ゲーム屋人生へのレクイエム 57話
転職することはいいことだと熱弁をふるって小説のストーリーが全然進まなかった頃のおはなし
「前回もそうでしたけど、最近ストーリー展開が遅いんじゃないですか?すぐ話が脱線するし」
「そ、そんなことないだろう。ちゃんと進んでるじゃないか」
「本編1割、脱線9割くらいの内容ですよ。サクサク話を進めましょうよ。ひょっとしてスキとかPVばかり気にしてストーリーに集中してないんじゃないですか?」
「そんなことはない。ないとおもう。ないんじゃないかな。ちょっとはあったかも」
「ほら。やっぱり。本編とのバランスを考えて話を進めてくださいよ」
「すみません。では気を取り直して本編再開」
「ある時、電話がかかってきてね。相手は昔勤めてた会社の先輩だったのよ。ほら13話で海外出向を進めてくれた。
その先輩の会社に入社しようとしたら何者かに妨害されて断念したときの話しもあったでしょ。40話と41話。
その先輩から先輩の勤める会社の社長が俺に会いたいって言ってるよって聞かされたんだよ。これはひょっとして転職のお誘いですかって聞いたら、とにかく一度会って欲しいとだけ言われてね。それで晩御飯を一緒に食べることになったのよ。会って話をしたら予想どおりで転職のお誘いだったよ。事業拡大で人を探しているが、生産、品質管理、カスタマーサービスと三拍子揃ってこなせる人材は君しかいない。就労ビザも会社が責任をもって取る。給与も君が納得できる額を払う。役職はプロダクションディレクターでどうだって」
「で、どうしたんですか?前回ドタキャンされてますけどお誘いを受けたんですか?」
「いつぞやは入社直前でキャンセルされましたが、今回は大丈夫なんですね?って聞いたら、あの時は事情があったとはいえ申し訳なかった。今回は責任を持って君の入社を保証する。と言ってくれたのよ。それで地獄で仏、渡りに船だ。もちろん誘いを受けた。それで翌日Rに出社して、2週間後に退職しますって副社長に言ったのよ。後任にはアシスタントマネージャを指名してね。すると副社長も会社のお先真っ暗の事情は百も承知だから、「わかった」って引き留められること無く退職したのよ」
「動きが速いですね」
「鉄は熱いうちに打て、寒いときはバナナで釘を打てというだろう」
「バナナの例えは全く意味が分かりませんけど。それで事業部長にはお話ししたんですか?」
「ああ。話した。事業部長に伝えるのは本当につらかった。この人との出会いでゴロゴロ失業生活から脱出できたんだからね。えっと40話」
「40話のリンクはすでに貼ってますよ」
「おお、そうだった。お先に失礼って感じで辞めてしまうのは本当に申し訳ないと思ったよ。事業部長は「しょうがないよ、こんな状況だからな、次の仕事も踏ん張れよ」と激励してくれたよ。でも事業部長も副社長も、みな同じ心境だったんじゃないかな。辞められるのなら辞めたいって。船は沈没直前だったからなあ」
「そのあと会社はどうなったんですか?」
「本社は外資系に売却して、その後どんどん規模を縮小して最終的には廃業した。子会社は俺が辞めて半年もしないうちに閉鎖になったよ」
「危機一髪でしたね」
「ああ、ほんと危機一髪だった。奇跡的なタイミングで転職のお誘いがあったもんだ。まるで小説みたいだった」
「小説です」
「あ、そうだった」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません
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