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ゲーム屋人生へのレクイエム 90話

ついにというかようやく会社の閉鎖が決まったけど閉鎖の経費はもらえなかったころのおはなし

「ついに閉鎖になりましたね」

「この時は正直言ってほっとしたんだよ。会社の資金繰りやら仕事が取れないことやらで頭も胃も痛む日が続いていたからね。失業の恐怖よりも苦しみから解放された喜びのほうが勝っていたんだよ。

それで閉鎖が決まってすぐに伝手を頼って弁護士を紹介してもらって会いに行ったんだ」

「弁護士に何を相談したんですか?」

「それは会社をどう閉鎖するかという相談だよ。会社を潰すなんて初めての経験だし、周りに意見を聞く人もいないでしょ。会社潰したことのある人なんてそうそういるもんじゃないし。それで倒産専門の弁護を紹介してもらったんだよ」

「倒産専門の弁護士?初めて聞きました」

「そうだろう。俺も初めて知った。アメリカには離婚、交通事故、会社訴訟、移民、個人破産などなど専門の弁護士がいるんだ。それぞれ法律が違うから専門の弁護士が必要になる。その中に企業倒産専門の弁護士もいるんだ。

それで弁護士にどうやって会社を潰すべきかを聞いたんだ。すると二通りの方法があると言われた。

ひとつは何もしないで夜逃げする。この場合は弁護士は必要ない。債権者から訴えられるかもしれないけど債務がある会社を訴えるので俺個人が訴えられることはない。

もうひとつは合法的に会社を整理する。つまり破産させるということだ。この場合は弁護士が必要になる。法的な手続きを弁護士にお願いすることになるからね」

「それでどっちにしたんですか?」

「合法的に整理することにした。後ろめたい気持ちで逃げるのは何か間違っているし誠意に反するからな。でも問題があった」

「どんな問題なんです?」

「手持ち資金では弁護士費用代が足らなかったんだ」

「本社が経費を送ってこないからですね」

「そうだ。それでダメもとで弁護士費用を値切ってみたら安くしてくれた」

「弁護士費用って値切れるんですね」

「言ってみるもんだと思ったよ。値切る代わりに会社にある机やら棚やらパソコンやら一切合切を弁護士に差し上げると申し出たんだよ。するとイエスともノーとも言えないって言うんだ。そしてあとでこの番号に電話してくれって言われてメモをもらったんだ」

「何か怪しいですね」

「俺もそう思ったんだけどとにかく弁護士事務所を出てからしばらくしてその番号に電話した。すると男のひとが電話に出て弁護士から話は聞いているって言うのよ。それでその人は掃除屋だと名乗ったんだ」

「掃除屋?会社をきれいにしてくれるんですか?」

「まあ、そういうことだ。潰れた会社や店舗から机やら何やら金になりそうなものを全部引き取る商売だ。それで弁護士がはっきりイエス、ノーって言わなかった理由がわかったんだ」

「どういうことです?」

「弁護士はあくまでも債権の処理をして会社を合法的につぶすのが仕事だ。掃除屋は会社にある備品を弁護士の知らないところで現金化する。弁護士と掃除屋は一切関係ない。

しかしこれは建前だ。実際にはつながっている。備品を売ってできた現金のいくらかは弁護士の手に渡る。弁護士は債権を処理するのに本当ならこの備品を売った現金を使わなければならないけどそれはしたくない。だから俺たちに掃除屋に連絡させて証拠を残さないようにしたと考えたんだ」

「これまたすごいはなしですね」

「うむ。弁護士は怖いと思ったよ」

続く

フィクションです

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