロ表現が多用されており、その部分で賛否が分かれているように思います。
試行錯誤の過程であることを強く感じさせられるアルバムですが、その分、このアルバムにしかない要素もたくさんありますので、ファンなら聴いておいて損はないと思います。ちょっとアングラでB級な香りのする和風ハードロックを聴きたい人にオススメの一作です。

1 鬼眼 -kigan-

『鬼葬』のオープニングナンバー。1曲目にして、アルバムを象徴するような曲だと思います。イメージとしては京都の遊郭的な世界観が想起されるような和風ホラー曲で、おどろおどろしいメロのパートと、疾走感溢れるサビの対比が特徴的な曲です。
DIRの曲では、メロが速くてサビが遅いというのが定番のパターンではありますが、この曲は逆になっています。メロのパートは和太鼓のようなタム回しと、どこかいやらしさを感じるような薫さんのクリーンギターのリフに、色気のある京さんの歌が特徴的です。京さんの声質もだいぶ変わってきましたね。どことなく、怪談でも始まりそうな怪しさがあります。
サビになるとツタツタと疾走しますが、以前の疾走曲とは異なり、バックのギターの音が低いです。このあたりから脱Vの兆しが見られます。ラスサビではシャウトの嵐になりますが、ここに来て低音強めの太いシャウトが使われるようになります。いろんな声を持つ京さんですが、個人的にはこの太いシャウトはかなり好きな方の部類に入ります。最近また多用してくれててうれしい笑
2サビが終わった後、ミクスチャーロックのように、跳ねるパートがありますが、ここが個人的に一番好きです(リメイクではなくなってましたが、ここのギターソロめっちゃカッコいいです)。 歌詩は和風なエログロって感じで、言葉選びに日本を感じさせるものが多いです。どちらかといえば雰囲気モノというか。 音質は良くないですが、このガチャガチャ感が曲に合ってる気がします。
2018年にリメイクされますが、個人的には原曲の方が音の汚さも含め、雰囲気を感じられて好きです。 ライブではリメイク版しか聴いたことがありませんが、多分印象は原曲とほとんど変わらないような気がします。徐々に盛り上がってくる感じが楽しかったです。

2 ZOMBOID

B級感漂うエロ系ハードコア曲。凶悪なシャウトとともにヘヴィに疾走する、非常にカッコいい曲ではありますが、歌詩がなんせヒドイですね…笑 『鬼葬』のテーマの一つに「変態」というのがあるように思っているのですが、この曲はそれが顕著に出ています。
ですが、単純に曲のカッコよさなら、『鬼葬』の中でも1,2争うレベルかと思います。崩れた歌メロで走るAメロ、縦ノリが映えるBメロ、低音シャウトで攻めるサビ、曲全体を彩る電子音、生っぽいドラム音、ヘヴィなギターリフと怪しげなアルペジオ、要所でうねってくるベースと、本当に隙がないと思います。
京さんのボーカルもかなり印象的で、Aメロの巻き舌とコブシを効かせて低音シャウトの成分も混ぜたような歌い方はこの曲ならでは。他のパートはシャウト全開ですが、めっちゃドスが利いてます。 歌詩はまあ…今見ると笑えるし、汚さみたいなのを強調したかったのは分かりますが…なんともって感じです笑
この曲は次の『SixUgly』に進むあたって、アレンジや音作りの面において大きな指針になった曲なのではないかと思います。最近、MY BLOODY VAMPIREのライブ映像を見ましたが、やっぱりこの曲はライブ映えが凄まじいですね。今の京さんのドスの利いたシャウトによって、さらに凶悪になっていました。

3 24個シリンダー

11thシングルJESSICA』のc/w曲。「鬼眼 -kigan-」、「ZOMBOID」と攻めの曲が続いていましたが、ここにきて箸休め的なポジションになっています。この曲はこの曲で攻めている部分もあるのですが、このアルバムの中だと比較的癖がないというか、真っ当に聴きやすい曲だと思います。

4 FILTH

10thシングル。「24個シリンダー」で少し落ち着いてからのカオス到来です笑
この曲は『鬼葬』の持つ様々な要素(変態エログロ、和風、悲哀を感じる美メロ、デジタル感、ヘヴィさなど)を一曲に凝縮したような曲なので、これ一曲聞いただけでも『鬼葬』の雰囲気がだいたい分かると思います。前後の歌もの二曲をダレさせずに上手くつなげるような位置にあるような気がしますね。

5 Bottom of the death valley

Toshiyaさん原曲のミドルナンバー。オールドロックを意識して作られたということもあり、レトロな雰囲気が漂います。静かな曲かと思いきや、急に激しくなり、シャウトも多用されています。なかなか癖があって一筋縄ではいかない曲という印象です。(Toshiyaさん原曲の曲ってだいたいそんな感じな気がしますが笑)
ジャジーで静かなAメロと、歪んだギターが暴れているサビに分かれていて、サビは前半が歌メロ、後半がシャウト混じりのメロディとなっています。イントロは珍しくベースのアルペジオから始まり、原曲者の色を感じます。間奏はDieさんのクリーンギターによる渋めのソロパートがあります。
このように、展開は多彩ですが、不思議と曲全体の雰囲気は統一感があり、夜中に走る車の情景が思い浮かびます。
歌詩では母娘が車ごと谷底に投身する情景が描かれている他、薬物中毒や[R](意味は2013年版で分かります)の表現もあり、重く陰鬱です。「embryo」と話が繋がってたりするのかな…?
個人的に好きなのは、サビ後半で一気に発狂する感じと、間奏のDieさんのソロのパートです。 2013年にリメイクされますが、あちらが重さに特化しているのに対し、こちらはノれる部分もあるので全然違った印象で、一概に比較はできませんね。 全体的に、鬼葬特有の重苦しさが色気という形で顕になったような曲と言えるでしょう。

6 embryo

12thシングルですが、こちらは本来の歌詩で歌われています。かなり重めかつリアルな近親相姦が描かれており、初めて読んだときはちょっと気分が悪くなった覚えがあります。でも個人的にはこちらの方が好きです。曲の暗さも相俟って本当に救いのない感じが、痛々しくも引き込まれるといいますか。
ライブでは2コーラス目の途中、叫ぶような歌い方になり、ヤケになって狂った主人公の姿が想像できます。まさに「痛み」を感じる曲です。
前曲のBottom of the death valleyから救いのない曲が続いていますが、この重苦しさこそ、『鬼葬』の醍醐味でもあり、賛否が分かれる部分なのではないでしょうか。
ところで、この曲が規制されて「FILTH」が規制されていないのもなかなか面白いところですね。まあでもこっちはリアルにトラウマを刺激されるような人もいそうだな…と考えるとある程度納得はできます。FILTHはある意味ファンタジーみたいなもんなので…笑

7 「深葬」

SE曲。「embryo」と「逆上堪能ケロイドミルク」の間にある曲ですが、そのいずれとも全く雰囲気の違う曲で、サイバーな質感があります。ブレイクビートのようなリズムの上にシンセのメロディが基調となり、時折京さんの呟きが入ります。
Bottom〜embryoの流れで重くなった空気をいったん和らげて仕切り直すような効果を発揮しているように思います。ライブでは「神葬」とともにオープニングSEで使用されていた時期もあったようです。

8 逆上堪能ケロイドミルク

10thシングル『FILTH』のc/w曲。「鬼眼 -kigan-」とは違った意味でオープニング感のあるイントロなので、ここから仕切り直しって感じですね。次の「The Domestic Fucker Family」と合わせて、デジタル感の強い並びとなっています。

9 The Domestic Fucker Family

京さん原曲のインダストリアルなハードコア曲。デジタルな打ち込みサウンドとともにヘヴィなギターリフ、そこに京さんの多彩なボーカルが乗っかってくる暴れ曲です。めちゃくちゃノれるのにどこか無機質で冷たい感じなのが、京さんらしさを感じます。
この曲も個人的にめっちゃ好きな曲で、まずギターのリフがシンプルかつキレがあっていいですね。リズムも一定でノリやすいのに、所々でタメのパートが入ってくるという展開も面白いです。極めつけは京さんのボーカルワークの幅広さで、歌声、低音・高音シャウト、セリフのような声、エフェクトがかかった声など実に多彩です。特に「Radical Fucker~」の部分と「スリルなゲームを始めようか~」のあたりが好きですね。
歌詩はよく分からないんですが、なんかエロいこと言ってそうな雰囲気もありつつ、ちょっと皮肉っぽいパンクの香りもしますね。多分「Family」はそのままの意味の「家族」というよりは、「同類」みたいな意味合いがありそうな気もします。やたら出てくる「M」は何を意味してるんですかね…?
この曲は2021年にリメイクされ、曲名もT.D.F.F.に変わりました。今やライブの定番曲になっていますね。 個人的にはどっちも好きですが、曲のキーに関しては原曲の方が冷たさを感じられて好きです。(リメイクの方はむしろ熱さを感じられるというか…笑 こっちはこっちで好きですが。)
棘々しさを感じつつも、シンプルにノれて楽しい曲です。

10 undecided

Dieさん原曲のミドルバラード。鬼葬は全体的に新機軸を攻めた曲が多いですが、この曲に関してはGAUZEやMACABREにも通ずるような雰囲気が残っているように思います。切ないメロディと、穏やかだけど悲しげなアコギの音が特徴的な失恋ソングです。
アコギが主体の静の部分、激しめのバンドサウンドが主体の動の部分の差別化がハッキリした構成になっています。まずやはり耳を惹くのは、ギターソロでしょう。DIRの曲の中でもかなり長尺のソロパートですが、静けさの中切なく響く2本のアコギのハーモニーが哀しみをこの上なく表現しています。
動のパートは『MACABRE』の「理由」を彷彿させるような雰囲気ですが、「理由」以上に悲痛なオーラが漂っていて、音の生々しさが哀愁を際立たせているように思います。 またこういう曲になると、京さんの歌声の変化が非常に分かりやすいなと思いました。高音の出し方が「理由」の頃よりも滑らかな気がします。
歌詩は愛した人との別れを描いていますが、このアルバムでは珍しくストレートですね。「涙の向こう側に君はいないさ」という表現が残酷で好きです。 2008年にとんでもない色気を纏ってリメイクされます。まああちらはリメイクというよりアコースティック版という感じもしますが。
ちなみに2016年の『鬼葬』ツアーで演奏されたのは原曲の方でしたが、その後2019年の『The Insulated World』ツアーではリメイク版が演奏され、私は後者についてはライブで聴いたことがあります。原曲の方がギターソロに関しては好きなので、こっちも聴いてみたいと思いますね。

11  蟲 -mushi-

アコースティック色強めのバラード曲。前曲「undecided」も悲壮感がありましたが、こちらはスローな分、さらに重い悲壮感があります。歌詩もひたすら自虐的で、それを強調するような京さんの感情的な歌唱法も相俟って、まさに「痛み」が表現された曲です。
アウトロ以外はギターが全てアコギというのはDIRの曲でも珍しいですね。そのためか、曲全体として落ち着いた印象があります。フレーズは全体的に演歌っぽいというか、和レトロなオーラが漂っています。でもどこかジャジーなオシャレさもあるような気も。個人的にはドラムのスネアの音が心地良いです。
でもやっぱりこの曲の核は京さんかなと思います。低音部分は陰鬱な声でウィスパー気味に歌いつつ、高音になると一気に張りのある声になり、さらに後半は泣き叫ぶように感情的な歌唱法に変わります。
歌詩のテーマはおそらく「分かったフリして手を差し伸べようとしてくる他者や世の中への疑心」と、「それと折り合いがつかない自分」「そんな自分に殺される自分」というどこか近年の歌詩にも通ずる内容で、多分これが京さんにとっての「痛み」の核心なのかもしれないなと思います。最近は「世界との断絶の覚悟」を歌うことも増えてきましたが、この曲はひたすらに自分を責めているようにも見えます。
アウトロに入るとエレキギターも入りテンポも少し上がりますが、ここのギターのフレーズがまた、痛みを抉ってくるような哀愁に満ち溢れています。 近年のライブ映像では終始落ち着いた感じの曲になっていますが、当時のライブではアウトロでマイクを胸に叩きつけたりと、痛々しさを感じます。
何気にベストアルバム2回とも収録されているということもあり、『鬼葬』の中では核的なポジションの曲なのかな、という印象もあります。鬱々しい曲ですが、聴いてると不思議と癒やされるような気持ちになります。

12 「芯葬」

SE曲。1分程度の短いSEで、「蟲 -mushi-」と「JESSICA」という対極な2曲を繋いでいます。他のSE2曲と比べてもシンプルで、同じフレーズを繰り返しています。全体的に暗いですが、レコードのノイズのような音が混じっており、レトロな雰囲気もあります。
「蟲-mushi-」で重くなった空気を緩和する効果があるように思いますが、個人的にはイメージとしては出口の近いトンネルの中を下を向きながらトボトボと歩いているような感じです。辿り着いた先に「JESSICA」という光があるような感じというか。でも「JESSICA」が終わったらまた鬱に戻るんですけどね…笑

13 JESSICA

11thシングル。重くて暗い曲が多いこのアルバムの中では思いっきり浮いてますが、逆にこのアルバムに収録されているからこそ映える部分もあるのかなと思います。この明るい曲がこんな中途半端な位置に入っているのも面白いなと思っていて、最後にスッキリ終わるのではなく、ほんの少し明るい部分が見えてきたところでまた暗くなるというのが実にリアルだなという印象です。

14 鴉 -karasu-

静と動の展開が目まぐるしいミドルナンバー。独特の構成の曲ですが、あえて未完成のまま発表されたようで、ある意味、『鬼葬』というアルバムがどういう制作スタンスを取っていたかが垣間見える曲です。全編通して怪しさと狂気全開の問題作です。
曲の構成としては前半は静と動のパートが交互にやってきて、後半でサビに入ります。静のパートでは、薫さんのディレイをかけたタッピングと、京さんの囁くような歌声が耳にこびりつき、独特の不気味さを放っています。アンサンブルが不協和音気味のためか、何かが「壊れた」ようなヤバい雰囲気がありますね…
動のパートでは、ニューメタル色強めのパワーコードのリフと凶悪なシャウトが暴れまくります。全体的に跳ねるようなリズムということもあり、グルーヴもあってノれるのですが、静のパートとの対比もあって、まさに「抑鬱」からの「発狂」というイメージです。音質の悪さも相俟って暴力感が強いです。
そしてサビですが、ここでは京さんの気の抜けたような歌声(矢井田瞳を意識したとのこと)が特徴的で、ちょっとお経っぽさもあります。ここにきてようやく歌詩の具体的な意味が分かりますが、親の性行為の目撃からの近親相姦、独房での自慰と、『鬼葬』の「変態」要素を集約したような内容ですね笑
最後はヘヴィな音の塊を何度も叩きつけて終わり、次の「ピンクキラー」に繋がります。個人的にちょっとアウトロ長すぎかな…とは思いますが笑
2013年にリメイクされ、このリメイク結構人気が高いイメージがあるんですが、私は原曲の方が、音の汚さ、足りてなさからくる不穏な空気を感じられて好きです。

15 ピンクキラー

『鬼葬』屈指の発狂系疾走曲にして、実質最終曲。過去の曲で言えば「残-ZAN-」が近いのですが、その何倍もの狂気を感じる曲です。ノイズ混じりの轟音と不協和音、変態的な歌詩、ブチギレたシャウトなど、鬼葬の最後を飾るにふさわしいイカれた曲と言えるでしょう。
曲開始直後から2ビートで疾走しており、途中でテンポダウンする部分を挟みつつも、基本的にはずっと速いです。楽器隊全員、弾き倒しているというか、とにかくメチャクチャにしてやるという意志を感じますね。特に、暴力的なドラムの音が迫力満点です。音が乱れすぎて全然何やってんのか分からない部分もありますが、これはこれで勢いがあって良いです。
また、京さんのシャウトも、鬼葬では一番ブチギレてると思います。ただ、京さんに関しては、ファルセットや地声なども駆使した多彩なボーカルワークを発揮しており、この時点での全てを出し切っています。ラストは喉を潰す勢いで叫び倒していますが、最後にため息で終わるのも面白いですね。
歌詩は変態的な内容が多かった『鬼葬』の中でも一際変態要素が目立っています。具体的に書くのも憚られますが、なかなかに汚くて猟奇的です笑
この曲、ライブで合わせるのがかなり難しいらしく、滅多に演奏されていません。2016年の鬼葬ツアーの映像を見る限りは暴れられて楽しそうな気もしますが果たして…

16 「神葬」

『鬼葬』のエンディングSE。変態で下品な曲が多かった『鬼葬』ですが、このSEは心が洗われるかのような美しさ・穏やかさに満ちています。打ち込み音に乗せてピアノの泣きのメロディが響き渡っています。「ピンクキラー」で崩壊した人格が浄化されていくイメージです。
単調かと思いきや、1:10あたりから若干展開が変わったりしています。私はこの展開が変わってからのメロディが本当に好きで、聴く度に涙腺を刺激されます。 曲調はライブの終演SEのような感じですが、実際には開演SEで使われたこともあるそうで、それもDIRらしいですね笑 DIRのSE曲では一番好きかもしれないです。


総評としては、『MACABRE』期から劇的に音楽性が変わっていて、既に別のアーティストみたいだなと思いました。徹底的に作り込まれた『MACABRE』とは対照的に、粗は多いですが、どちらかといえば試行錯誤の過程がそのまま作品になったようなイメージですね。実験的な曲も多く、歴代アルバムを並べてみても異質なオーラを纏ったアルバムで、このアルバムにしかないような雰囲気の曲も多いです。
また、「作品」としての志向が強かった『MACABRE』とは対照的に、「ライブ感」を何より大事にして作られたアルバムでもあります。そのためか、音もライブ感があって生々しいですね。
全体的な印象として、なんとなく「B級」という言葉が似合うというか、メンバーもそれを狙って作ってるようにも思います。 歴代アルバムの中では比較的不人気な印象ですが、DIRが次の段階に進むにあたって、必要な過程でもあったと思いますね。

次の『six Ugly』ではさらなる変化を遂げ、いよいよ本格的にハードコア、ニューメタルに接近していきます。それにしても変化のペースが速い…


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