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ゲーム屋人生へのレクイエム 34話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。ブローカーの商売が四面楚歌状態になったときのおはなし

「ブラジル行ってこい」


「またですか。何回ブラジルに行くんですか」


「だってしょうがないだろう。行けって言われるんだから。

悪い予感が的中してね、ブラジルの子会社が崩壊しててさ。ここにきてようやく社長が話をしてくれてね。4人ではじめたパートナーシップだったけど、ひとり、またひとりって抜けて行ってさ。結局社長一人が残って、出資したのも社長一人であとは誰も出資していないって。5人いた社員も社長ともう一人の社員を残してクビにして、運転資金も底をついて事務所の家賃も何か月も滞納しているってさ」


「わあ。大変なことになってましたね」


「おう。えらいこっちゃだよ。それで現金で一万ドル渡されて、ブラジルは俺の担当だから、俺に何とかして来いって言ってね。俺いつから担当になったんだ?何とかして来いって、どうすりゃいいの?って感じだったよ」


「それでブラジル行ったんですか?」


「行った。子会社の社長に会って話をしたんだよ。一体何があったんですかって。この人はブラジルのパートナーの紹介で子会社の社長になったんだけれども、子会社ができてあれよあれよという間にパートナーが辞めていってついにはアメリカの社長一人になったって言うんだよ」


「どうしてそうなったんですかね」


「このビジネスパートナーの契約書を見せて欲しいって聞いたら、契約書はない、すべて口約束だけだって言ってね。びっくりだよ。それで俺は思ったんだよ。これはきっと社長はブラジルのパートナー達にはめられたんだって。大損させてブラジルから追い出そうとしている。そして今、社長はかなりの金額を投資して失敗している。ああ、やられたんだ。まんまとはめられたんだってさ」


「ひどいはなしですね。どうしてそんなことをしたんでしょうね」


「社長は彼らからすれば、邪魔者だったんだと思うよ。彼らの市場を荒らすかもしれない社長を何とかして追い出したい。そこでうまい話をちらつかせて金を出させて、引き返せないところまで来て、さっと手を引いた。そして社長は八方ふさがりになってブラジルから逃げるしかない。証拠は無いけど俺はこれが真相だったと思うよ。

子会社の社長も大変なことに巻き込まれてしまって気の毒だった。アメリカの社長からは会社の金を横領したと疑われてさ。クビにした社員からは未払いの給料を払えって脅迫みたいな催促されてね。事務所の家賃、電話代に水道光熱費、全部滞納しててさ。もうメチャクチャだったよ。とても社長から渡された一万ドルなんかじゃどうにもならない額だったのよ。

それで、まだクビにしていない社員ひとりの未払いの給与をその一万ドルから払ってね、子会社の社長にも給与払いますって言ったら、横領の疑いをかけられても自分はまだこの会社を守っている、金はいらないって言って、会社の経理の帳簿を調べてくれ、会社の金を横領していないことを調べてアメリカの社長に報告してくれって。それで調べたけどおかしな収支は何もなかった。とても正確にきっちりとした帳簿だったよ。

この子会社の社長も被害者だ、アメリカの社長はきっと騙されたに違いない、本当に気の毒だと思ったけど、この現実は悲しんでいるだけでは何も解決しない、こりゃ困った、ってなってね」


「それからどうなったんですか?」


「とりあえず子会社の社長とブラジル風焼き鳥屋に呑みに行った」


「その状況で、ですか?」


「へこんでもしょうがないだろう。それにこのブラジル風焼き鳥、シュハスキーニョって言ってうまいのよ。それとカイピリーニャっていうカクテル。これが相性バッチリなのよ」


「ラテン系ですねえ」


「うむ。きっとどこかにブラジル人の血が入っているのだろう」


続く


*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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