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少数意見を軽視してしまう姿勢①

私は仕切るのが好き。会議は合理的に進め、時間を短く終わることを是としています。多少強引でも、チャキチャキどんどん進める方が良いと考えるタイプ。

会議での合意形成も、大多数の意見を中心にまとめます。多数派からまとめて、結論を導く。その方が効率が良く会議の時間が短くできるので、参加者にも喜ばれると思っていました。

もちろん、だからといって乱暴に結論を出そうとしたり、議論をせずにというわけではありません。あくまで「合理的かつスマートに」が目標。

さて、そんな私の考えを根底から覆される方法に出会いました。

お見舞いに「果物の詰合わせ」

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今回の会議は「入院した課長へのお見舞いの果物を何にするか」がお題。課長は50代の女性。お見舞いは果物3種詰合せで、7種類の候補から選ぶ。A〜Gの部下7名が「ひとり3種類選んで」多数決で決めることにし、集計したのが下の表。

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段取りよくスピーディーな司会

以下、私の進め方(私は隣の課だが、司会を引き受けた)

私:「集計の結果を見ると『メロン』が6票なので、これは決まりでいいかと。次点が『もも』で5票なので、これもほぼ決まりかと。『もも』を選んでないCさんとDさん、異論ありますか?」

C:「僕は3つ目に『いちご』が選ばれるなら、いいよ」

私:「『いちご』は3番目に多いから可能性はありますね。Dさんは?」

D:「・・・。えっと・・・。はい、いいです」

私:「では、2つは決まったので、あと一つ。4票の『いちご』と、3票の『さくらんぼ』について、これはどちらがいいか、意見ありますか?」

〜ここから議論になったが「さくらんぼ」より「いちご」の方が高級感があることや、日頃から声が大きく年長のCさんに皆が配慮して、結局「いちご」が選ばれた〜

私:「では『いちご』が選ばれたこともあり『メロン/もも/いちご』の3種で決めたいと思いますが、どなたか異論ありますか?」

皆:「異議なし」

私:「ありがとうございました。スピーディーに決まってよかったですね」

これが、私の司会進行。

意外な結末

ところが、少数意見を重視する「司会者:X」の場合、同じ状況で全然違う仕切りをし、驚きの結論を導き出しました。(表は全く同じ)

<司会者「X」登場>

X:「集計結果を見ると『りんご』はゼロ票ですね。ということは『りんご』を外して考えたいと思いますが、どなたか意見を変える方はいますか?」

皆:「・・・・・」

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X:「では『りんご』は一旦外して考えましょう。議論の過程で復活するかもしれません。続いて最も少ない1票だった『みかん』について。Dさん、何故『みかん』を選んだか説明してもらえますか?」

D:「えっと、今回の選択肢はバラ科の果物が多かったので・・・そうじゃない果物を消去法で選んだので『みかん』が入りました」

X:「バラ科?それはどういう意味ですか?」

D:「はい。私の姉と母に加えて従姉妹が、この数年で相次いでバラ科の果物アレルギーになり、それまで大好きだった果物が食べれなくなったんです」

X:「ほう。それは辛い」

D:「特に姉は『さくらんぼ』が大好きだったので、相当落ち込んでました」

X:「ちなみに、この中でバラ科はどれですか?」

D:「いちご、りんご、さくらんぼ、もも」です。

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G:「えーっ!半分以上そうじゃん。」

D:「すみません・・・」

X:「いや、Dさんが謝ることじゃないですよ。なるほど。ちなみに課長さんはバラ科アレルギーなんですか?」

D:「いや、それは知りません」

X:「どなたか、ご存知の方はいますか?」

皆:「・・・・・・」

X:「ちなみに『メロン』はどうなんでしょう?」

B:「今、ググったら、ウリ科らしいです。で、ウリ科アレルギーもあるらしいですよ」

A:「マジかよ。じゃあ、大丈夫なのって、あるの?」

E:「とりあえず、全部の果物名とアレルギーで検索したら、皆それなりにアレルギーはあるらしい」

G:「ホントだ。特にバラ科とウリ科はヤバイらしいな。うわ、俺が選んだの全滅じゃん」

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X:「いやいや、皆さん、ちょっと待ってください。課長さんが果物アレルギーだと決まったわけではないので、一旦議論に戻りましょう。そうすると、少なくとも果物の属する科別に分ける必要がありそうですね」

F:「調べたら『バラ科、ウリ科、ブドウ科、ミカン科』の4つらしいぞ」

B:「Dさん、すごい!ちゃんと3つの科に分けて選んでる」

D:「それは・・たまたま、です」

C:「えーっ、じゃあ『みかん』入れるってこと?お見舞いに?」

B:「いいじゃないですか。ほっこりして」

X:「ちょっと整理しましょう。課長さんが果物アレルギーと決まったわけではないですよね。しかし、皆さんがそこまで反応するとなると、まず、それを調べないといけないですね。どうしますか?」

A:「そもそも、なんでお見舞いが果物なんだっけ?」

B:「Cさんが、果物にしようとおっしゃったので」

F:「あ!Cさん、自分の得意先の上野パーラーのやつにするつもり?」

C:「そうだよ。だって、8000円で高級メロンも入って3種類。お得じゃないか」

A:「お得ですかね? 8000円って、ちょっと高いと思ってたんですよね〜」

G:「お菓子だったら、5000円も出せばすごい立派なものが買えますよ」

B:「アレルギーも気にしなくていいし」

C:「お菓子だってアレルギーあるだろ。小麦とか」

F:「いやいや、お菓子は聞いたことないですよ。それに、万一何かのアレルギーだったとしても、お菓子なら日持ちするから、誰かにあげられるし」

E:「そうそう。お菓子はもらった後の汎用性が高い」

B:「Eさん、相変わらず理屈っぽいw」

A:「しかも、モックモックなら5000円で一番上のグレードが買えるよ」

B:「課長のセンスじゃないですけどねww」

G:「有名なパティシエが作ったフィナンシェは?」

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X:「おやおや、皆さん。お見舞いの品がお菓子に変わってしまいそうですが、いいんですか?」

皆:「異議なーし!」

X:「Cさん、それでよろしいんですか?」

C:「仕方ないでしょ。みんなの総意なんだから。いいですよ」

X:「では、そういうことで。お菓子を何にするかは、どうしますか?」

D:「あの・・・」

X:「Dさん、どうしました?」

D:「課長、入院する前に、席でこの雑誌読んでたんです」

(それは「センスを感じるスイーツ菓子」を特集した有名女性誌だった)

A:「えーっ!じゃあ、お菓子で正解なんじゃん」

B:「じゃあ、同じ女性としてDさんと私で、その本から選んできますよ」

男一同:「お願いしまーす!」

C:「お菓子なら、上野パーラーにも・・・」

F:「Cさん!!!」 

B:「残念ながら、この雑誌に上野パーラーは入ってないで〜す」

C:「冗談だよ、冗談・・・」

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趣旨が変貌

ということで「果物の種類選び」が趣旨だったはずが、お見舞いの品自体が「お菓子」に変貌

私は多数意見からアプローチ。司会者Xは少数意見からのアプローチ。アプローチ次第で結論が大きく変わり、時には趣旨まで変わってしまいます。

どちらがいいか悪いかは、集団や個々人の価値観次第。今回のケースも、私が導いた結論が不正解かというと、わかりません。

もしかしたら、課長さんは大の果物好きで、一切アレルギーがないかもしれない。また、たまたまスイーツ特集の女性誌を見ていたが、特集とは別の連載ページに興味があっただけかもしれない。お菓子はダイエットのためにあまり食べないかもしれない。

大事なことは「正解か否か」より「皆が納得する議論ができたかどうか」。

今回のケースでいうと「なぜ果物を見舞いの品にするか」という根本的なところはBさんしか知らず、皆も特に疑問を抱かずに決めようとしました。結局、年長者Cさんの都合でしたが、まあ、この程度の議題だからそれでもいいでしょう。

しかし、もっと重要な議題でも、これと同じことが起きるのです。

スポイルせず、フォーカスを当てる。

学びは「少数意見をスポイルしない姿勢」、もっというと司会者Xの「少数意見からフォーカスを当てる姿勢」。

そもそも少数意見は、よほどの魅力がないと軽視しがちです。

さらに、自分の価値観と異なる意見=「ありえない」と感じた他者の意見は、どうしても真剣に取り扱う気になれません。だから「少数意見にも根拠がある」という当たり前のことを、軽視しがちになります。

しかし発案者には、ちゃんとした根拠があるのです。今回のDさんの場合は「バラ科アレルギー」。少数、たった一つだからといって、意見の根拠を確認もせず、無視して進めるのは良くありません。確認した上で参加者の賛同が得られなければ、そのとき初めて「その意見は採用しない」とすればいいのです。

自分自身の「凝り固まった価値観」や、それに伴う「先入観」を簡単に捨てられるようにならないと、会議の進行役を務めてはいけない。司会者Xに出会って、そう強く感じました。

何かを裁くときには「価値観」と「先入観」を捨てよう。

つづく・・・



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