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アンケートをつくる時の質問がすぐにわかる8冊の本

アンケートの質問をつくるとき、皆さんは何を参照していますか?

会社の中に過去調査の蓄積が無い…
知見を聞ける先輩が周囲にいない…
テンプレート集がそのまんますぎて使えない…
調査の本は手法と手順の解説に終始している…

初めてアンケートを自分でつくる人にとって、実際に使える生情報は意外と出回っていないもの。私も本を見ながら、「調査テーマと質問項目はそこそこでいいから、質問文と選択肢を載せてよ」と、ずっと思ってきました(笑)。

そこでこの記事では、リサーチを何らかの形でテーマに含んでいるビジネス書の中から、アンケートの質問サンプルを直接的に掲載している本を8冊取り上げます。この記事に登場する本を見たら、すぐに質問のイメージが湧きます。

本の並びはテーマ別に、前半:マーケティングリサーチ、中盤:プロダクトデザイン、後半:従業員サーベイ、という順になっています。中盤以降はインタビュー用の質問も含みますが、問いの本質は同じなので、アンケートでも十分使えるものを選び出しています。

▼ ①『「欲しい」の本質』

インサイトリサーチの著作を複数持つ、デコム代表・大松さんの本です。

本全体としては、心理学的アプローチから消費者の深層心理を探る方法を紹介しており、人の価値観・行動背景を知るための考え方を説いています。

「ペットと過ごす生活」を仮想テーマに、インサイトリサーチの実践例として、ターゲット顧客の理解を深めるためにつくられた質問がこちらです。

①『「欲しい」の本質』

●インサイトを理解するための質問
Q.ペットと過ごすことについて、幸せを感じるひととき
Q.ペットについて、ストレス、不安、不満、悩みから解放されるとき
Q.もし制約がなかったら、ペットについて実現したい夢

「知りたいことの実態」と「その時に感じる気分」の組合せが設計の肝になっており、生活シーンとその周辺にある心象風景を探る内容です。

アンケート質問では、直接的に尋ねる方法と、婉曲的に尋ねる方法と、両方知っておくとデータに深みが出ます。前者は定量的に置き換えやすく、後者は人により志向性が分かれるテーマの時に個別ニーズを把握しやすくなります。

本書は後者のアプローチに強く、インサイト探索質問の活用イメージを深めていく、いいきっかけになります。※ただ、インサイト系の質問を扱う際は、形式だけ真似ても狙った回答傾向を得られないこともあるので、ご注意を。

※この本の続編的な立ち位置にあたる新刊記念イベントの模様を、データサイエンティストの松本健太郎さんがnoteに書き起こしされています。

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▼ ②『価格の心理学』

チョコレートポット(ホットドリンク)を製造・販売するストーリーを通じて、定価・値引き・後払いなど、様々な値決めのノウハウを学べる本です。

価格設定には原価起点・経費起点などの決め方がありますが、ターゲット(消費者)起点で理想をヒアリングする時に推奨されている質問がこちら。

②『価格の心理学』

●価格設定のための質問
Q.この商品を買わないとすれば、代わりに何を買いますか?
Q.この商品と一緒に何を買いますか?
Q.もし1000円(あるいは別のふさわしい金額)を渡して、その予算内でこの商品を買ってきてほしいと頼めば、どこで買いますか?

消費者向けに行う価格の質問というと、「予算(がいくらくらいあるか)」を尋ねるのが一般的ですが、上記の質問では、どんな商品と一緒に購入されるのか?、どんな場所で想起される商品なのか?、それを知ることを通じて、価格ラインを決定していく方法を取っています。

価格設定については(※サプライズ・価格破壊型でない場合)、競合相場を参照する視点と、あえて市場から外れる視点と、両方が必要になりますが、上記の質問は両方からのアプローチになっており、価格にフォーカスした質問をする時に使えます。

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▼ ③『実践 顧客起点マーケティング』

「スマートニュース」のグロース工程を明かしつつ、ニュースアプリユーザーへ実施した調査プロセスが余すところなく書かれている本です。

当時、ニュースアプリとしては特徴が薄かった中で、マーケティング責任者として着任した著者の西口さんがまず行ったアンケートがこちら。

③『実践 顧客起点マーケティング』

●ブランドの利用実態を把握する質問
Q.ご存知のブランド名をお答えください。
Q.これまでに使用されたブランド名をお答えください。
Q.現在、使用されているブランド名をお答えください。
Q.使用されている頻度をお答えください。

上記の質問構成は、「名称認知、利用経験、現使用ブランド、利用頻度」の順で、ユーザーのステイタスが区分できるようになっており、ここで得るデータは一問一問の答えを知るためだけでなく、別の質問とかけ合わせられるようになっています。

たとえば、「スマートニュースのイメージ」のような別の重要な質問に対して、先ほど出てきた利用実態に応じて分類したグループごとの結果を出し、「名称を知っている人」と「知らない人」の傾向を比較できるよう設計されています。

アンケートをはじめたての人は、「知っている/使ったことがある/買ったことがある/好き」の分類をあいまいにしたまま質問をつくってしまう傾向があります。分類を明確にする必要性は、この本を通じてよくわかります。

リサーチを扱うマーケティングの本で、分析→対策がセットで紹介されているケースはなかなか珍しく、生きたマーケティングの中でアンケートの使い方を学ぶことができます。

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▼ ④『Hacking Growth グロースハック完全読本』

サービスの急成長を目指すグロースハックの成功事例ノウハウを結集している本です。

グロースの成功に当たっては、ユーザーの「アハ体験」(本能的に理解が深まった状態)という転換点があり、そのアハ体験を探るためのファーストアクションとして紹介されているのが「マストハブ・サーベイ」です。

「マストハブ・サーベイ」は、アプリなどの現行プロダクトがユーザーにどの程度受け容れられているかを測定するための調査で、本の該当箇所ではコアとなる質問が紹介されています。

④『Hacking Growth グロースハック完全読本』

●プロダクトの受容度を計る質問
Q.もし明日このプロダクトがなくなったら、どれくらいがっかりしますか?
Q.このプロダクトから得ている最大の恩恵は何ですか?
Q.このプロダクトから最も恩恵を得られるのはどんな人だと思いますか?

改善サイクルを回し続けるグロースの現場で使用されている質問群だけあって、すべての質問が検証方法とセットになっています。上記で引用している質問については、以下が解釈になります。

・どれくらいがっかりするか?→「すごくがっかりする」が4割以上ならマストハブの域に達していると認定できる
・最大の恩恵は何か?→追加で実装する機能・アピールすべき機能を模索する
・恩恵を得られる人は誰か?→注力すべき潜在顧客がわかる

アンケートを取りっぱなしにしないようにするには、このように、目的から質問を逆引きできるようにしていると、調査活動に無駄が無くなります。

この本はグロースハッカー向けの体裁を取っていますが、(狙う成長角度を別にすれば)グロースと無縁の仕事というのは無いため、誰が読んでも得るものがある内容になっています。

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▼ ⑤『SPRINT 最速仕事術』

「SPRINT」は、月曜~金曜の一週間で新しいプロダクトの初期段階までを作り上げる高速のプロジェクトモデルを指し、本書では、Slack・ブルーボトルコーヒーなどの事例を読むことができます。

一週間のうち最終日の金曜日は、プロトタイプ(試作品)のテストを行う重要な日に位置づけられていて、数人のモニターユーザー(被験者)からフィードバックを受ける場をセッティングします。

テストの場は純粋な対面インタビューとは異なり、ファシリテーターはユーザーがテスト体験をしている間、タスクをリードしつつ、リアクションを拾うための問いかけを発しなければいけません。

回答内容を誘導せず、進行にリズムをつくっていく難しい場面ですが、ここで優れた質問が用意されています。

⑤『SPRINT 最速仕事術』

●テスト体験の印象シェアを促す質問
Q.これは何ですか?何のためのものでしょう?
Q.次に何が起こると思いますか?
Q.これを見ながらどんなことを考えていますか?
Q.次に何をするつもりですか?それはなぜですか?

「回答者のアクション」と「行動の背景」にフォーカスした質問のつくりになっており、自分はモニターユーザーの行動を観察しながら、被験者には今自分が考えていることを口に出すよう促しています。

アンケートは記憶回答をベースに実施することがほとんどですが、「テスト」を趣旨とする調査では、体験と回答を同時に進めていくために、インタビューで使うタイプの質問ストックも欠かせません。

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▼ ⑥『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

ニューヨーク在住アートディレクターの著者おふたりによる、ブランドデザインのスキームをわかりやすくまとめた本です。

ここまでに見てきた消費者ユーザー向けの質問と異なり、本書では、会社内で経営者・ブランドマネージャーから自社ブランド(商品・サービス)に対する現状認識をヒアリングする方法が紹介されています。

⑥『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

●経営者・ブランドマネージャーの現状認識を問う質問
Q.あなたの会社を形容詞で表現すると何ですか。
Q.お客さまがあなたの会社の名前を聞いたとき、どんな印象を持って欲しいですか。
Q.いまの会社で間違って伝わっている点はありますか。

調査活動は、意外と、市場側よりも会社側の意思がつかめなかったりするものなので、事前の社内すり合わせが緩いと、得たデータから出口戦略を描けなくなる原因になります。

引用した箇所の問いに対して回答を得られると、元々の意思や現状認識を確認することができ、模範的なブランドのあり方と現在地を対照させて考えるステップになっています。

実際の本の中では、会社の強みや課題を内省する問いを27個収録しており、ブランドデザインに限らず、サービス・コーポレート問わず、どんな調査の事前準備にも使えます。

※書籍の担当編集者さんが本への想いを綴ったnoteもよく読まれています。

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▼ ⑦『"困った職場"を劇的に変える 話し合う技術を磨く』

経営者・人事・教育担当者向けに、チームビルディング研修のファシリテーション法を説いている本です。

調査の世界では近年「従業員サーベイ」が成長領域になっていますが、本書では「会社のビジョンを従業員に浸透させるには?」「組織のビジョンと個人バリューを結びつけるには?」というミッションに基づいて、従業員の価値観をインタビューするシーンに最適な質問が紹介されています。

⑦『困った職場を劇的に変える 話し合う技術を磨く』

●従業員バリューを洗い出す質問
Q.あなたがなぜこの会社に入社したかを教えてください。
Q.仕事を始めてからこれまでで、最も誇りに感じている仕事の経験を教えてください。
Q.なぜそのとき、自分は成功できたのだと思いますか。
Q.その体験は部のビジョンである「プロ集団になる」と関連していると思いますか。

通常の従業員サーベイ(定量)では、「やりがいを感じますか?」「組織と合っていますか?」のような質問が100問くらい続き、組織に何が必要だと思うかを答えさせる内容が一般的です。

しかしその結果は、皆さんも会社で経験しているかもしれない、「真心・努力・感謝・笑顔が大事」のような、模範的で誰も異を唱えない、しかし、実際には有効に機能しない結論を導き出します。

上記のバリューを洗い出すための質問は、従業員自身の体験から組織での存在価値を引き出そうとしており、会社の文化の根源に迫る回答を得られます。(私も取り入れてみて良かったです)

近年は採用広報・タレントマネジメントが、人事業務の一大領域になっており、査定用の定量アセスメント調査とは別に、こうした定性的なセンスのある質問のストックも重要になります。

残念ながら本書は絶版になってしまったようですが、私は発売以来一度も手放したことが無く、実効性ある組織改善を促していくハンドブックとしておすすめです。

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▼ ⑧『働き方の哲学』

働く意味や自身の中にあるモチベーションを内省することにより、キャリアを見つめ直すポイントを多数収録している、キャリアハック分野のベストセラー書です。

本にはミニワークが数点収録されており、担当する商品・サービスに対して、自分の付加価値を考えるために用意されている穴埋め式質問(ワーク)がこちらです。

⑧『働き方の哲学』

●自分の労働価値を見出す質問(ワーク)
私は仕事を通し [       ] を売っています。
/を届けるプロでありたい。

ポイントは、穴埋め式になっていること。穴埋め式は回答内容そのものに人の意識を集中させる効果があり、全面自由回答の形式よりも的を得た回答を得やすくなります。

特にこのワークでは、商品・サービスそのものよりも、「世の中とのつながり」を考えさせることを目的にしており、思考の焦点を労働価値に合わせるのに最適な形式です。

※もちろん、広く意識や経験を尋ねる時は、オーソドックスに全面自由回答の形式を使います。

実際、本に収録されている回答事例集では、「15秒に詰めた欲望の着火剤(広告代理業・CMプランナー)」など、生き生きとした・ユニークな回答が見ることができます。

※版元のディスカヴァーさんのTwitterでも、本のことを紹介していました。

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▼ まとめ

「欲しい」の本質→インサイトを理解するための質問
価格の心理学→価格設定のための質問
実践 顧客起点マーケティング→ブランドの利用実態を把握する質問
Hacking Growth グロースハック完全読本→プロダクトの受容度を計る質問
SPRINT 最速仕事術→テスト体験の印象シェアを促す質問
ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと→経営者・ブランドマネージャーの現状認識を問う質問
"困った職場"を劇的に変える 話し合う技術を磨く→従業員バリューを洗い出す質問
働き方の哲学→自分の労働価値を見出す質問

アンケートに特化した本というのはなかなかありませんが、消費者・プロダクト・ブランド・マネジメント、様々な枠組みの中で「問い」が重要な役割を担っていることがわかります。

この記事をきっかけに、皆さん手元の質問ストックをブラッシュアップする機会になっていたら嬉しいです!効果のあった質問があったら私にも教えてくださいね(笑)。ではでは~。

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アンケート質問のつくり方についてnoteを書いてます!
(いつもたくさんのスキ、ありがとうございます)

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アンケートのノウハウをまとめた本を出版しています!
(めっちゃ宣伝)

『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)

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