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【映画感想】大人の余裕とカッコよさ 『マイ・インターン』感想

映画『マイ・インターン』を見た。ロバート・デ・ニーロ演じる、70歳の老人ベンが、アン・ハサウェイ演じる女社長が経営する女性向けファッション通信サイトにシニア・インターンとして採用されるというあらすじ。

新進気鋭のインターネットベンチャー企業に、定年を迎えた老人がインターンとして参加する、そのギャップを題材にした作品だ。


余裕のある大人のカッコよさ

本作品で一貫して感じるのはロバート・デ・ニーロのカッコよさだ。顔、佇まい。すべてがカッコいい。見た目は完全におじいちゃんなのに。まさに紳士という言葉がぴったりな、大人なカッコよさが漂っている。

この魅力は何なのか。一言で表すと、「余裕」だと思う。

彼は私服でOKなベンチャー企業に、ピッチリとしたスーツを着て通勤する。昔ながらの革のバックに万年筆とメモ帳を入れ、オフィスに座る。そこには他者に影響を受けることはない、自分のスタイルがある。芯が通った1つの生き方がある。だから余裕があるし、落ち着いている。

ブレないその姿はとてもカッコいい。最初はコメディにその様子を描かれるが、だんだんとその古風なスタイルが魅力に思えてくる。周りの環境に右往左往する若者にはない余裕だ。


そして、この余裕から生まれるコミュニケーションも素晴らしい。どんな人でも、まず彼は色んな人たちを受け入れる。拒絶することはない。若造や自分みたいに中途半端な年をとった男は、そもそも拒否反応を示してまともに取り合わなかったり、つい自分の主義に相手を服従させようとしてしまったりする。

相手の現状や考え方を受け入れた上で、自分の考えを静かに伝えるだけだ。それに従えとも、受け入れろとも言わない。ただ、自分の生き方・行動で伝えるのみ。この会話の際の距離感が素晴らしいのだ。

ともすれば、こういう映画は説教映画になりがちだ。でも、ロバート・デ・ニーロが演じる「ベン」の言葉はそうした説教臭さは微塵も感じない。彼は適切な距離感を持って人と接しているからだ。横に立ち、優しく寄り添う彼の生き方には、同じ男として憧れしかない。


キャラを「下げ」ない対比

70歳の老人と対する立場として描かれるのが、成長真っ只中のベンチャー企業の女社長として登場するアン・ハサウェイ演じる「ジュールズ」だ。

下手な映画だと、こうしたキャラの対比の際に、片方を「あげる」ために片方を「さげる」描写をされがちだ。無能にしたり、節操がないプライベートシーンが描写をされたりと、別のキャラの魅力を下げることでしか対比ができない作品も多い。

しかし、今作品はそんな下品なアプローチはしない。
仕事にこだわりを持ち、一生懸命に頑張る姿。家族を愛し、感謝の心がある姿。自分が正しいと思い努力はするも、ふとした時にそれが正しいのか不安になり、悩む姿。
そうした「若者」代表のジュールズの魅力的な姿をしっかりと描いてくれる。


1人の魅力あるキャラとして描きながら、老人と若者という対比をうまく行っている。若者である彼女にないもの、それは老人であるベンが持つ魅力の根幹である「余裕」であり、逆に共通するのは「仕事への情熱」だと自分は感じた。

とにかく、前半から描写されるのは彼女の忙しい毎日だ。彼女は変化をしなければいけない立場だ。会社も、プライベートも目まぐるしく変化する状況で生き抜かねばならない。それは、成熟したベンが持つ「余裕がない」とも言えると思う。

そんな彼女だからこそ、余裕を持ち、どっしりと構えるベンを、友人として、仕事のパートナーとして魅力的に思う。凄く納得のいくストーリー展開をしていく。


一方で2人にも共通するもの。それは「仕事への情熱」だ。

ベンは、無能な老いぼれではない。自分のできる仕事はないか、色んな人に声をかけ、少しずつ物事を解決していく。上司である社長が帰るまでは帰らないという、古風ながらも熱い想いで、仕事に打ち込む。

もちろん、社長であるジュールズも、自分が作り上げた会社を大きくし、より多くの消費者を満足すべく、細かいところまで気を配り、仕事をこなしていく。

この映画で、一番好きなシーンは、会社の倉庫で、商品の配送を行っている従業員たちにジュールズが指導している場面だ。梱包、配送の細かいやり方まで、身振り手振りを交えて熱く指導するその後ろ姿を、優しい笑顔で見守るベン。ロバート・デ・ニーロの演技が光る、凄く良いシーンだ。

やはり、人間関係で一番大切なのは、リスペクトだ。それがない人間関係は、うまく行かない。
彼と彼女は、年齢の垣根を超え、双方をリスペクトしていく。そこには、仕事仲間だとか、恋人だとか、そうしたことばで言いあらわせない美しい関係性がある。

見た後、優しい気持ちになれる、いい映画でした。
あんな紳士な大人に自分もなりたいし、そんな紳士から尊敬されるような若者でありたい。


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