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なぜ?と繰り返し尋ねても答えが引き出せないのはなぜか

「なぜ、○○をしたのですか?」―ビジネスシーンには、判断や行動の理由を問う質問を投げかける場面が多くあります。

・なぜ、このプロジェクトは上手く行ったのですか?(インタビュー取材)
・なぜ、その商品を手に取ったのですか?(店頭聞き取り調査)
・なぜ、サービスの継続を止めてしまうのですか?(サブスクサービスのキャンセル時アンケート)
・なぜ、その趣味を始めようと思ったの?(ランチの雑談)

市場調査の仕事はこの最たるもので、スーパーで買ったものから視聴したテレビ番組に至るまで、「なぜそうしたのか?」を質問します。

しかし、判断や行動の理由は、そう簡単に相手から答えが出てきません。

・成功事例を聴く→「たまたま」「運が良くて」「皆のおかげで」…
・消費体験を聴く→「欲しかったから」「安かったから」「なんとなく」…

インタビューの教科書には、「相手に『なぜ』と尋ねてみましょう」ということが推奨されているものの、現場ではあまり有意の回答が得られない状況に直面するのが現実です。

しつこく答えを求めても相手の回答が出てこない時は出てこないもので、アンケートでも同じ項目を3回以上深堀りすると、「しつこい」「上に同じ」という回答が返ってきます。

なぜ、「なぜ」と繰り返し尋ねても相手は気の利いた回答を返してくれないのでしょうか!?
―考えられる理由は大きくふたつあります。

①相手の記憶が確かである必要がある
→回答の基になる判断や行動を正確に思い返さないといけない

②相手が筋道を立てて話す必要がある
→場の流れに沿った話の構成を咄嗟に組み立てないといけない

ご覧の通り「なぜ」という聴き方は、回答ハードルが意外と高い質問であり、本質を突くのに向いているのと同時に、相手に即時性や論理性を求める高負荷の質問でもあります。

もちろん、「なぜ」と聴くことで高い評価を確立しているメソッドはありますし、コンサルティングやコーチングの世界では伝統的に重用されている質問であることは事実です。

ただ、一般の取材対象者・生活者は、「ご質問の事項に関して理由は3つあります」とは返答してくれません(笑)。ふつうに暮らしていれば特別な訓練を受けないからです。

―では、一般の人に判断や行動の理由を尋ねる際、どんな聴き方が有効なのか?

この記事では、私が10年以上のリサーチ業務の中で探求し続けてきた、リサーチャー以外の人でも扱いやすい「なぜ」に頼らない質問方法を、「5W1Hの質問」を軸にご紹介していきます。

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▼ 記憶回答を掘り下げる→5W1Hの質問

インタビューやアンケートをはじめとするリサーチの仕事は、回答者に過去の体験を呼び起こしてもらう仕事でもあります。いわゆる「記憶回答」を主とする調査手法であるため、情報の精度・深度を上げるために、リサーチャーは聴き方を細かくアレンジします。

その際にナチュラルに駆使されているのが、Why以外の「5W1Hの質問」です。「なぜ」はもちろん最も有用な質問の1つですが、なぜ?一点張りだと曖昧な答えしか引き出せなかったり、充実した回答を相手に求めるプレッシャーの高い聴き方になってしまいます。

Why以外の「5W1Hの質問」を上手く使うと、話の内容が豊かに刺激されて、もともと「なぜ」と尋ねて知りたかった判断や行動の理由に近づくことができます。もちろん情報の解釈には調査経験値が必要です。以下では、情報の解釈の仕方と併せて「5W1Hの質問」の使い方を解説していきます。

※なお、「What」はWhyと同じようにかなり直接的な聴き方になるので、これらの質問方法については別の機会に書いてみたいと思います。

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▼ ①いつ

「いつ」には、回答対象の「シーンや場面を特定する」機能があります。
時期や期間について、「直近・平均・最も○○な時のこと・特定の出来事以降」などの尋ね方を使い分けることによって、回答対象となる物事の範囲が定まり、記憶がよみがえることをサポートします。

Q.直近のことについて教えてください。
→回答者の最近の状況・回答者グループのトレンドがわかる。
・最近の出来事を思い起こせる状態は3ヶ月以内くらい。
・体験・経験がアクティブと見なせる状態は半年以内くらい。
・回答に足る経験値を持っている状態は1年以内くらい。
※もちろん物事の性質によって頻度・周期の基準は大きく変わってきます。
Q.これまでの経験を平均して教えてください。
→生涯またはある経験のスタート以降の押しなべての傾向がわかる。
Q.最も印象に残っている時のことについて教えてください
→強いエピソードと共に物事への愛着(もしくは嫌悪)がわかる。
Q.特定の出来事以降のことについて教えてください
(社会人になってから、結婚してから、東日本大震災以降、緊急事態宣言以降など)
→人生や時代の節目を区切った状態での価値観・志向性がわかる。

もちろん、記憶の観点だけで言うと直近の出来事であるほど良いのですが、質問内容によっては回答経験値があった方が良い場合もあるので、時期や期間を指定して、「経験値の多い・少ない」、「印象の強い・弱い」を制御することで有意の回答を引き出しやすくします。

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▼ ②だれと・だれが・だれを

「だれと・だれが・だれを」には、回答対象の「チョイスや用途を特定する」機能があります。物事を選択する背景にある人間関係・コミュニティに着目することで、最終的に「なぜ(あるいは「何を」)」の要素を確認することにつながっていきます。

Q.○○の時はだれと一緒に過ごしていますか。
→利用・消費における用途・規模・グレードなどがわかる。
Q.○○の時はだれが物事を決めていますか。
→決裁者(購入者)と利用者(実行者)の関係性がわかる。
Q.○○の時はだれをお手本にしていますか。
→相手が目指しているレベル感がわかる。

まず、「だれと」は、たとえば、「(だれと)家で食べるのか?」「(だれと)外で食べるのか?」という質問によって、物や店における注文個数・価格帯・クラス感の差異や変化に着目して、なぜその選択をしたのか?に結びつく情報を得ることができます。

次に、「だれが」は、決裁者(購入者)と利用者(実行者)の関係性を明らかにすることができ、物事の判断基準・価値観を知ることを通じて、なぜその決定に至ったのか?に結びつく情報を得ることができます。(BtoC領域でもBtoB領域でも同様に)

そして、「だれを」は、たとえば、「(だれを)お手本にしているのか?」「(だれを)喜ばせたいのか?」という質問によって、目標地点や貢献対象に着目して、なぜその選択・判断に至ったのか?を裏づける情報を得ることができます。

「だれ」の質問は総じて主体と客体を見極めることに向いており、消費や利用の周辺にある人間関係を知ることを通じて、選択や判断の根拠を確かめることができます。質問の述語に相当する部分のバリエーションは多数あり得るので、ご自身の関わる業態・商材に合わせてアレンジしてみてください。

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▼ ③どこで・どこへ

「どこで・どこへ」には、回答対象の「ニーズや信頼度を特定する」機能があります。購入場所・目的地・情報源などを通じて、相手がその時々に果たしたいと思っていた物事を明らかにすることで、なぜ・どのように利用や消費が起きたのかを知る手がかりになります。

Q.あなたはどこで○○をしていますか。
→購入場所・利用拠点などから願望や心理がわかる。
Q.あなたはどこで○○の情報を得ていますか。
→情報源を通じて発信情報に対する信頼度がわかる。
Q.あなたはどこへ○○をしに行きますか。
→目的地や現在地との差分を通じて行動特性・判断材料がわかる。

まず、「どこで」は、たとえば、「(どこで)購入したのか?」という質問から、コンビニ・ネット・百貨店の違いを通じて求めているニーズを読み解くことができます。

最近では、「(どこで)仕事をしているのか?」という質問も、相手のライフスタイルを知るのに有効であり、場所を問う質問は消費のシーンに限らずマルチに使えます。

次に、「(どこで)情報を得ているのか?」という質問は、マーケティングの場面では定番であり、認知情報源・購入情報源などを知ることで情報への信頼度を確認することができます。

最後に、「どこへ」は、主に旅行シーンでベースとなる質問です。直接的には人気の行楽地を知る質問ではありますが、ハウステンボス→家族で遊べる、由布院・別府→夫婦旅に最適、伊勢神宮→何度も訪れる、など、あるセグメントに共通する行動特性や判断材料のパターンを知ることができるので、選択の「理由」(なぜ)を知るにあたり大いに手がかりとなります。

総じて「どこで・どこへ」で返ってくる答えは、「なぜ」「なに」と同じくらい直接的な情報ではあるのですが、解釈に豊かな多様性が成立する特徴があるため、業態や商材に精通するほど相手への理解が深まる効果が特に高まる質問と言えます。

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▼ ④どのように

「どのように」には、回答対象の「実態や意向を特定する」機能があります。過去や現在の状況について「実態」を尋ねたり、未来や想像上のことについて「意向」を尋ねることで、広い時間軸で相手の経験値や価値観をもとにした答えを引き出すことできます。

Q.あなたは○○にどのように取り組んでいますか。
→行動や判断ベースでの「実態」がわかる。
・利用者や経験者に独自の工夫を話してもらうことで、行動や判断の理由や背景がわかってくる。
Q.あなたは○○をどのようにしたいと思いますか。
→希望や検討ベースでの「意向」がわかる。
・非利用者・未経験者、あるいは物事への経験が少ない人も含めて、広く回答を募ることができる。

インタビューやアンケートなどの「アスキング調査」の手法は、特にこの「How」(どのように~したのか)に対して効果を発揮します。前述の①~③の質問はデジタルデータの方が正確に計測できますが、Howには人の個性や情熱が出るので、事実情報の裏づけとなる示唆を得やすいのです。

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▼ 話の筋道を組み立てる→言語化アプローチ

さて、記憶回答のハードルは「5W1Hの質問」で対処法がわかりました。しかし実際には、相手が回答内容を上手く言語化できない場合も多々あります。思い出せた話の中でも、どれが重要なのか、どれが適切なのか、相手も脳内で処理しながら答えるからです。

そこで、質問と連動して「言語化アプローチ」を駆使すると、相手が話の筋道を組み立てやすくなり、回答の精度が上がります。マーケティングリサーチのインタビュー調査の現場でよく使われているのは、以下の手法になります。

①点数をつけてもらう(5点満点・100点満点)
→出来や評価を振り返ってもらうのに有効
②順位をつけてもらう(ベスト3・ベスト5)
→好みや意見を確実に見極めるのに有効
③ポジティブかネガティブか答えてもらう
→自身の立場を明らかにしてもらうのに有効
④モデルケースへの意見を答えてもらう(テストユース・ベンチマーク)
→パターンごとの有効性を理解するのに有効
⑤思いつくままに書いてもらう(その場で・事前に)
→意見や思考のバリエーションを知るのに有効

①~②は意見や選択を定量的に処理してもらうことで、なぜベストな状態との差があるのか?、なぜ他の事物との差があるのか?を引き出しやすくするアプローチです。

③~④は立場・スタンスを決めてもらうことで意見を汲み取りやすくするアプローチで、⑤は書く作業によって一度自分と向き合ってもらうアプローチです。

いずれも相手に一度思考の整理をしてもらうところがポイントで、この工程を挟むと、物事への思考が一段深まった状態で答えてもらうことができます。

インタビューでは「答え」のほかに、「答え方」を悩む人や場面は一定あるので、通常の問答では膠着状態になってしまって、しかし何らかの答えを得たい重要な質問をする時に有効です。

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▼ インタビューとアンケートの両立から見えてくるもの

この記事は主としてインタビューシーンで使う質問について書いてきました。私は、仕事で何かしらのインタビュー(取材・調査・面接)を行う人には、ぜひ機を見て「アンケート」にもトライして欲しいと思っています。

インタビューは用意した質問を実践する場であり、有効性を判断するには最適な場所です。しかし、ひとつの質問が場にもたらす影響力が高いため、あまり多くの質問や冒険的な質問にトライすることはできないのが実情です。

アンケートは口頭で情報を補足できない環境だからこそ、質問の位置づけを具体的に定義したり(どの経験について尋ねるかなど)、質問に対する解釈を構えておく訓練になります(直近3ヶ月を新鮮な状況と見なすなど)。

また、用意した質問がぱっと答えられるものでないとすぐに回答から離脱されたり、なぜですかと理由を繰り返し尋ねているとしつこいと書かれたり、100人・1000人といった集団に通じる表現を心がける必要もあります。

こうした制約のある環境下での鍛錬を通じて、この記事の「5W1Hの質問」ように、ベーシックながらも実用性に富む質問の持ち札が増えていきます。問いを考える楽しさ・難しさは一緒なので、ぜひトライしてみてください。

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▼ まとめ

「なぜ」と繰り返し尋ねても答えを引き出せない状況
①相手の記憶が確かである必要がある
②相手が筋道を立てて話す必要がある
→問う側は投げかけやすいが、回答のハードルは高い

<5W1Hの質問>―記憶回答をサポート
①いつ→シーンや場面を特定する
②だれと・だれが・だれを→チョイスや用途を特定する
③どこで・どこへ→ニーズや信頼度を特定する
④どのように→実態や意向を特定する
⇒「なぜ」の質問と同じ効果を得られる!

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