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伝記?音楽ドラマ?サスペンス?ホラー?どれも通り越してもはやコメディでは? 「TAR」は『ケイト・ブランシェット』劇場が圧巻のカテゴライズ不可映画!

先日、この映画を観てきました。

「TAR」

あらすじ等はこちら

今年のアカデミー賞で6部門ノミネートされた映画です。この映画はなんといっても予告から、

どう見てもオーケストラの最高指揮者!しかもカッコよい!そして「圧!」って感じのオーラがガンガンに感じられてワクワクしました。

と同時に、予告を観ても何の映画なのかイマイチ分からず。かなりダーク感はあるものの、音楽についての映画なのか、伝記なのか、ホラーなのか謎な感じで。
「前情報なしに観た方がよい」という感想をみかけたので、本当に予告と簡単なあらすじ、そして

監督がトッド・フィールドというぐらいしか知らずに観に行きました。彼については感想で少し触れますね。

そして実際に映画を観終わって「なるほど!」と思いました。これは「確かに予告を作るのがとても難しい内容だな」と。
ネタバレに慎重になるのが分かるし、「観る人によってかなり感想が変わる映画なのでは?」と感じます。

というわけで、私もこの映画について感じた事を書いてみたいと思います。

※ここから先は思いっきりネタバレしてますので、結末をお知りになりたくない方はご注意下さい。

(私、このシーン好きです笑)


先に言うと、たぶん私みたいな感想や意見の人は少数かもしれないです。ただ

面白いのは間違いない!


特に映画ファン、よく映画観る人はハマりやすいのではないかな、と思いました。

この映画はすでにたくさん批評や考察がアップされていて、それをいくつか読めば読むほど「観る人によって受け取り方や感覚が変わる映画だ」と分かります。

その「どう感じたか」を共有するのが面白いと思うので、自身が感じたことをそのまま書いていきます(いつもだけど)。

まずはタイトルにも書きましたがこの映画はなんといっても

ケイト・ブランシェットがほんとすごい!

この感想は満場一致だと思います。私が凄いと思った一番大きなポイントは、

本当にトップ・オーケストラの指揮者に見える!!

私の勝手なイメージですが、「指揮者って演じるの本当に大変なんじゃないか」と思ってて。ただオーケストラの前に立って、それらしく手を振ったりしたところで絶対そんな風に見えない、というか役者でも演じるのが本当に難しいのでは?と思います。
以前に何かの音楽系映画で(タイトルは言いません)、指揮者を観た時に身振り手振りが全然指揮者に見えなくて興ざめしちゃった経験を思い出しました。

楽器の演奏者や歌い手などを演じるのとは全然違うと思うのです。それはそれで大変だと思いますが、楽器や歌に頼れない、でも「誰よりも音楽を把握している役にしなければいけない」ですよね。でも、オーケストラのシーンでも何の違和感もないどころかケイトの場合は

天才に見える!!

もちろんそのシーンに至るまでのいろんな場面の積み重ねで「天才なんだ」と観客に植え付けもされていって、

冒頭に、ケイト演じるリディア・ターが敷居の高そうなホールで著書の出版に向けてかなんかで公開インタビューに応じるシーンがあります。そこで、「ターがいかに凄い経歴の持ち主か、これから取り組むマーラーの5番の公開録音がいかに凄い事か」を司会の男性の紹介と本人の話で植え付けられます。そこでのターがまあ偉そう!!(笑)

まさに「天才」とか言われるタイプによくいる人柄感で、語ってる事も私には分かるような分かんないような(笑)。「偉い人の話」って感じで。
その中で「オーケストラの指揮は時間を自分が操らなきゃいけない」みたいな話が印象的でした。(っていうか『自分がオーケストラ操ってんだよ』って言いたいのかな、って思った)この話はラストに繋がる伏線だったんだと最後まで観て思いました。

でもやっぱりオーケストラのシーンで先に書いたように不自然さでメッキがはがれちゃう可能性もあると思うのですが、ケイト・ブランシェットについては全くそんな心配無し!私にはまずその部分に「参りました!!」って言いたくなるような(笑)。本当にすごいですね。ケイトは実際にオーケストラでマーラーの5番を指揮し録音したらしいです。凄すぎるな。

もちろん、オーケストラ以外のシーンもケイトの演技が凄くって。役になりきっててターにしか見えなくて。「ケイト・ブランシェット本人もこういう人なんじゃ?」って錯覚させるくらい。なんかターが民族音楽研究のために実際に5年その民族と生活を共にするみたいなエピソードがあるんですけど、「ケイト・ブランシェットも必要なら本当にそういうことしちゃうんじゃないかな」みたいな(笑)。いや、錯覚ですよ!

このケイト・ブランシェットの演技を堪能するだけでも、この映画を観る価値がある!!凄く変な言い方かもしれないですけど、「あのケイトに本気の演技をさせた」(いやいつも本気だと思うけど)みたいな感じが映画全体から漂っていたと思います!

ではこの映画について、私自身はどう感じたかというとまずターについては見始めからすでに

全然共感できない

ターの人間性がやっぱり、私的にはよろしくないんですよ。「良い」っていう人少ないと思う(思いたい)んですけど。
もちろん仕事は天才的なんだと思うし、才能的には素晴らしいんだと思うのですが。決定的に嫌な人間性のシーンを使ってはないんですけど、付き人の女性フランチェスカ、ジュリアードで自身が講師をしている授業の学生、自身のライフパートナーであるオーケストラの第一バイオリンの女性シャロン、気に入らない副指揮者、自身の愛する養女を学校でいじめている女の子、新たにオーケストラに加入し気に入ったチェリストのオルガ、そして、、、。
一人ひとりに対して語っていくとながーくなるのでアレですが、ターのなんともかなり嫌なタイプの人間性をじわじわと観せられていきます。

とはいえ、

その一つ一つの描写をケイト・ブランシェットの演技からスタイリッシュでカリスマ的な魅力があって、なんか許せてしまう的な感じで演じていて。

そこに、

ターが職業病のような雑音に過敏なところや、日々の仕事のストレスなどで本人の妄想なのかホラーみたいな悪夢を見たり夜中に自宅で起こされたり。

しまいには顔にこんなケガまでしたりね!あのシーンは怖かったです。この顔で普通に仕事してて、それは別の意味で怖かったけど(笑)

というわけで、「天才なのかもしれないがこれはどうなのよ」的なターに「うーん」と思いながら観ていたのですが、

かつての教え子クリスタが自殺をしてしまい、その理由から業界内でも少しずつターの現在の位置に疑問が持たれるようになり、フランチェスカが副指揮者になれなかったことで逃げるようにターの元を離れた直後にジュリアードで学生をやり込めた時の映像が編集されSNSにアップされたあたりで、ターに対するいわゆる「キャンセル」が始まります。これが

めっちゃあっという間!

このスピーディーさはおそらく意図的だと思うのですが。シャロンともすぐに決裂し養女とも会えなくなり、仕事も家族もほぼ一瞬にして失われていくター。

自分のキャリアにとって大切だったマーラーの5番を代わりに指揮することになった(ちょっと小バカにしていた)友人のエリオット(マーク・ストロングの髪型最高(笑))に、なんとオーケストラの演奏中に体当たりアタック!このシーン、めちゃくちゃびっくりしました!しばらくオーケストラ見るたびに思い出しちゃいいそう(笑)


で、ここからが個人的に

この映画が好きになった!(笑)


失意のどん底に落ちた彼女は、実家に戻って自分の原点だった部屋で観るあるビデオ(VHS⁉︎)映像で涙します。それは子供の頃から観ていたであろう、ある音楽家がクラシックの講義をする映像のビデオテープ。
そこでターとは「こりゃ相いれなかっただろうな」という家族からまた離れて、新しいエージェント(偉そうだった時代の大手エージェントのピシッとした感じじゃなくて、小さい会社の軽い感じの若い男性なのが上手い)から仕事をもらって再出発をします。その地はフィリピン(かな?)。

そこで、現地のオーケストラと仕事をするらしく準備を重ねるター。滞在しているホテルで疲れたため「いいマッサージ屋はないか」とフロントに聞いて紹介された店に行くと、そこは高級風俗店で「5番」の少女を勧められます。そのことに気づいたターは店を出て嘔吐します。自分がベルリン時代にやってたことの象徴的な描写なのですが、本人は気づいてるのかいないのか。

で、ラストに彼女は舞台に立ちます。ベルリンの時とは違い、真っ暗な舞台の上で白すぎるスポットライトがたかれて映るター、その後ろにスクリーンが下りてきます。「ん?スクリーン?」。この時点でベルリンとは結構違うオーケストラだと分かるのですが、ターがスタッフからヘッドセットを渡されて指揮を始めると観客が映るのですが、その観客が

みんなコスプレしてる!!!

そのシーンを観た瞬間

私はこの映画が

大好きになった!!!(笑)

途中までずーっとイラっとしてたんです、ターに。それが「それが正しい!!がんばれー!!」って気持ちになりました。

この映画はモンハン(「モンスターハンター」というゲーム)のオーケストラだったみたいなんですけど、今ってこういうゲームやアニメ、映画のオーケストラ上映がすごく人気ですよね。
私もとある映画のオーケストラ上映に行ったことあるんですけど、めっちゃ感動しました(一緒にしていいのか分かんないが)。私はそういうタイプの人間なんです。

で、「キャンセルカルチャー」って自分でちゃんと概要を把握できているかも分からないし、はっきり言ってめちゃくちゃ苦手な言葉なので、そのことについて話す気は全然ないですし「天才かもしんないけど凄い嫌な人間で、そういう人間が自分は許せるか」と聞かれると私はそんなに好きじゃなくて(笑)。
だから、この映画も最初は「自分とは合わない映画かもな~」と若干思いながら観ていたのですが、このラストは自分にとって逆転大ホームラン映画でした。

大きな権威的なものからや自分の思い描いた音楽やオーケストラからは離れてしまうかもしれないですが、その事こそ「いい再出発になるんじゃないですか」と。映画の冒頭で時間やらオーケストラについて「私が支配してる」的な事を語っていたターが、ヘッドセットをつけてコントロールされる側に周りながら、でもその場で真面目に音楽に取り組む姿も、今までとはギャップがあるので可笑しみがありながらも「オーケストラで仕事ができる」という部分では変わってないところも。「フィリピンに来て良かったんじゃね?」と希望のあるラストに私には見えました。

これは「観る人によってはとんでもない陥落に見えるんだろうな」と。

この映画を観ていて、私が思い出したのは

この「ゴーンガール」でした。デビッド・フィンチャーの映画ですね。

この映画もすっごく映像も綺麗で、シーンの構成も演技も見応えあるサスペンスではあるんですけど、途中から私にはある意味コメディみたいで。「凄く壮大ではた迷惑な夫婦喧嘩」を見せられて呆れちゃうような(笑)。でも人によってはとても怖いんではないでしょうか。で、現代のメディアの浅はかさも描いていたり。自分の中では感覚が近い映画でした。

(怖いけど笑っちゃうこのシーン)


この映画の監督は、先にも書いたトッド・フィールド。2000年代に「イン・ザ・ベッドルーム」と「リトル・チルドレン」という映画で若くして好評を得ていた監督で、それら2作は「TAR」のような複雑な映画でなくて、もうちょとストレートな人間ドラマだったような気がするのですが。ただ確かにどちらの映画もラストは何とも言えない後味の映画だった記憶が。私は「TAR」を観て「トッド・フィールド、そっち行ったか~」(どっちだよ)みたいな気持ちになりましたが(笑)。

この映画は当初は主人公に男性を想定して脚本を書いていったものの、ケイト・ブランシェットに当て書きに切り替わったみたいで、それは「トッドにとっては嬉しかったんじゃないかな」と思います。もっと面白い映画にできる可能性が広がったんではないかと。私は「ケイト・ブランシェットじゃなかったら、こんなに面白い映画になってなかったんじゃないかな」と思いました。また新たな作品を作るのかはわかりませんが、才能ある監督なのでぜひ撮ってほしいです!

こういう考察系の映画は私は得意ではないので(深く考えるの苦手)、自分の心のままに受け止めちゃうんですけど、この映画のいろいろ曖昧に描いている部分やいろんな伏線を「どう解釈するか」を考えるのが好きな人にはとっても面白い映画だと思います。


気になった方はぜひ観てみてください♪

おまけ

一応これ聴きながらレビューを書きました。


おまけ2

この子は実際チェリストらしいです。キャスティングも面白い映画でした♪


おまけ3

あと1点言えるとすれば、もうちょっと映画前半を短くしていただいても良かったかと。150分は長すぎない?後半がめっちゃスピーディーだったので。これ笑えたマーク・ストロングの髪型(笑)

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