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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第四章

【第四章 “籠の中の鳥”の巻】

むかしむかしあるところに、大きな大きな人間の国がありました。

資源や物資も豊かで、この世界の中でも、一二を争うほどの大きな国として、栄華を極めていました。

この国を治める王は、国民の幸せを第一に考える立派な人物で、国民からの信頼も厚く、王妃は決して前に出ようとはせず、陰ながら王をサポートし、王妃はそれはそれは美しく、教養も兼ね備えるまさに、才色兼備の素敵な女性でした。

王女は王と王妃に、一人娘として大事に扱われすぎて、自由が欲しいと思うこともありましたが、それ以外は、何不自由なく、幸せな毎日を送っていたのでした。

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最近、国中でのもっぱらの話題は、やはり、鬼の暗躍でした。

国民たちは、不安や恐怖を口々に発する様になり、国始まって以来の不穏な空気が全体に漂い始めていました。

「このままでは国民の不安は募るばかりだ…。」

王はこの国の軍事力は強力で、鬼とはいえ、ちょっとやそっとでは落とされる心配はないと確信していました。
しかし、王が一番気にしていたのは

“鬼に攻められること”

ではなく

“不穏な群集心理が広まっていくこと”

でした。

群衆心理が高まっていくにつれて、徐々に王の不安も募って行くのでした。

「…。何か策を講じないと…。」

王は眠れぬ夜を過ごしているのでした。


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そんな不安を抱えている中、国ではある噂が聞こえ始めます。それは、どこからともなく現れて、その人の未来を必ず言い当てるという、占い師がいるという話です。

王も、もちろんその噂を耳にしています。普段は占いなどという実態のないものを毛嫌いしていた王ですが、今は良い考えが思い浮かばず、藁にもすがりたい状況です。

「皆のものっ!大至急、国で噂の占い師を、この場に連れて参れっ!!!」

王は兵士を集め、そう命令を下すのでした。

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一週間後

一人の兵士が占い師を見つけ出したとの報告があり、王はたいそう喜びました。そして、今まさに占い師と初めて相見えようとしています。

占い師は頭巾付きの外套(フード付きのマント)を深々とかぶり、王の前に跪き、こう言うのでした。

「…王様…。いきなりで恐縮なのですが…。これから私は…、この国の未来を予言いたします…。できましたら王と二人きりでお話ししたいのですが…。」

それを聞いた王は、兵士に部屋を出て、二人きりにさせる様に命じました。

「…王様…。…とても申し上げにくいのですが…。このままでは…、この国は、鬼によって滅ぼされてしまいます…。」

「なっ!?!?」

王は、占い師のいきなりの発言に憤慨し言うのでした。

「我が前でその様なことを申すということは、何か証拠があっての発言であろうなっ!?」

占い師は続けます。

「それでは王様の未来をひとつ…、占って差し上げましょう…。私の両の目を、しっかりと見ていただけますか…?」

そう言うと、占い師はおもむろに、頭巾を下げて、王の目をじっと見つめました。

王も占い師の目をじっと見つめると、吸い込まれる様な不思議な感覚を覚えました…。

  
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その一件以降、王は様々な政策を国民に課していきます。

陽が落ちてからの外出禁止、剣や斧など包丁以外の刃物の禁止、今までの十倍近い税金の徴収…などなど、“鬼討伐のための準備”と言っては、無理難題を突きつけて行くのでした。

もちろん国民も、鬼の暗躍は知っていますから、不満はありながらもその指示に従っていました。しかしある時、一人の若者が異議を唱えました。

「鬼討伐のための準備とはいえ、これはあまりにも酷すぎるっ!王に直接俺達の気持ちを伝えてくるっ!!」

そう言うと若者は、単身お城に向かいました。

…次の日の朝…

国民が集まる広場の真ん中で…

見せしめとばかりに…

その若者の首を括った死体が風に揺れていました…。

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王の豹変ぶりを、一番気に病んでいたのは、他ならぬ一番近くで見ていた王妃と王女でした。

王妃はもともと、一歩下がって王を支えていたため、おかしいと思いながらも、別段何もせずにおろおろしていましたが、王女はひとつ、確信めいた考えを持っていました。

『お父様はどんな理由があっても、国民を傷つける様なことはしない…。絶対におかしい…。お父様が変わったのは、あの占い師に会った日から…。それからお父様は、占い師を側近につけて、ほとんどご自分のお部屋から出てこなくなった…。あの占い師がお父様を…。でもどうしたら…。』

王女もまたどうしていいかわかりませんでした。しかし、王女は美しい容姿に反して物凄く行動的で芯が強く、王と王妃が思うよりも“おてんば”な一面を持っております。

『考えていたって仕方がないっ!行動あるのみっ!!』

王女はそう決心するのでした。

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王女はそれからというもの、とにかく占い師の一挙手一投足をくまなく観察しました。そうするとひとつ、奇妙なことを発見します。それは、陽が落ちると必ず、周りを気にしながら、王の部屋に入り、一刻(2時間)ほど何やらやっている様なのです。

怪しく思った王女は意を決して、占い師が王の部屋で何をしているのか調べることにするのでした。

  
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次の日の夕刻

王女は王の部屋の屋根裏に身を潜めておりました。実は王女は子供の頃から、お手伝いの目を盗んでは、お城の中のいろいろな場所を冒険していたのです。

『ここは私しか知らない…。ここからなら下で何をしているかしっかり見える…。』

部屋からではわからない小さな覗き穴より、静かに様子を観察していると、扉が開き、占い師が入ってきました。すると、いつも深々とかぶっている頭巾を下ろし、苦しむ王の顔の前で何やらぶつぶつと独りごちています。よく耳をすますと、王女の耳に飛び込んできたのは、驚愕の言葉でした…。

「…お前は私の操り人形…。私のいうことしか聞かなくなぁる…。…国民を苦しめたくなぁる…。」

『…っ!?!!!』

王女は、確信しました!やはり王はこの占い師に操られていたのです!!

王女がどうすればいいか考えを巡らせているその時、

ガタッ!!!

思わず足を滑らせた王女は、大きな音を立ててしまいました。

「…っ!?!…だーれーだーーーっっ???」

…そう言ってこちらを見上げた占い師の目は…

“緑色”に怪しく光っていたのでした…。

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見つかってしまった王女は、意を決して部屋におりました。

占い師は頭巾を戻し、王女を見るとこういうのでした。

「…これはこれは…王女様ではありませんか…、私はてっきり…覗きが趣味のドブネズミかと思いましたよ…。」

『お父様に何をしていたのっ?!最近、お父様の様子がおかしかったのは、全部あなたの仕業だったんでしょうっ?!?おかしな術をかけてお父様を操っていたのを、私はこの目で見たんだからっ!?!!皆のものぉー!!』

王女は大きな声で兵士たちを呼びました。

…しかし…

兵士たちは一人も助けにはきません。

不敵な笑いを浮かべ、占い師は言うのでした。

「…無駄ですよ…。…私がこの国に来てから、少しずつ少しずつ、この国に呪いをかけさせてもらいました…。今頃あなたと王様以外は、みんな石になっているはずですよ…。」

『…なっ!???!』

「…あなたの母親ももちろん石にに変えておきました。この城の地下の牢獄でおやすみのはずです…。あなたは屋根裏なんかに隠れていたから無事だった様ですが…。」

『…なんてこと…?!?なんでこんなことを…。』

王女は怒りに震えました。占い師はさらに続けます。

「…なんで…??…そんなの決まっているじゃないですか…。この国を乗っ取るためですよ…。この国は軍事力が高く、ちょっとやそっとじゃ落ちそうもない…、こちらも相当な犠牲を覚悟しなきゃいけない…。だから私は考えました…。いかに犠牲を出さずにこの国を落とせるかと…。そこで私は、外が硬いなら内側から崩せばいいと思いつきました…。鬼の噂を流したのも…、占い師の噂を流したのも…、全ては私が王に近づくための作戦だったってわけです…。噂に踊らされ、気が滅入っていた王を操るのは、赤子の手をひねるよりも簡単でした…。」

占い師はさらに続けます。

「しかし……あなたに見られてしまったのは誤算でした…。生かしておくわけにはいきませんね…。…それでは王女様…、…死んでくださいっ!!」

王女は死を覚悟しました。

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バリーーーン!!!

その時でした!??!

部屋の窓ガラスが激しく割れ、そこから3人の若者が勢いよく飛び込んできました!!!

「…?!??…何やつ?!??」

不意を突かれた占い師は、飛び退き身構えました。

王女の前に立ち、戦闘態勢を敷いた三人の、真ん中の人間の侍が大きな声で言いました。

『我が名は桃太郎っ!!お共の猿と犬と共に、鬼の気配を察知し馳せ参じたっ!!!お前は鬼っ?!?!覚悟しろっ!!!』

『オイラたちがきたからにはもう安心だっ!!なっ?犬っ!!』

『……ふっ…。』

猿と犬は驚き、立ちすくんでいる王女に笑顔で話しかけました。

「…おやおや…。…これは不測の事態ですね…。私はどちらかというと戦闘を好みません…。この人数ですと多勢に無勢…。ここは引くとしますか…。」

占い師はそう言うと、ひらりと身を翻し、割れた窓枠の上に立ちました。

『逃げるなんて卑怯だぞっ!!!』

桃太郎はそう叫びました。

「…逃げるわけではありません…。私の目的はあくまでこの国を落とすこと…。国民が石になりこの国はもうおしまいです…。…そうそう、忘れていましたね…。王と王女が残っていた…。これでも食らいなさいっ!!!」

占い師はそう言うと、王と王女に向かって怪しげな術を見舞うのでした。

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……、

…………っ、

………おっ……

………………お……いっ………

『おいっ!!しっかりしろっ!!!』

王女は気がつくと、猿に抱き抱えられていました。

『気がついたかっ??』

占い師の怪しげな術を受けた王女でしたが、どうやら石にはならなかった様です。

『そうだっ??!お父様はっ?!!?』

玉座を見ると、そこには猫が一匹座っていました。不思議に思っていると、王女自身、なんだか体が思う様に動かない気がします。

恐る恐る鏡を覗き込んでみると…

そこには鳥の羽が無数につき、半人半鳥になった自分の姿が映っていました。

『鬼の術が迫ったときに、急いでキミを庇ったんだけど、少しだけ術を受けてしまって…。王様は遠くにいたので助けられず、まともに受けてしまった…。この術は人を動物に変える術なんだと思う…。』

桃太郎はそう説明しました。

王女はたいそう驚きましたが、すぐに桃太郎に問うのでした。

『お父様やお母さま…、国民の皆を戻す方法はないのでしょうかっ??』

『術や呪いは、掛けた本人…あの緑の鬼を倒す以外に解く方法はないっ…。』

桃太郎は苦虫を噛み潰したように言いました。それを聞いた王女は懇願する様に言うのでした。

『…桃太郎さん、猿さん、犬さん…。先ほどあなた方は、鬼を退治する旅に出ているとおっしゃいました…。ぜひ私もお供させてはくれないでしょうかっ??私は皆を鬼の呪いから救いたいのですっ!!!』

『…ねえちゃん…、気持ちはわかるけど…、この旅は女のあんたにゃ荷が重すぎるんじゃないかっ??』

猿は言うのでした。

………。


『……これでもっ!?!?』

…………。

身を翻した王女の手には、猿が背中に背負っていた、如意棒が握られていました。

『…?!?あっ?!?…いつの間にっ?!?』

王女はすました笑顔で桃太郎を見ました。桃太郎は頷いて言うのでした。

『猿っ!犬っ!!決まりだなっ!!君っ?!名前はっ??』

『…きじ…、私の名前は“雉”よっ!!!』

“雉”は元気よく答えたのでした。

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雉、桃太郎、猿、犬は、猫になった王を介抱し、石になってしまった地下室の王妃、国民たちを、雨風が凌げる安全な場所に移動しました。

その間も、雉は明るく振る舞い率先して動いてました。皆に心配をかけぬ様、あえて気丈に振る舞っていたのですが、ふと一人になった時に、先ほどまで我慢していた不安や寂しさが一気に押し寄せてきました。

『…お父様…お母様…。なんで私だけこんな姿に…。…いきなりこんな重圧…、城の外に出るなんて…、ひとりで背負い切れないよ…。』

雉は今まで、王と王妃にどれだけ精神的に支えられていたかを知ったのです。一人咽び泣く雉は、自分の肩に、暖かい温もりを感じました。振り返ってみると、そこには笑顔とも泣き顔とも取れる顔をした桃太郎が立っていました。

『…雉。僕も猿も犬も、それぞれがそれぞれ、いろいろなものを背負いながらこの旅を続けている…。ひとりでできることは限られているけど、協力すれば、嬉しいこと、楽しいことは二倍三倍に…。辛いこと、悲しいことは二分の一、三分の一に…。ひとりで背負い込むことはないっ!だって雉には、俺らがついてるっ!!仲間がいるじゃないかっ!!!』

そう言うと、おもむろにきびだんごを雉に差し出しました。

『…これは…??』

『これは、僕の育ての親であるおじいさんとおばあさんからもらったきびだんごだっ。寂しい気持ちや不安な気持ちが吹っ飛ぶくらいに美味しいぞっ!!』

雉はきびだんごを一口食べました。不思議と不安は消え、寂しさも和らいできました。

『…ありがとう。これを作ったおじいさん、おばあさんの優しさがつまってる、日本一のきびだんごだねっ!…桃太郎…これからもよろしくっ!!!。』

雉はお城を見上げて心の中で思うのでした。

『…お父様…お母様…。私は決してひとりじゃない…。正直怖い部分もある…。でも…私には仲間がいるっ。絶対に乗り越えてみせるからね…。』

かくして雉は、両親と国民の呪いを解くため、桃太郎と猿と犬と共に、長く険しい鬼退治の旅に向かうのでした。

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