【おすすめ本】「わからない」をしりたくて(古井由吉/杳子・妻隠)
今週もこんにちは。関東は今週大雪だったみたいですね。みなさん元気でお過ごしでしょうか。
今回取り上げるのは古井由吉「杳子・妻隠」。古井さんは「杳子」で1971年に芥川賞を受賞しています。新潮文庫のオビには、ピース又吉さんが「脳が揺れ比喩ではなく実際にめまいを感じました」という応援文を寄せています。
「杳子」は精神を病む杳子と男子大学生の壊れやすい恋を描いた作品。「妻隠」も男女間の機微がテーマですが、こちらは夫婦間で、二人の心の奥深くにあるズレが日常の中で炙り出されていきます。
▼▼今回の本▼▼
又吉さんの言う「めまい」は分かるような気がします。例えば、次の文章。
ぼうっと白い姿が見えてきて、下を向く。上品な肌が見える。近づいてくる。それが「老婆だった」で色鮮やかになります。遠くをぼんやり眺めていたのに、急に現実へ引きずり出された感じ。この落差がめまいを生んでいる気がします。
一個のものをじっと見るうちに、別のものに見えてくる。知っているものが知らないものになり、知らないものが知っているものになる。映像が万華鏡のように変わりゆくさまが、作品の色気にもなっています。
こわい。ゾクゾクする。古井さんの文章は「わかる」と「わからない」のあいだを自由に往来しているようにも見えます。僕らがわかった気になっている世界は、見えかたによっていかようにも変化するのだと教えてくれる一冊です。
▼▼前回の本▼▼
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?