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ゲーム屋人生へのレクイエム 95

突然の生産中止を求めるMの本音をOの本部長にそっと伝えたころのおはなし

「やっぱり何か裏があるんですか?突然生産中止しろっていう意味には?」

「あると思った。いくつか納得できないところがあったんだよ。

まずこのゲーム機械はくじを引いて景品をあてるというものだった。景品は外から見えるようになっていて遊ぶ人の射幸心をあおるようにできている。

この景品を目当てに客は遊ぶわけだから、どこに設置された機械でどんな景品を入れるかということは収入に大きな影響があることになるな。

例えばだ、大人が多いバーに機械を設置するとしよう。機械に入れる景品は大人でも欲しがりそうなものを入れなければならない。腕時計、USBメモリー、ワイヤレスイヤフォンとかがこのロケでは向いている。

映画館に機械を設置する場合はぬいぐるみ、子供用のサングラス、携帯音楽プレイヤーなど子供から大人までが欲しがりそうな景品を入れるべきだ。

ロケを考えないで無秩序に景品を入れたらどうなると思う?」

「ゲームを遊ぼうとは思わないからお金が入りませんね」

「そう。だから収入はゲームの出来もあるけど何を景品にするかで収入は全く違う結果が出る。Mの副社長が言う収益が悪いというのは運営の方法にも問題があるはずと思ったんだ。

もうひとつ怪しいと思ったのはこの時期にMでも景品を払い出すゲームの販売を始めたということだ」

「Oのゲームが商売の邪魔になったんですね?」

「そうだと思った。同じロケに似たようなゲームを並べたら収益は半分になってしまいかねない。どっちかを設置するなら自分の会社の製品を選ぶだろう」

「確かに何か裏がありそうですね」

「そう。Mの主張の根拠は弱い。客観的なデータに基づいていない。それでこの事を本部長に伝えたんだ。そしてこの契約を根本から否定することを俺の意見として伝えたんだよ」

「否定したんですか?」

「そう。同業の商売敵が一方的に有利な条件で契約することはおかしいって。Mはゲーム機をOから購入するけど全部買い取る義務はない。

ということはいらないって思ったらそこで買う事をいつでもやめることができたんだ。OはMが買ってくれることを期待して生産するけど、もしMがいらないって言ってきたときの対応を全く考えていなかったんだ。そんなある一方にだけ有利な契約はそもそも間違っているって言ったんだよ」

「本部長から反応はあったんですか?」

「本部長からは何も無かった。けれど海外営業部長や生産部長からメールが届いた」

「何てメールには書いてあったんですか?」

「この契約を破棄する。生産は全て中止に決まったって」

「本部長からの指示ですね」

「そう思った。俺の意見を聞いて決断したんだろうなって思った。契約は平等にリスクを負担しないと破綻するってことだよ。起きて欲しくないことは起きないと信じ込む。でも現実はそんなことはない。あらゆる可能性を考えてみる事が大事なんだよ」

続く

フィクションです


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