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こういうのでいいんだよ 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を見て

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を見てきた。米国の映画評論サイトで、専門家からは低評価だった一方、一般視聴者からは大絶賛という不思議なことになった作品。映画を見た後の今なら、なんとなくそうなった原因もわかる。

あくまで、この作品は「子ども向け」の「ゲームが原作」の「エンタメ」作品。そのことを忘れてはいけない。
この前提を踏まえた映画として視聴すると、全世界でヒットするのもわかる、傑作アニメ映画だった。


 

極限までシンプルなストーリー

このアニメのストーリーは非常にシンプル。

ブルックリンで配管工業を営むマリオ・ルイージの兄弟。会社を辞めて心機一転、独立したものの、ダメダメな兄弟の2人は皆から馬鹿にされ、父親にすらも馬鹿にされている。
そんな配管工の仕事中に見つけた古びた緑色の土管に、ルイージが吸われ、突如いなくなる。後を追ってマリオも土管の中に入ると、そこは全くの異世界。
マリオはキノコ王国に、ルイージは大魔王クッパの支配する国に飛ばされてしまう。ルイージを救うため、キノコ王国のプリンセス、ピーチ姫と協力して打倒クッパの旅へと出発する…

というすごくシンプルなあらすじ。
そこには複雑な設定や、小難しいテーマなんかなく、愉快な冒険活劇と、兄弟愛しかない。邪魔くらい人間ドラマもなく、主人公であるマリオがどんどん目標に向かって成長していく、プラスしかない構成。

まぁこれを、ひねりもない単純なストーリーと非難するのは簡単だろう。でも、シンプルなストーリーだからこそ輝く「良さ」もある。


まず、圧倒的なテンポ。長ったらしいストーリーや人間ドラマを描かず、物語が前へ前へ進んでいくのは見ていて非常に気持ちいい。そして、それだけ早く物語が進むということは、視覚的な場面もどんどんと変わっていく。

アメリカの大都市から、不思議なキノコ王国へ行き、砂漠を抜けて密林地帯のコンゴ王国、その後はレインボーロード…続々と変わっていく舞台に、視聴者は飽きることがない。このシンプルなストーリーも、視聴者を楽しませる工夫の1つになっている。

シンプルなストーリー、とはいえ、抑えるところは抑えた良い脚本だったと思う。人間関係をしっかりと描写し、主人公たちの成長、仲間との友情。そうした「面白い物語」に必要な要素は全部盛り込めていたと思う。

しかし、これらはあくまで、この作品の魅力を構成する「土台」でしかない。ストーリーでグイグイと魅了させる作品ではない。



圧倒的な映像描写

映像のパワーがすごい。
CGがきれいとか、そういうことではない。もちろんCGのクオリティはとんでもないクオリティなのだが。そういった映像の「きれいさ」ではない。

「動き」の魅力がこの作品には詰まっている。
冒頭のアメリカの町を移動しながら、修理に向かっていく、そんなシーンでも思わぬアクションが詰まっていて見ていてすごくワクワクする。

アクションシーンだけ、魅力がある動きがあるのかと言うと、そうではない。キノコ王国に行くまでの道中。キノピオが世界観を解説しながら王国へと向かうシーンがある。普通なら、つまらない解説パートで終わりだ。
でも、マリオがバウンドする不思議なキノコをつついたり、不思議な動きをするキノコ王国の生き物たちが現れたりと、画面上で常に何かが動いている。そして、その動きが非常にコミカルで面白い。どんなシーンでも、次に何が起こるんだろうと、ワクワクしながら画面を見ることができる。


ここで、原作が超有名ゲームであるがゆえの、大きな魅力がまた1つ。

様々なマリオっぽいステージギミック、アクションが登場してくることだ。
動く足場、ワープ土管、踏んでしばらくすると落ちるブロック。そういったう要素がどんどんと描写される。しかもそれを3Dアニメーションに落とし込むのが非常に上手い。次はどうやってゲームのマリオの動きを再現してくれるんだろうと、ワクワクしながら楽しむことができる。


最後に、アクションシーンの展開の良さ。コンテが上手い、とも言えるのだろうか。

レインボーロードのカーレースシーンなんて、映画史上のトップクラスの面白さだと思う。「エンタメってこうだよな!」って感じのアクションシーンの連続だ。
周りの舞台設定やキャラの設定を巧妙に使い、ピンチからの逆転をひたすら繰り返し続ける。書くのは簡単だが、それを実現するのは途方もなく難しい。ミニオンズとかを作ってきた、「イルミネーション」が製作をしているだけある。


そして原作愛

最後に忘れてはならないのが、この作品には原作があること。
オリジナルのエンタメ作品ではないのだ。自分もそうだが、「マリオ」のアニメ化を期待しているファン層がいることを忘れてはならない。

そういった意味では、最初から最後まで、ずっとファンサービスの塊だった。音楽から、映像、設定の1つ1つまで、全てがマリオ愛にあふれていた。


まず、作品が始まっていきなり驚いた。黒歴史扱いされていた実写版スーパーマリオ、『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』が、設定面で取り入れられているとは…

この作品では、マリオ兄弟は冴えないブルックリンの配管工として設定されている。まんま、この設定は今作品に採用されており、すごく嬉しかった。
世間からは黒歴史扱いされていても、1つのエンタメ映画作品としてはすごく魅力的で、自分の大好きな作品だったので、これは非常に嬉しかった。


音楽も素晴らしい。当然、基本的には劇中曲はマリオの曲をオーケストラ風にカッコよくアレンジしたもの。このアレンジもイカスだし、それを上手く映像と合わせて届けられる。本当に自分がゲームでプレイしていた世界が、スクリーンに再現されていると感じられる。


何よりも、オリジナルの設定をしながらも、原作ファンが納得できる展開を作り出すのがウマすぎる。ドンキーもだす。レインボーロードでマリオカートもやる。あらかたの代表的な敵キャラも全部出す。

これを、全く違和感ない形で劇中におさめている。無理やり出した感じが全くしない。
その描写の仕方も、ファンなら少し嬉しくなるような描写だったり。ドンキーコングが最初、マリオのライバルとして登場する。これは嬉しい描写だ。だって、ドンキーはマリオの最初の敵(ライバル)なのだから。

ファミコンの『ドンキーコング』ではドンキーがボス


エンタメ作品としては最高峰

シンプルながらに、重要な要素はしっかりと入ったストーリーを土台に、魅力的なアクションシーンの連続で子どもたちを魅了し、その親世代の原作ファンたちには、原作愛で打ちのめす。

1つのエンタメ作品としては、最高峰と言えるだろう。
ただ、忘れてはいけないのがこの作品が子供向けの「エンタメ」作品であること。
哲学的なエピソードや、学び、深い気付きを与えてくれる作品では当然ない。

でも、それでいいのだ。観客が求めているのを、最高の形で提供する。それがプロの仕事だし、この作品にケチをつけているやつは前提も分からない勘違い野郎とも言える。
もう劇場でずっと、ゴローちゃん状態だった。

ずっとこれでした
『孤独のグルメ』より


余談だが、一番感動したのは、映画が始まる前のゲームのマリオの広告。
こんな老若男女に愛され続けているマリオってコンテンツ、そしてそれを作り出している任天堂ってスゲェ…と一人で感動して泣きそうになってしまった。

大迫力のスクリーンで堪能していただきたい、アクションシーンの連続なので、ぜひ劇場で見てみてください。
以上!

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