【DIR EN GREY 楽曲感想】Child prey、six Ugly

つい先日、2度目のANDROGYNOSが発表されましたね。デビュー25周年イヤー、年明けの『19990120』のリリースに始まり、海外での『Withering to death.』『UROBOROS』ツアーとのその劇場版公開、「Cage」「予感」のリメイク、PSYCHONNECTツアーなど、既に十分すぎるくらいのファンサービスが行われていますが、ここにきてのANDROGYNOSですよ。本当に最近どういう風の吹き回しなんですかね…笑 東京公演なので遠いですが、せっかくなら観に行きたいな…と思います。前回は見事なまでのオールタイムセトリでしたが、今回は初期曲多めなんじゃないか、と予想しています。なお、PIERROTは代表曲くらいしか知らないので、ちょっと勉強しないといけないです…笑

さて、今回は13thシングル『Child prey』とメジャー1stミニアルバム『six Ugly』の感想を書いていきたいと思います。

前作『鬼葬』では音楽性の大きな変化が見られ、「脱V系」「ニューメタル・ハードコア化」の傾向が見られました。また、『MACABRE』ではアルバムとして徹底的に世界観が作りこまれていたのに対し、『鬼葬』はアルバムとしての統一感は横に置いた上で、仮に未完成でもとにかく新しい音楽をやっていくという意思を強く感じられる作品でした。そのため、試行錯誤の過程をそのままアルバムにしていたような作りになっていたと思います。また、ライブにおいても世界観構築を重視していた『MACABRE』期とは異なり、『鬼葬』リリース時は「ライブ感」を意識していたようで、音作りも生々しいものになっていました。

その流れの中、『鬼葬』リリースからわずか半年後に、シングル『Child prey』、ミニアルバム『six Ugly』がリリースされます。『鬼葬』でも「ニューメタル・ハードコア化」の片鱗がありましたが、この2作はその方向性を徹底的にやり切ったアルバムと言えるでしょう。と同時に、今後のDIR EN GREYの方向性を決めるきっかけになった作品にもなったのではないかと思います。

本2作は『鬼葬』のツアーとして開催されていた列島激震行脚シリーズの真っ只中にリリースされました。このことからも、本作は『鬼葬』の延長として作られていたことが分かります。ツアーファイナルは横浜アリーナで行われ、映像作品もリリースされています。この頃になるとメンバーのヴィジュアルもだいぶラフになってきますね。


Child prey (2002.7.31)

13thシングル。DIRでは珍しい、ミニアルバムとの同時発売です。表題曲はこの次の『VULGAR』に収録されます。(ちなみに、アルバム版は「CHILD PREY」に表記が変わります。)c/wは「鬼眼 -kigan-」「Hydra」「羅刹国」の音源で、本作からc/wにライブ音源が収録されるようになります。当時のライブへの意識の高さの現れでしょう。ちなみにこの頃、京さんはおふざけでボーカルのクレジットを変えていて、本作では「マイケルジャクサン」と表記されているようです。

1 Child prey

勢い全開のヘヴィロックです。このあたりから本格的にニューメタルの領域に接近し、ギターもドロップチューニングがデフォルトになってきます。とにかくライブが楽しい曲です。
コーラスが大量に入っていて、メンバーの野太いシャウトとサッカーの応援歌のようなメロディが特徴的です。以前はファストな曲でもどこか冷たい感じの雰囲気の曲が多かったですが、この曲はどちらかといえば拳を上げて泥臭く叫べるような熱さを感じます。ノリと勢い重視の曲と言いますか。
ギターの低音ブリッジミュートとメンバーのシャウトが主体のヘヴィなパートと、インダストリアルな雰囲気のメロのパート、爽快感のあるコーラスが映えるサビのパートで構成されていますが、どこを取っても楽しく暴れられるライブ曲ですね。2サビ後は泣きのメロディアスなパートが始まり、ここでいったん落ち着きますが、そこから爆発するかのようにシャウトのパートが始まるのが好きです。
歌詩については語感重視だと思いますが、「The reason〜」は意味深ですね笑 「心から笑えないこと」を「それが人生だ」と言い切ってしまうあたり、京さんらしいなと思います。
この曲、ほとんどセトリに入らない時期もありましたが、近年はメンバーの中でも再評価されてきたのか、頻繁に演奏されるようになりました。まあ、この曲始まったら間違いなく盛り上がりますもんね笑 私も何回か聴いたことがありますが、思いっきり叫べて楽しいです。DIRらしさは薄いとは思いますが。
収録曲ではないものの、『six Ugly』の勢いが一曲に集約された曲だと思います。

six Ugly (2002.7.31)

1stミニアルバム。前作『鬼葬』からわずか半年後のリリースで、「とにかく全部ハードでヘビーなもの」をコンセプトに作られたアルバムです。『鬼葬』の延長で制作された本作ですが、まさに『鬼葬』に不足していた、シンプルにライブで暴れられる曲を補完する作品となっていると思います。音作りは『鬼葬』のようなライブ感のある音がさらに洗練されており、ライブへの意識の高さを感じさせられる作りとなっています。
本作では、これまで大事にされていた「メロディアスさ」がかなり排除されており、歌詩もどちらかと言えば意味よりも語感を重視して書かれているため、意味不明な部分も多いです。その意味でも、かなり思い切ったことをしたアルバムだというのが私の印象ですね笑
難しいことは考えず、とにかく激しい曲を聴いて暴れたい、という人にオススメの一作だと思います。

1 Mr. NEWSMAN

Dieさん原曲のヘヴィロック。『six Ugly』のリード曲的な位置づけの曲ですが、ハードな曲が多い本アルバムの中では一番メロディアスな曲です。ちなみにMr.NEWSMANとは、本アルバムのジャケットに描かれている人物のことのようです笑
シンセのようなDieさんのリフが特徴的で、これがあることで曲にデジタル感が出ているような気がします。「NEWSMAN GO HELL」のコーラスと「MR.NEWSMAN」と呟く京さんの掛け合いが終わると同時に一気にヘヴィなリフで疾走しますが、このリフがなかなかカッコいいんですよね。
「Check it up 1 2 3 4 5」のあたりのリフも個人的に好みで、この曲はやっぱりギターの音が良いなと思います。 京さんの声の出し方も、『鬼葬』のアプローチとは少し変わっていて、粘り気が若干薄まったような気がします。また、「チェケラ」みたいなワードを渋い声で言ってるのがちょっと面白いなと思ったり笑
「NEWSOCIETY」や「叫んだ」など、随所に入ってくる美しいファルセットがアクセントになっていて良いと思います。 歌詩はなんとなく、「逆上堪能ケロイドミルク」にも通ずるような社会風刺の香りがしますね。メディア批判というより、メディアに踊らされてる人々への批判というか。サビの「Blue Fish」は何かの比喩なのでしょうか…?
近年のライブではサビの後半がやや高音域のメロディに変えて歌われていますが、個人的にはライブ版の方が好きです。 この曲、『six Ugly』曲の中では比較的高頻度で演奏されていて、メンバーの中では推し曲になっているのかなと思います。ライブではDieさんの汚い声(褒め言葉)のコーラスが魅力的ですね。

2 Ugly

Shinyaさん原曲のダークなミドルナンバー。機械的なドラムと怪しげなクリーンギターに始まり、サビでヘヴィに爆発する暴れ曲です。『鬼葬』のときは一曲も採用されなかったShinyaさんですが、それが悔しかったのか、自分なりにヘヴィロックを研究し、本作では2曲採用されています。
この曲、やっぱりドラムのフレーズがカッコいいですよね。音作りも含め、ちょっと打ち込みっぽい機械感が魅力的で、サビも重めの4ビートをかましています。ギター2人の役割分担も面白くて、Dieさんは不協和音感のあるクリーンギター、薫さんはミュートが利いたヘヴィなリフでハッキリ分かれています。また、サビのユニゾンリフもカッコよくて好きです。
ボーカルはかなり変態感がありますね笑 特にAメロはフザけたような声で、メロディとも言い難いようなメロディを歌っています。サビに入るともう少し歌らしくなり、ラストのDistraction連呼では凶悪なシャウトをかましています。
歌詩はこれまたよく分かりませんが、どこか政治的な意味があるような気がします。支配する者に対する怒り的なワードが散りばめられているというか。
ライブでは間奏のパートで「オイ」コールを少し長めにやっていて、原曲より長い時間演奏されています。2009年のライブ映像では半音下げで演奏されていますね。
ちなみに、2016年の鬼葬ツアーではsix Uglyの曲も演奏されていたのですが、この曲はたった2回しか演奏されていないという不遇っぷりです。映像化もされていないので、どんなアレンジになっているのか気になりますが、またいつかライブで聴けたらなと思います。

3 HADES

京さん原曲のヘヴィロック。多彩なボーカルとノイジーなギターが特徴的な疾走曲です。個人的には、『six Ugly』の中で一番鋭利なサウンドというか、他の曲はどっしりと迫ってくるような印象なのに対して、この曲はまくし立てるように攻めてくるイメージがあります。
何と言っても京さんのボーカルが多彩で、艷やかなクリーンボイスのAメロ、ファルセットとエフェクトボイスが重なり合うBメロ1 、ひたすらシャウトで攻めるサビ、声の切替が目まぐるしいBメロ2、セリフで締めるラストと、出せる声全部盛りって感じです笑 個人的にはBメロ2のカオスっぷりが好きです。
音は全体的にノイジーというか、特に薫さんギターのエフェクトが古いゲームの効果音みたいな面白い音を出してますね。あとはDieさんのかき鳴らすようなギターソロが曲のノイズ感を一層引き立てています。音はサビ以外はオリエンタルというか、インドっぽいですね。タイトルはギリシャ神話絡みですが笑
歌詩の解釈はこの曲も難しいのですが、「Candy」に病みつきになって中毒に溺れている感じがします。Candyが何なのかは想像に委ねられているように思いますが、性的な快楽なのかもしれないし、自傷や自殺に伴うある種の解放感のことかもしれません。最後首吊ってるぽいですしね。
ちなみにこの曲、最後にセリフで終わってそのまま次のumbrellaに続くんですが、この流れがまた良いんですよね。 ライブでは2013年のGHOULツアーで聴いたことがありますが、当時かなり久々の演奏だったので盛り上がってました。カラフルな照明がチカチカしていて、当時としては珍しい演出でした。

4 umbrella

Shinyaさん原曲のミクスチャーロック。six Uglyの中でも一際キャッチーな曲で、おそらく一番人気な曲だと思います。音は重いですが、軽快で爽快感があり、DIRの曲全体で見てもかなり明るいノリの曲だと思います。
イントロの跳ねるようなドラムからしてノリが良いですが、そこにギターのユニゾンリフが入ってくることで、曲の中に重さと軽さが共存しているのが面白いです。サビでは一気にポップになり、特にDieさんの高音のフレーズが軽快で楽しいですね。あとこの曲、ドラムの音が生っぽくてめっちゃ良いです。
ボーカルについては、Aメロではシャウトとラップ、サビではメンバーによる楽しげなコーラスが入り、Bメロではファルセットによるリフレインがされており、全体的にアプローチが新しいです。サビのメロディはどこかオレンジレンジみがあるというか、爽やかでありながら少しチャラさも感じますね笑
この曲、サビもいいんですけど、個人的にはBメロの「最高のディナーショウさ」のパートもめちゃくちゃ好きなんですよね。ギターのブリッジの音と、不穏なSEと、不気味なファルセットのカオス感というか。この曲に単にポップなだけじゃない怪しげな彩りを与えている部分だと思います。
歌詩はやたら食事にまつわるワードが出てきますが、何か元ネタがあるんですかね? この曲、私はDUMの武道館で初めて生で聴いたのですが、重い曲だらけのセトリの中、一際輝いていてめちゃくちゃ楽しかったのを覚えています。当日その場にいた人にとってはかなり印象的だったのではないでしょうか。
なお、『six ugly』の中で唯一、ベストアルバム2回ともに収録されている曲でもあります。

5 children

『太陽の碧』のc/wのリメイク曲。原曲からわずか2年という、現状では最短期間でのリメイクとなります。90年代V系のメロディアスな部分と邪悪な疾走感を合体させた原曲とは全く異なり、ラップを主体としたファンキーなミクスチャーロックになりました。
基本的な曲の構成とメロディーは原曲を踏襲していますが、曲のキーが1音下がり、Aメロがラップになり、サビの後にもラップパートが追加されています。サビのメロディも曲のキーに合わせて変わっていますね。部分部分で聴くと原曲を踏襲しているのが分かりますが、曲全体の印象は完全に別モノです。
演奏面ではDieさんのカッティングとベースのスラップが曲全体で目立っていて、このアルバムでは珍しく、音のヘヴィさよりはグルーヴ感で攻めている印象です。間奏では珍しくベースソロが入っており、これがなかなかオシャレな感じです。元々あった90年代V系感は完全になくなっていますね。
京さんは前述の通りラップしています。原曲と比べると声質も大幅に変わっていて、シャウトは低く凶悪に、歌は原曲よりも滑らかでかつコブシがしっかり効いています。
歌詩はサビは原曲のままですが、それ以外は所々変わっていて、文章というより単語の羅列になりました。言葉遊びが多くなってます。歌詩に出てくる「HURRY UP MODE」はBUCK-TICKリスペクトかな?それにしても「BUS GAS BAKUHATSU」なんて歌詩、どんな心境で入れたんですかね笑
ライブでは2017年の『MACABRE』ツアーで聴きましたが、結構ノれて楽しかった記憶があります。原曲も悪くはないですが、こっちの方が完成されてて好きです。
ちなみに前にも書きましたが、私は原曲よりも先にこっちを聴いているので、むしろ原曲にまだ耳が慣れていないです笑 次の「秒「」深」にしてもそうですが、こういうリメイク曲は音楽性の変化を分かりやすく感じられて面白いですね。

6 秒「」深

『MISSA』収録曲のリメイク。『six Ugly』の最後を飾る曲で、当時のライブではよくラストに演奏されていた曲です。原曲はゴシック感満載のザ・90年代V系ツタツタ疾走曲でしたが、ゴリゴリのヘヴィロックに生まれ変わり、完全に別物になりました。
こちらも基本的な曲の構成は原曲を踏襲しているものの、曲のキーが1音下がり、原曲にあった歌メロはなくなりほぼ全編シャウトで埋め尽くされています。イントロのリフは原曲と同じフレーズですが、音が低くなったのと、元々単音だったのがパワーコードに変わり、元の何倍も重厚になっています。
イントロ以外もほとんどの箇所が低音のユニゾンリフに変わっており、ヘヴィさを前面に押し出したアレンジに変わっています。原曲はLRのギターで役割分担がありましたが、この曲はほぼユニゾンなので、音の一体感が増しています。どこか妖しさのあった原曲に対し、暴力性に特化した音になりました。
ボーカルについても、原曲は怪しげな歌メロとシャウトを併用していましたが、この曲ではほぼ全編、野太いシャウトに変わっています。なお、原曲でギターソロだった部分は、エフェクト付きの英語セリフ(演説?)に変わっています。ここのエフェクト、舐め腐ったような声になっていて面白いですね。
歌詩は原曲では飼われている人間の様子を描写していましたが、こっちの方では英詩となり、物語性は薄れています。一応「死に向かう喜び」を歌っているようなニュアンスはありそうなのでそこは原曲を踏襲してそうですが、どちらかといえば破壊衝動をそのまま詩にしたって感じですね。
原曲は2017年の『THE MARROW OF A BONE』ツアーで聴いたことあるのですが、こっちの方はまだ生で聴いたことがないんですよね…最近は思い出したかのようにこっちのバージョンが演奏されているようですが笑 正直、個人的には原曲の方が、音と曲の展開が好きなんですが、こっちも一度ライブで聴いてみたいです。


正直この頃の曲って、感想が非常に書きにくいなと思いました笑 どちらかといえば、シンプルに聴いて暴れるのが一番の楽しみ方であって、言葉で感想を書くのに適したアルバムではないかなと思っています。後にも先にもこういうアルバムってないので、この頃本当にいろいろ模索してたんだろうな…ということを強く実感させられる作品でした。

次回はV系史にも残る名作と言われている『VULGAR』ですね。いろいろと模索していたDIRですが、ここで一つの到達点を迎えることになり、後続のV系バンドにも大きな影響を与えることになります。今からまた一曲ずつ聴き直していくのを楽しみにしています。

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