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【おすすめ本】書をひらこう、旅に出よう(ヘッセ/クヌルプ)
今週もこんにちは。ウガンダは雨ですが、今日は晴れだよ、と名古屋にいる祖父に聞きました。みなさんいかがお過ごしですか。
今日の一冊はドイツを代表する作家ヘッセの「クヌルプ」。ヘッセは国語の教科書にあった「少年の日の思い出」で覚えている方もいるのではないでしょうか。
▼▼今回の本▼▼
本作は幼い頃に失恋を経験し、以後は無職の流浪者として生きたクヌルプの生涯を描いた物語。口笛やダンスが得意な彼は行く先々で出会う人々を和ませる・・・と書くと素敵な物語ですが、実際のクヌルプはけっこうひねくれています。
二月の太陽の戯れや、この家の静かな平和や、友だちのまじめで勤勉な職人らしい顔や、きれいな細君のヴェールをかぶったまなざしなど。――それは彼(クヌルプ)の気に入らなかった。そういうものは彼にとって目標でも幸福でもなかった。
自分をタダで泊めてくれている友だちの穏やかな生活が気に入らない。それでちょっと見下してみる。分かる気がします。しかもクヌルプの場合、そんな自分にも嫌気や限界、迷いを感じているらしいのが面白いです。
彼(クヌルプ)は哲学的議論を始め、原則を立て、それに賛成したり、反対したりするかと思うと、ふいにやめてしまうのだった。(…)彼は、正しい結論とごまかしの結論とを必ずしも精確に区別することができず、それを自分で感じていた。
あとは勝手に友人の仕立て屋の家へ押しかけて、こんなことを言ってみたり。
「きみはもう信心深くなくなったのかい? ぼくは信心深くなりたいと思ったからこそ、きみのところにやって来たんだ。その点はどうかね、年中すわってばかりいるじいさん?」
本作が書かれた1910年代は、人との出会いが、現代以上に大きな意味を持っていた時代でした。今日会った友人といつ再会できるかも分からない。だからこそ旅人が歓待されたのかもしれません。言い方は悪いけど、悔いが残らないように。
クヌルプのような旅人は、遠くから、普通の人は知らないような美しいものや奇妙なものを持ち帰ってくることができます。それらを人びとに話し聞かせる。まるでクヌルプ自身が一冊の本のようでもありますね。
SNSが普及した現在、クヌルプ的な根無し草の生き方はますます難しくなっているようにも思います。でも、そんな生き方もあるということを「思い出す」仕掛けとしての力を文学は秘めている、と僕は感じています。
(おわり)
▼▼前回の本▼▼
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