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【おすすめ本】悪役と悪と悪いやつ(伊坂幸太郎/マリアビートル)

今週もこんにちは。ぶじに帰国しました🛩️ 暑いですね・・・

今日の一冊は伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」。東北新幹線に乗り合わせた殺し屋たちの運命が交錯する群像劇。2022年にはブラッド・ピット主演(!)でハリウッド映画化されています。

▼▼今回の本▼▼

伊坂作品の白眉といえる本書は緻密な展開や掛け合いの楽しさは言わずもがな、登場するキャラクターが素敵です。一言でいえば、全員悪いやつ!

機関車トーマスに詳しい殺し屋「檸檬」、他人を操り絶望させることに快感を覚える中学生「王子」、酒浸りだが息子思いで、息子を意識不明にした王子に復讐しようとする元殺し屋の「木村」etc。

個性豊かなキャラクターたちの物語が絡まり合いながら、新幹線は進んでいく。例えば冒頭では息子の復讐のために「王子」を襲おうとした「木村」がいきなり裏をかかれて体の自由を奪われてしまいます。

 木村の息子を、デパートの屋上から遊び半分に落としたその少年は、中学生であるにもかかわらず人生を数回こなしてきたかのような自信に満ちた表情で、「前にもおじさんに言ったけれど、どうしてこんなに思い通りになるんだろうね。人生って甘いね」と言った。「ごめんね。大好きなお酒まで我慢して、頑張ったのに」

伊坂幸太郎. マリアビートル. 角川文庫. 2013. p.12.

個人的に好きなのは、超不運で臆病だけど追い込まれると豹変する「天道虫」の七尾。下の説明を見てください。こんなの、「飛んじゃう」シーンが絶対読みたくなっちゃうよね。

「七尾君はさ、飛んじゃうらしいのよ。(…)追い詰められると、頭がぶっ飛んじゃうってこと」
「おかしくなるのか」
「回転が速くなるの。集中力なのかね。追い詰められてからの、瞬発力というか反射神経というか、発想が尋常じゃないらしいのよ」

同上, p.292.

でも「天道虫」本人はこんな感じです。

「(…)いつもこうなんだ。やることなすこと全部、裏目に出る。こうなったら困るなあ、嫌だなあ、と思ったら、そうなるんだ(…)」男は言いながら、おいおい泣き出しそうだった。

同上, p.200.

伊坂さんの本を読んでいると「悪役」と「悪」が違うとよく思います。殺し屋は普通「悪」ですが、本書の殺し屋たちはみんな人間味があって嫌いになれない。「悪役」でも「悪」ではない。でも、自身の快感のために人を追い詰める「王子」は明確に「悪」です。そこには明確な線引きがあります。

伊坂さんは高校生の時に読み始めてからずっと好きです。高校生の頃に「砂漠」を読んで大学生に憧れたり、初めての海外で心細かった時に「バイバイ、ブラックバード」を読んで救われたり。どの本も結末を大事にしていて、線が引かれるようにゴールへ向かっていく爽快感があります。

本書の解説に、伊坂さんが「悪」と対置しているのは「正義」でなく「勇気」だと書いてありました。伊坂さんの作品の爽快感の秘密は、そんな「勇気」のあり方を描いているからなのかもしれません。

(おわり)

▼▼前回の本▼▼


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