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シネマ飛龍革命 『ダークグラス』

村人1号「あれは何時だったべか…もうすっかり周りも暗い時間よ!オラたちが狩りさ行った帰りに、ずぶ濡れのオナゴが道の真ん前に飛び出してくるもんで、ビックリしてよ~」

村人2号「とりあえず毛布かけてやってさ。コーヒーでも飲んで落ち着けって話聞いだら、変な男さ追われてるっていうべさ!」

村人1号「オナゴは目も見えねえようだし、子供も横さおるべし、見捨てられねえっちゃ!」

村人2号「こりゃ大事だっち、ショットガンさ弾ぁ込めたのよ!」

村人1号「いや~、なんやかんやブン殴られたり、車に轢かれたりしだども、あの二人が無事なら良がった!なあ!吾作さん!」

村人2号「んだな!!」

~村人1号+2号の証言


イタリアのブランドと言ったら、皆さん何を思い浮かべるだろうか?
グッチ、ブルガリ、ヴェルサーチ、プラダ、アルマーニ…
その辺りの名前に出るかもしれんが、あえて言わせてほしい。
大事なもんを忘れてないですか?と。



そう、ダリオ・アルジェントですね。


長年、ホラーやサスペンスで我々の尻子玉を抜いてきたアルジェント印の映画。
彼氏の10年ぶりの最新作が、遂に公開された!
それがスリラー映画『ダークグラス』だ!

光を奪われた盲目のコールガールとショタが粘着殺人鬼に追われる!ひたすら!が主なあらすじの本作。
ここ最近、整合性がキッチリある映画に飼い慣らされつつある俺だったが「え!?なんで!?」二度見してしまう瞬間が連発!
アルジェントが映画という名の刃を観客に突き立ててくる。
まあアルジェント作品の斜め上な展開は今に始まったことではない。
今も昔も「このシーン要る?」と、と戸惑う演出を躊躇なしにブッこんでくるのがアルジェント。
実に油断ならない監督ぶりは本作でも健在だ。

予想通り過ぎて逆に意外な犯人。
ここ最近じゃ珍しいほどに無能ぶりがキラリと光る刑事たち。
通りがかりにも関わらず、漢気を爆発させる村人1号&2号。
水ヘビ群生トラップ。
きょうのわんこ・飼い主マウント合戦。
死地を共に切り抜けたものの、やたらアッサリしたショタとの別れ。

このように、二言目にはロジックやらコスパを掲げる野郎の口に大いなる無駄を捻じ込んでいく。
気が利いているか否かで言えば、「まあ…全然!」としか言えない。
だが、無駄な枝葉の部分にこそ、妙な中毒性があるのがアルジェント作品だ。
この考察を全く許さない姿勢に一周回って痺れてしまった。

思えば『サスペリア』もホラーの金字塔として持ち上げられがちだが、最終的にはオカルトを屋敷ごと燃やし、主人公が爆笑。
ワンパクかつ朗らかな終わりであった。
本作の主人公ディアナも、劇中で視力を失ったものの風俗嬢としてのプライドを失わない。
同じく、両親を失ってもイジけ知らずのショタ、彼らを支えるロッキーのアポロ・ポジションのアーシア・アルジェント(監督の娘)と、「それはそれ、これはこれ」精神でブレ知らず。
気が利いた映画ならディアナとショタそれぞれが視力や両親を失った葛藤、3人に家族めいた絆が生まれる模写に尺を取りがちだ。
だが、その辺をアルジェントはズバリ深堀りしない。
まるでイタリアの地中海気候のようにアッケラカンとした作風は過去の作品も含め、一貫している。

冒頭、主人公が周りの人間がそうしているように目にダメージを負うのを恐れずに皆既日食を眺めるわけだが、まるで観客のメタファーと考えるのは俺の考えすぎだろうか…
真っ当な映画ファンから見たら駄作と言われるのを分かり切ってても、何となく観ちゃう。
そんな観客のアルジェント作品への姿勢に似たもんを冒頭に感じてしまった。

ローマは一日にして成らず。
アルジェントも一日にして成らず。

本作も過去の作品も含め、悪趣味なショック模写がありつつ、展開のアバウトさも楽しめる。
それがアルジェント作品の醍醐味だ。
是非、本作をきっかけにアルジェントの作品を追って欲しい。

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