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中山淳雄『オタク経済圏創世記』日経BP(2019)

今までのいわゆる経営史

日本の経営史やグローバル展開の視点といえば,今までは,機械,自動車といった第2次産業が戦後に急速に復興し,その勢いで世界進出を果たしていった文脈で語られていることが多い。さらに,その後バブルの崩壊とともに停滞し,日本経済はそこから抜けられずにいるという見方をすることがほとんどであろう。

そして,失われた10年とも20年とも言われる期間が今でも続いており,そこからどのように脱出をするのか,停滞した中からの新規事業やイノベーションを生み出すにはどうするのかを「機械,自動車,建設,金融といった過去に伸びていた産業を舞台として」の議論が繰り広げられているのではないだろうか。

世界にあるキャラクタービジネスのほとんどが米国と日本から出てきている

ここにあるのは,機械・自動車・建設・金融といった過去に日本を代表する花形だった産業とは別軸で発展してきた産業史であり,イノベーションの歴史であり,実は現在においてリアルに世界を覇権してしまった日本発のコンテンツ産業史が書かれている。今現在,世界にあるキャラクタービジネスのほとんどが米国と日本から出てきているという事実はもっと知られていいんじゃないかなとさえ思える。

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出所:本文中P.190図のオリジナル資料:https://www.titlemax.com/discovery-center/money-finance/the-25-highest-grossing-media-franchises-of-all-time/

コンテンツ産業におけるヒトモノカネ

実際のそのビジネスの隆起については,もちろん神風ばかりが吹いているわけでもなく奇跡ばかりが起きているわけではない。2000年以降におけるコンテンツの企画・制作,配給,版権管理,イベント,マーチャンダイズといった垂直統合されたビジネス構造と,そのビジネスをグローバルなマーケットにおいて組織的にどのようにマネジメントしていくのかについて,特に米国と日本の気質の違い(組織形成のあり方,マネジメントのあり方,クリエイター等)までに踏み込みながら,日本初のコンテンツのグローバル化の成功要因を分析している点についてはとても興味深いものがあった。

今までの戦後の産業史では,アニメ・コミック・プロレス・ゲームといった領域は注目されていなかったけど,日本発で世界を席巻しているというのは紛れもない事実であり,その考え方や戦略・施策を研究することは,他の産業のグローバル化についてもとても参考になるのではないだろうか?特に,「過去の成長を同じフィールドで」と思っても時間も事業環境も戻ることはない。

サブタイトルには「GAFAの次は2.5次元コミュニティーが〜」と書かれており「いやいや,それは比べるものではないでしょ」とはおもう。しかし,モノからコト,製造業からサービスへといった産業やマーケティングの潮流の中で,コンテンツやキャラクターのグローバルマーケットにおける存在のあり方は知っておくべきであろう。


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