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【本の感想】あさのまさひこのプラモデル業界回顧録2冊

あさのまさひこ」は、1980年代にプラモデル誌のモデルグラフィックスでフィギュアモデラーとしてデビューしている。ガンプラをはじめとするロボットのプラモデルも作っていて、フィギュアの塗装技法を使ったマラサイの作例が印象に残っている。その後、編集者として活動した後、いわゆる「オタクライター」として1980年代以降のアニメ・ホビーシーンについて、思い入れたっぷりの硬い文章で解説する記事を各所で書いている。

また、モビルスーツのデザイナーとしても活動していて、「機動戦士ガンダムZZ」に出てきた「リゲルグ」をデザインしている。リゲルグはゲルググの肩の部品を巨大化しただけのモビルスーツだが、キュベレイのテストへッドみたいな雰囲気もあり、省エネでいいリデザインをしていると思う。(1/144のHGUCを買った)

近年の仕事で印象に残っているのは、ディアゴスティーニから出ていた「ガンダム・モビルスーツ・バイブル」というマガジンで、巻末にその号で取り上げられたモビルスーツのガンプラ展開について書く1ページを担当している。単にプラモデルの出来(プロポーションや可動域等)に留まらず、発売当時のファンの反応やメーカーの事情についても書かれている。こういう視点でガンプラを解説した企画はこれまでになく、新鮮だった。

「MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」(以下MSV)」は2018年の発売時に、「’80sリアルロボットプラスチックモデル回顧録(以下リアルロボット)」の方も今月、それぞれジュンク堂で見つけて買った。こういう「出合い」はリアルな書店ならではだ。「リアルロボット」を読んだ後、「MSV」を読み直した。

今回取り上げた2冊は、1980年の「機動戦士ガンダム」の放送に始まる「リアルロボットアニメ」についてのファンの反応やメーカーの動きについて、プラモデルの商品展開の視点から茸又リ上げている。

「リアルロボット」の方は、1980年から1984年までに放送・公開されたアニメとそのプラモデルについて、「MSV」の方は、その中で特に「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツをもとに後付けで設定された派生型のプラモデルシリーズの展開に絞って書かれている。

つまり、両者が補完してこの時期の動きについて総合的に回想することになっている。刊行順は、上にも書いたが「MSV」が2018年、「リアルロボット」が2022年である。普通に考えると逆のようだが、要は「『MSV』が制作側の想定を超えてヒットしたことから、『リアルロボッ卜』が企画された」というのが真相だろう。

ちなみに、私は、1980年代は高校生から大学生、独身の社会人の時期にあたる。地方に居て視聴できるテレビ局に制限もあり、取り上げられたすべてのアニメを観ているわけではない。ただ、戦車のプラモデルはずっと作っていたモデラーなので、スケールモデル的な要素を(いま思えばわずかに)持ったガンプラの展開には、興味を持っていくつか作ったことを覚えている。

MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」

いまのガンダムでも、テレビに登場しないモビルスーツを公式が設定しプラモデルとして発売したり、「ビルドファイターズ」など「ガンプラモデラーを描いたアニメ」に出てくる作品世界のモデラーが改造したモビルスーツ(のガンプラ)を商品展開しているが、MSVはこの走リとなったシリーズである。

ただ、MSVは、制作側の公式設定というより、ファンに近い層が「裏設定」として定義したものがもとになっているという違いがある。「スタートレック」の本国のファン「トレッキー」がなしたことと近い。

非公式なムック本や雑誌の記事に載ったモビルスーツの(SF的、ミニタリー的な)派生タイプが、徐々に認知され公式側で認められて、遂にはガンプラという立体物で発売されたときのファン・メーカー・マスコミの熱量は凄かった。

この本は、その発端から終息までを、当時を知る者の証言や記事をもとにまとめている。

製品写真や雑誌の記事についても、カラーは少ないが、主要な写真はほぼ掲載されていて資料的価値も高い。

'80sリアルロボットプラスチックモデル回顧録

「機動戦士ガンダム」に始まる、「兵器として(ある程度)説得力があるデザインで、(それなリの)科学考証のもとで展開されるアニメ」の事を「リアルロボットアニメ」と定義づけている。そのプラモデルを主体とした商品展開から、当時のアニメとホビーの環境を解説した本。

「MSV」を書いたあさのまさひこと、ライターである五十嵐浩司の共著となっている。

まず、時系列に沿って1984年からのリアルロボットアニメに対するファンやメーカーの反応、その商品(プラモデルやトイ)の展開について、二人の対談形式で取り上げている。この対談は、当時の関係者の証言や文献の引用は一切なく、両者の主観的な見解のみで構成されている。また、対談の中で出てくる用語や記述については、欄外に番号を振って注釈を書いている。多分あさのまさひこが書いたのだと思うが、ちょっとくどい表現で、有用な情報はあまり載っていない。

対談の後で、それぞれのアニメ作品について五十嵐が解説している。一作品2〜3ページを割いている。内容は体系的に上手く整理されており、視点は客観的だ。私自身知らなかった情報も多かった。

この構成は、それぞれ得意分野が違う二人が上手く補完していると思う。

非常に短期間で盛り上がって、短期間で終息してしまった「リアルロボットアニメ」とその商品展開について、ここまでのボリュームで取り上げた書籍はなかったと思うので、切り口は面白いと思う。

ただし、バンダイとサンライズだけを対象としていた「MSV」と違い、対象が多岐に渡ることから使用許諾が取りづらかったのか、写真やイラストの類は一枚もない。

その点が「MSV」との大きな違いだが、上に書いたように関係者へのインタビューや数字のまとめもないので、資料的な価値は低い。ただ、図版にっいては、いまどきスマホ片手にキーワードを検索すれば、商品写真が表示されるので、支障がないといえばない。変に商品写真を網羅しようとして値段が上がったりするのでなければ、これはこれで仕方ないのかもと思えた。

では、この本にはどういう価値があるのか。

例えば私は、エンドユーザーの端っこに居た程度の人間だが、ある意味「当事者」と言える。そんな私から見ると、「そうそう!」「そんなのあった!」と懐かしくて面白く読める書籍だ。

では、世代なり志向が違って、その当時を体験していない人にとってはどうなのか?

体験してる私にはわからないが、「昭和50年代には、こんなオタク文化があったのか!」と認識できる書籍ではある。

過去の特撮作品(初期の「ウルトラマン」はもちろんだが、「ティガ」「ダイナ」「ガイア」とか)や、20世紀のプロレスについての書籍もたくさん出ているが、同じような気がする。

まさに、「一緒に踊り狂った人間しかわからない面白さ」なのだとは思う。

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