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ゲーム屋人生へのレクイエム 46話


長期の仕事を引き受けて無事任務完遂。入社面接のお誘いを受けたけど日本帰国のお金がなかったころのはなし

「俺はこのころ毎日、昼夜カップ焼きそばを食ってたぞ」

「そんなに焼きそばが好きなんですか?」

「違うよ、いや違わない。好きだ、大好きだ。しかし理由は違う。ド貧乏だったからだ。家賃はギリギリなんとか払うことができたけど、日本に帰る飛行機代は逆立ちしても出てこない。さてどうしようと考えてたら、航空会社に勤める友達が以前はなしをしてたコンパニオンチケットのことを思い出したのよ」

「なんですかそのコンパニオンチケットって?」

「航空会社が社員の福利厚生の一環で配る飛行機のタダチケットのことだよ。勤続年数によってもらえる数が変わるけど年に何枚かもらえるって聞いてたのよ。しかもそれは他人に譲渡できるって。それでその友達に連絡したら、その友達はもう航空会社を辞めてたのよ。けどかつての同僚に聞いてみるって言ってくれてね」

「もらえたんですか?」

「もらえた。正確に言えば200ドルで買った」

「片道ですか?」

「往復だよ」

「やす!めちゃくちゃ安いですね」

「いくらで売るかは持ち主次第だからね。持ち主はとてもいい人で困ってるならって安く売ってくれたのよ。これで日本に帰国する準備ができたのよ」

「いよいよこれで面接ですね」

「と、いきたいところだがひとつ問題があるのよ。このチケット、すごいお得でしょ。でもひとつ大きな問題があるのよ」

「何も問題なさそうですけど」

「それは、このチケットが使えるのは乗りたい便に空席があるときに限る。という条件があるということだ。社員の福利厚生のチケットだけど、お客さんを差し置いて社員が飛行機に乗ることは許されないのだよ。もし空席がなければ次の便。次の便に空席がなければまた次の便というふうに確実にこの日に日本に到着という保証がないのよ」

「乗れるときに乗って帰ればいいじゃないですか」

「遊びに行くならそれでもいいけど、入社面接だよ。日付は決まってるからそれに間に合わないと面接はキャンセル。就職もキャンセル。人生もキャンセル」

「人生キャンセルまでは行き過ぎでしょう」

「そうか。それで、面接に間に合わないと困るから三日前の便から挑戦することにしてね。そうそう。もうひとつこのチケット使用条件があってね、ドレスコードが決まってるのよ」

「ドレスコードってなんですか?」

「服装のルールだよ。この場合、襟付きのシャツとジャケット着用。ジーパン禁止。短パン禁止。運動靴禁止。まあ早く言えばスーツ着てないと飛行機に乗せてもらえないのよ」

「厳しいですね。なんでそうなってるんでしょうね」

「お客さんの前では正装しなさいということだと思うよ。だから俺もスーツを着て空港に向かったのよ。そして一日目。空席がひとつあったけど出発ギリギリお客さんが乗って俺は乗れず。二日目。予約は満席だけどひょっとしたらドタキャンがあるかもってまた出発ギリギリまで待ってキャンセル出なくてまた乗れず」

「厳しいですねえ」

「往復200ドルのチケットだから仕方がない。そしてあとがない三日目。これで乗れないと面接キャンセルだ」

「乗れたんですか?」

「最後の席に滑り込みセーフ。しかもこれがビジネスクラス!」

「え!?ビジネスクラス?」

「そう。このチケット、空きがあればファーストクラスにだって乗ることができる魔法のチケット。ハイリスクハイリターンチケットだ。そうして悠々とビジネスクラスに乗ったのよ。200ドルでビジネスクラスだって感動しててさ、飯の時間になって配られたのはエコノミークラスのごはんで、あれ?ってなって、CAさんに聞いたのよ。これ間違ってますよって。そしたら、間違ってないわよ。あんたコンパニオンチケットで乗ってるでしょ。あんたが食べるのはエコノミーよ。って半笑いで言われてね。やっぱり200ドルだよね、って納得したのよ」

「ですよね」

「欲張ってはいけないのよ」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。



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