【おすすめ本】翻訳を読みくらべる(カフカ/訴訟・審判)
今週もこんにちは。みなさん、少しはお盆でお休みになれたでしょうか。台風で大変だった方も多いと思います。
今回はチェコの作家フランツ・カフカ(1883-1924)の「訴訟」(あるいは「審判」)を取り上げます。
30歳の誕生日、朝起きた、主人公の銀行員ヨーゼフ・Kは罪状もわからない謎の裁判に巻き込まれていることに気付きます。潔白のはずなのに、裁判に立ち向かううちに深みにはまっていく。地面がぐらつくような感覚を覚える作品です。
▼▼今回の本▼▼
今回は2つの翻訳を読み比べてみました。1971年の原田義人訳と2017年の川島明訳。原田訳は青空文庫で読むことができます。50年前の翻訳との違いが面白かったので、今回は作品というより翻訳を中心に。
1. 言葉づかい
まず気付くのが、言葉づかいの違いです。2017年の川島訳は、1971年の原田訳とくらべて現代的で読みやすく、どんな場面なのかがはっきり分かります。
一つ目は「年食ったオバサン」、二つ目は「非常識な」という単語で、川島訳では場面の印象が強められていますね。
2. 主人公Kの性格
主人公Kの印象も二つの翻訳でずいぶん変わりました。1971年の原田訳だとKは基本的に敬語ですが、2017年の川島訳では相手を見下したような言い方も多い。
川島訳のKは初対面の相手に対して失礼で、思い上がった直情的な青年にも見えます。二つ目の原田訳のKはもう少し慎重で、腹の中でどう思っていたとしても、世間体を気にするタイプでしょうか。
3. 作品全体の印象
1と2を通して、作品全体の印象にも差が出ます。2017年の川島訳はコメディというか、ある種スラップスティック(ドタバタ喜劇)のよう。1971年の原田訳はもう少ししっとりと、謎めいた読後感があります。
訳の読み比べ、楽しかったので、またやりたいです。読書体験も大きく変わってくると考えると、翻訳、そして読書はほんとうに奥が深いですね。
(おしまい)
▼▼前回の本▼▼
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