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人生で一番”映画館”で見て欲しいと思ったアニメ映画 『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』 感想

この映画を見終わった時、色々と思うところはあった。しかし、一番最初に頭に思い浮かんだのは
「映画館の大きなスクリーンで見ることができて、本当によかった」
という、ありきたりな感想だった。

凡百なことばで、これを最初の感想とするのは少し悔しい。しかし、このことばが、一番この作品を象徴しているように自分は思える。人生で一番強く、劇場で見ることができたことに感謝できた作品だったのだ。

1つ補足すると、自分はあまりこの「映画館で見たら~」というのをアニメ映画では感想として抱くことはない。劇場という巨大なスクリーンを使いこなせていた作品に出会うことは数少ないからだ。つまるところ、それほどまでに、この映画は「アニメ映画」としてクオリティが高かったと言える。


冒頭で涙

まず、今作品の冒頭。いつものウマ娘の世界観を説明するナレーションパートが入る。なんかオシャレな演出だなぁと思っていたら、EDのクレジットで吉成鋼(伝説的アニメーター。ワンシーンの原画から撮影まですべて自分一人でこなす拘り職人)が作成しているということが判明した。

さすがに見ている瞬間はそこまで分からないものの
「なんかこの作品、ただモノじゃないな…」
という感じはさせていた。ぜひ、これから視聴する人はその凝った演出に注目してほしい。


そして、最初に描かれるレース。このシーンは本作品の主人公であるジャングルポケットが、レースの道を志す、まさに「始まり」となるシーンだ。レースで走るフジキセキの姿に魅了され、彼女はウマ娘として厳しい競争の世界での頂点を目指していくことになる。

こうして文章で書くとよくあるシーンである。ウマ娘シリーズに限らず、スポーツモノでよく見かける演出だ。


こんなありきたりなシーンを、自分は涙をツーっと流しながら見ていた。


思わず出てきた涙に自分もビックリした。ガラガラの深夜の映画館でよかった。あんな冒頭シーンで泣いているヤツなんて誰もいなかっただろう。なんせ上映が始まって3分も経ってない。

その時は理由も分からず流した涙だったけども、今冷静になって振り返るとわかる。フジキセキが走り始めてからの、ワンシーン、ワンカットが美しすぎて、思わず涙が流れたのだ。仲間と談笑しながらレース場の客席に入ってくるジャングルポケット。それとすれ違うように、走り抜けるフジキセキ。

ただ、走り去っていく少女を描いていくだけ。しかし、その1カットの対比や演出が素晴らしすぎた。まさに、ジャングルポケットと同じように、自分もフジキセキの走りに魅了されていたのだ。

物語の入りとして、ここまで素晴らしいのは無い気がする。もうここでグッとこの作品に首根っこを掴まれた気分だ。「感情移入」ということばがこれほどまでに相応しい状況はないだろう。自分もジャングルポケットと同様に、フジキセキの走りに涙を流すくらい魅了されていたのだから。


「走る」という行為をここまで演出できるのか

自分は、アニメ作品を見るときに、すごく重要視していることがある。それは、「アニメだからこその魅力」があるかどうかだ。

もちろん、その土台としてしっかりとした脚本と魅力的なキャラたちがいることは前提。しかし、そうしたもので構成される「物語」を楽しみたいなら、小説でもマンガでもよい。わざわざ、ある程度の時間を拘束されるアニメ作品を視聴する意義とは何なのか。それは、「アニメでしか見られないものがある」はずだと信じている。

つまるところ、アニメーションと音声が合わさった映像作品しか出せない魅力。それを堪能することこそが、アニメ作品の醍醐味であり、本質であると思っている。


そういった意味で、この作品はまさにアニメ作品としてあるべき存在だった。恐らく、本作品を小説として読んでも、マンガとして読んでも、ここまでの感動はなかった。アニメーションだからこそ、自分は感動し、魅了された。そう思える圧倒的な演出だった。

「ウマ娘」なわけなので、当然作品の盛り上がりどころはすべて少女たちのレースシーンとなる。「女の子が走っているだけ」のシーンで盛り上がりを作らなければいけない。ここに、アニメーション作品としての実力が問われる。

今作品はあの手この手の演出で、このレースシーンを盛り上げる。こうして文章で書くのが野暮としか言えないくらい、圧巻の演出だった。レース場をグルっと回転しながら馬群に近づいていく。そこで走るウマ娘たちが蹴り上げる土たち。その中で描かれる彼女たちの必死の形相。

きれいな作画、というよりも、迫力のある作画という表現がぴったりな、意図的に崩されたアニメーション。とにかく、すべてのカットに意味があり、新たな発見があり、伝えようとする何かがあった。新海誠がTwitter(X)でべた褒めしていたけども、まさにこのツイートに書かれている通り、「セルアニメーションかくあるべき」といえる映像といえる。

個人的には、あの「崩した表現」や「やり過ぎかと思うくらいな過剰な演出」、そしてG1レースをでっかい文字ロゴでドンと表現するところなど、至る所に「ガイナックス味」を感じられて非常に嬉しかった。製作協力にTRIGGERの文字があったので、納得。


動きで伝える

小説がことばで様々なものを伝えるように、アニメーションでキャラの感情や思いを伝える。それこそがアニメーションの「演出」ということになるのだが、今作品はレースシーン以外でもそうした演出が光る。

視聴した人ならみんな印象に残っているだろう。アグネスタキオンの貧乏ゆすりのような足の動き。それを一瞥するマンハッタンカフェの表情と部屋を出ていくときの歩き。フジキセキの走りを見るときのジャングルポケットの表情。

動きの1つ1つが、キャラクターの感情を表現する何かになっている。素敵なセリフも多かったが、それ以上に伝える「画面」があったと思う。見る側に解釈させる余地をもたせる。ジャングルポケットの咆哮といい、ウダウダと説明しない映画づくり。これによってサラブレッドの馬体のような、絞られたスマートな映画になっていったと思う。


人に感動して

ようやくストーリーの話に入るが、これもまた素晴らしかった。シンプルなストーリーラインながらも、人によってこの作品にいろんなテーマを感じられるだろうなと思うくらい、深みがある物語になっていたと思う。

自分が受け取ったこの映画のテーマは「人が人を動かす」ということ。なんだか胡散臭いビジネス書の目次みたいだけども、そう思う。

ジャングルポケットは、フジキセキの走りに憧れてレースを始めた。そんな彼女は、ライバルとしてアグネスタキオンの背中を追い続けた。そして、その彼女の走りが、アグネスタキオンにも影響を与える。
人が人を刺激し、新たなものを生み出す。努力し、真剣に行われた行為は、何かを人に伝える。

作中にこんな感じのセリフがある。
「すごい走りを見ると、自分も走り出したくなる」
自分はこのセリフが一番好きだった。
素晴らしいコンテンツというのは、それだけ人を動かす力がある。特に同業者というか、同じ道を行くものが、素晴らしいものを見せられると、純粋に自分も動き出したくなる。

まさに、感じて動く、「感動」は誰かによって引き起こされる。そんな当たり前のことを強く実感させられるストーリーだった。


もちろん、世の中そんなに綺麗事ばかりではない。そんな辛い現実もこの映画は描く。挫折するジャングルポケット。最強を目指していたウマ娘が最強じゃないのがわかったとき、どう成長して乗り越えるか。ある意味、彼女はアグネスタキオンという「人」によって、自分の夢を叩き折られる。

しかし、彼女はまた表舞台に戻ってくる。なぜなら、彼女はレースが好きだから。走ることを諦めきれないから。トレーナーやライバルたちをはじめ、レースに関わる人たちが大好きだから。フジキセキの走りに憧れてしまったから。

これを、最終的に「レース」で分からせるというのが粋な演出だ。最後にジャングルポケットの心から納得し、成長できたきっかけは、最初に彼女が憧れた人の走りだったのだ。

しかし、魔法を愛し続けたフリーレンといい、最近こういう展開が刺さりすぎる。自分の弱点。なにか壁にぶつかった時、「好き」というシンプルな理由で打ち砕く天才たち、という描写をされると問答無用で好きになっちゃう。


新時代のアニメーション

この映画を見て、アニメ製作者の多くは、タキオンのように「走り出したく」なったのではないだろうか。自分もこんなすごい作品を作り出してみたいと、そう思うクリエイターが数多く誕生した作品のように思える。

今作品のサブタイトルは「新時代の扉」。まさに、日本アニメーションの「新時代の扉」となりえる作品だったと思える。古き良きガイナックス風の崩しの演出や、WIT STUDIOの最新鋭のカメラワークなど、日本のアニメーションのありとあらゆる技術がこの作品に込められていたと思う。今後の日本のアニメ業界の作品がますます楽しみになってきた。


しかし、書いているうちにドンドンよかったシーンが思い返されて、劇場に見に行きたくなる。恐らく近いうちに2周目を見に行くことになるだろう。もうこの記事を書いている時もずっと横でPVを流しっぱなしにしている。

ウマ娘を知らない人も、競馬に興味がない人も、アニメというものが好きな人には絶対見て欲しいと思った作品だ。日本アニメーション界において、「新時代の扉」となるような、新時代のアニメーションが込められた作品だった。今のところ今年イチの作品です。


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