ビジネスで成果を上げるリサーチキャリアの設計

UXのmeetup #uxpotato にて、「ビジネスで成果を上げるリサーチキャリアの設計」をテーマにLTを行いました。この記事では、登壇資料の要旨をアップするともに、講演内容をセルフレビューしていきます。キャリアの中で何かしらの形でリサーチの仕事に携わっていて、自身の仕事評価のあり方やキャリアモデルを模索している方はぜひご覧ください。

もともとこの講演テーマを選んだのは、これまでにUXリサーチのmeetupイベントで見聞きした内容がきっかけでした。イベントでは、リサーチ手法やプロジェクトマネジメント手法といった、UXリサーチ職だったら誰でも気になるテーマとともに、「仕事の評価方法」「キャリアアップ」というワードが、同じくらい大きなトピックとして挙がってきます。

私は、仕事内容の比率から定義すると「マーケティングリサーチャー」なのですが、「どうしたら自分の業務が評価されるのか?」「この先のキャリアをどう形成したらいいのか?」という悩みは、調査・分析を主務とするリサーチ職に共通したものだと実感しています。イベントでは、質疑応答の時間にこのトピックが挙がりやすいことも裏づけです。

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▼ リサーチ職に共通するキャリア課題


はじめに、リサーチ職に共通するキャリア課題を3つに整理してみます。

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このうち、どれかひとつでも該当していれば、バランスが悪くなっているサインです。
いろいろな調査テーマ・調査手法に触れつつも、ビジネス的にも評価される存在であるために、まずは自分に当てはまる課題を冷静に捉えていきましょう。

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①位置づけがコストセンター

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会社の業績がダウントレンドに入ると、ある日、「全社で経費を一律10%カットせよ」のようなお達しが社内に駆け巡ります。売上を伸ばす方では当期の限界が見えているため、せめて利益を確保したいというメッセージングです。

経費を熟考するのは当然のことですが…残念ながらこの局面で「調査費」は真っ先に削減される予算項目のひとつです。このシーンでリサーチの位置づけは「コストセンター」なので、必要経費として認識されることがありません。

ただ、なぜ期首予算には計上できていたかというと、会社の方向性への意思決定・プロダクトの成長ドライバーを模索するために、期待がかかっているからです。期末になると一気に様相が変わるのは、リサーチ機能の難題です。

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②運用業務が評価されにくい

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上司によって評価基準が左右されやすいのもリサーチ業務の特徴です。「運用実績なんざ俺は評価しないよ」というフィードバックが代表的で、直接的に売上・利益に貢献していないからという理由で、リサーチは疎まれる傾向にあります。

デザイナー・エンジニアなど他の専門職種では、運用実績が当然評価指標に入るのですが、リサーチはなかなかそう見なしてもらえません。経験則では、上司がリサーチ活動を通じた成功体験を持っている/知っているか次第という印象です。

ちなみに、こういうケースでは、いくら自分の仕事を売上貢献換算・外注費用換算しても一切響きません。日頃から売上貢献換算・外注費用換算をしておくのは自分の務めですが、論理的な方面からの解決策は無いと思っていた方が正解です。

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③永遠に同じ業務の繰り返し

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リサーチ職のキャリア課題は、自分の内面にも発生します。基本的には同じ業務の繰り返しによって職を究めていくタイプの仕事なので、実査技法・集計技法そのものへの関心がよほど高くないと、淡々と仕事をこなす毎日に突入します。

難しいのは、会社が定めている範囲を超える学びは得られないこと。新しい分野・新しい手法に触れる機会はなかなか無く、ずっと同じ手法・同じ範囲を繰り返していくことになり、いつまでこの仕事を続けるのか?という疑問も出ます。

転職でこれを解決しようにも、現職で同じことをできていないとだめ、という、専門職ならではの横の壁が発生して、チャレンジ意欲があっても身動きが取れないジレンマとの闘いになります。結局、流動しないキャリアをゆくことに…

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▼ ビジネス職とのバランスの取り方


次に、ビジネス職とのバランスの取り方を3タイプで提示します。
リサーチ職といっても、純粋に研究開発に没頭できる人はまれで、ほとんどの人はビジネスサイドへの貢献と自分の研究意欲を満たすことのバランスをどう取るか、模索することになります。上のパートで解説してきた事柄は、すべて私も事業会社で直面してきた事態です。

ここで私がヒントにしたのが、調査会社の顧客構成です。調査会社は、メーカー・流通・小売などの業種のほか、広告代理店・コンサルティング会社をビッククライアントに抱えています。すなわち、調査業務を取り巻くプレイヤーとの関係性を、自分の仕事に当てはめたら、ビジネスサイドのバランスがうまくワークするのではないかと考えました。

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①調査屋(調査会社)


△良くないケース→「アンケートをやってる人」

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調査屋、すなわち調査会社のような動きを社内で担当する場合、「アンケートをやってる人」という見られ方をしていると苦しいです。業務依頼時には、こんな言葉と共にアサインされることになります。

このテーマで、なるはやでアンケートをお願い。出てきたデータをもとに、こっちで早々に企画を考えなきゃいけないんだ。よろしく!

この関係性だと、いくら知識・経験を持っていても、作業要員的な位置づけを超えることがありません。中には、著しくバリューが低い活動にジョインしてしまうケースもあることでしょう。

○おすすめケース→「商品ベースで相談が来る」

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上記の状況を避けるには、社内の顧客として、セールス・バイヤー・プロダクトマネージャーを意識して連携を取ります。そうすると、商品ベースで相談が来るようになります。

商品ベースで相談を受けていると、業態・品目・商品ごとに知識が磨かれ、ある時点から情報ストックのうえで自分の知識が上回り出すので、顧客の相談相手になってゆけます。

立ち位置は、商品の売り方・作り方のアドバイザー的な存在。こうなると現場部門からの支持が厚くなり、評価が安定していきます。営業同行を依頼されるようになったら、かなり信用されているクラスと思ってよいでしょう。

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②企画屋(広告会社)


△良くないケース→「アイデアマン」

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企画屋、すなわち広告会社のような動きを社内で担当する場合、「アイデアマン」という見られ方をしていると苦しいです。業務依頼時には、こんな言葉と共にアサインされることになります。

今度、これこれの新企画・新施策を立てなきゃいけなくて、○○さん、そういうの得意だって聞いたから、提案書出してくれない?

アイデアマンは一見響きの良い言葉なのですが、企画でフロント部門のピンチを救っている割に、事業活動そのものには貢献してないからという理由で評価が低かったり、業務KPIが他部門の指標と同一化して動き方がいびつになっていきます。

○おすすめケース→「業務ベースで相談が来る」

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上記の状況を避けるには、社内の顧客として、マーケター・広報・営業企画を意識して連携を取ります。そうすると、業務ベースで相談が来るようになります。

こうした職種の人から業務ベースで相談を受けていると、キャンペーン・ニュースリリース・セールスマテリアル等で使うデータソースの提供元になっていきます。

立ち位置は、プロモーション領域のデータマスター的な存在。日本企業ではマーケティング予算≒プロモーション予算なので、アウトプットに仕事のクレジットが残っていれば、現場KPIの達成のために汗をかいた事実が認識されるようになります。

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③分析屋(コンサル)


△良くないケース→「データいじりが好きな人」

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分析屋、すなわちコンサルのような動きを社内で担当する場合、「データいじりが好きな人」という見られ方をしていると苦しいです。業務依頼時には、こんな言葉と共にアサインされることになります。

この項目とこの項目の売れ行きの相関を見たいんだけど、エクセル/デジタルツール/SQLマスターのあなたにぜひお願いしたい。

この関係性だと、せっかく技能レベルが高くても、社内業務委託的な位置づけになります。仕事の困難さを自分以外の人が理解できないので、評価上はけっこう苦しい立場になります。

○おすすめケース→課題ベースで相談が来る

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上記の状況を避けるには、社内の顧客として、経営企画・社長室・グロースハッカー・(VC)を意識して連携を取ります。そうすると、課題ベースで相談が来るようになります。

課題ベースで相談を受けていると、リブランディング・中期経営計画策定・グロースモデル考案・トッププレゼン・記者発表会などで使われるデータに関わることになります。

立ち位置は、意思決定のディスカッションパートナー的な存在。このクラスの仕事は会社のボードメンバーが立ち会っているので、あまり直属の上長の性質に関係なく、正当な評価を得ていくことができます。(もちろんその分ビジネスサイドへの理解力が求められますが、マインドが正しければうまくハマることがほとんどです)

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▼ まとめ


<リサーチキャリアのバランスモデル>
①調査屋(調査会社)
商品ベースで相談が来る⇒商品の売り方・作り方のアドバイザー
②企画屋(広告会社)
業務ベースで相談が来る⇒プロモーション領域のデータマスター
③分析屋(コンサル)
課題ベースで相談が来る⇒意思決定のディスカッションパートナー

本記事に出てきた要点をまとめると下図のようになります。

リサーチキャリアのバランスモデル

事業&組織での評判を固めていくためには、縦横どのレイヤーからも相談が来るようになると無双です。お伝えしてきているように、リサーチの仕事はハイパフォーマンスを維持していても、政治的な要因で簡単に今までの評価が覆る脆さを持っています。ですので、ひとつの窓口が閉まっても、別のレイヤーで評価が持続するような枠組みが大事です。

あとは、①自分の志向性・②究めたい専門性・③得たいポストとの見合いで、活動範囲を判断していく形になります。リサーチ力・研究開発力が日本企業の未来を担っているのは疑いようもありません。どのように振舞えばビジネス職的に正しい評価の枠組みに落ち着くかだけなので、まずは今いる場所でどんなトライができるか考えてみてください★

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本編では、社内の中でリサーチ職はどのように振舞うべきかを論じてきました。
一方、世間一般の人材市場におけるリサーチ職の位置づけも、とても大事です。

書店の棚は世間の関心度を表す鏡だと個人的に思っているのですが、リサーチに関する本は絶滅危惧種・風前の灯火にあります。専門家として職に就く人の絶対数は多くないため、リサーチテーマでの本そのものが出版されづらくなっています。

でも、アンケート・インタビュー・行動観察・フィールド調査・プロダクトテスト等々のリサーチ技法は、本来ビジネス職に関わる誰もが接することのあるスキルセットです。その技能が、一歩業界の外に出ると価値が見えづらい事態にあります。

この状況を何とか変えていきたくて、10月末に『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)を出版しました。事業会社の広報スタッフがリサーチの本を書くという大変クレイジーな取り組みにも関わらず、多くの書店さんが協力してくださり、年内のこの時点では、書店内の多くの棚に展開されています。

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でも、もともとは「売れない狭いテーマ」の本なので、いつ消えるとも限りません。2019年は書籍の執筆がマイルストーンとなりましたが、2020年はより #マーケットをつくるリサーチ =ビジネスで成果を上げるリサーチ手法を広めていきたいと思っています。この記事をきっかけに少しでも気に留めていただけたら嬉しいです。


最後になりましたが、リサーチのキャリアモデルについて議論する場を設けてくださった、#uxpotato 主催者である、パーソルキャリアさん、ポップインサイトさんに御礼申し上げます。

記事ではリサーチ業務が評価されにくい要因を外部環境から考察してきましたが、そのことを自分たちの内にある問題としても認識することは、コミュニティ活動によって促進されるものであり、人材分野・調査分野でチャレンジを行う各社の皆様とご一緒できたことをありがたく思っております。

2019年最後のnote記事です。皆さま、よいお年を!

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