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ゲーム屋人生へのレクイエム 59話

働きやすい環境に転職できていいチームにも恵まれて仕事がはかどったころのおはなし
「飲み会が恋しいなあ。なんでもかんでも自粛自粛でストレスたまるなあ」

「どのくらい飲み会に参加してないんですか?」

「そうだな、最後に集まったのはパンデミック前の正月だから一年以上は飲み会やってない」

「パンデミックですか。もうそんなになるんですね」

「うむ。Kに転職したときもしょっちゅう飲み会があった。日本人多かったから毎週居酒屋に集まって騒いでいたな。俺が入社したからということで歓迎会をやってくれたことがあってね。社長以下日本人社員全員、そうね15人くらいいたかな。

酒も入って盛り上がったころに社長がこう言ったのよ「今日は無礼講だぞ。何を言っても構わない。会社の経営について意見や要望があったら言ってみろ」って。それで社長の隣にいた俺の先輩から意見を述べることになったんだけど、みんな「特にありません」とか「このまま行きましょう」とか、何も意見や要望を言わないのよ。やる気のあるいい空気の会社だと俺は感じていたから何か違和感があってね。それで俺の番が来て言ったのよ。

俺「業務用の商売がうまく行っているうちに新たな事業を始めませんか?」

社長「何だ。言ってみろ」

俺「家庭用ゲームの事業をやりませんか?これからまだまだ伸びる市場です。開発チームも現地にいるのはとてもいい強みです。私は前の会社で家庭用ゲームのプロジェクトをやっていましたから要領はわかります。業務用の事業で得た資金で新規ビジネスを立ち上げてはどうかと思います」

社長「・・・」

開発担当副社長「おい。自分が何を言っているのかわかっているのか」

俺「はい。わかっていますが」

開発担当副社長「家庭用のビジネスはとても難しいんだよ。君が考えているような単純なものじゃないんだぞ」

社長「考えが甘いんだよ!お前がわかったような口をきくのは10年早い!家庭用ゲームの話は今後二度とするな!わかったか!」

先輩「社長、申し訳ありませんでした。こいつには後で俺からよく言って聞かせます。おい、わかったな」

俺「なんなんですか。これ」

先輩「ささ、社長、話を変えましょう」

俺「ムスッ!」

俺の歓迎会は俺を歓迎してくれないまま終わったのよ。
そして、その後の先輩との会話だ。

俺「ひどいじゃないですか。無礼講って言ったのは社長でしょ。なんで俺が怒られなきゃならないんですか!」

先輩「お前は知らないだろうが、うちも昔家庭用ゲームを売ってたことがあるんだ。2タイトル販売したけどどちらも大失敗で大損して会社が傾きかけたんだ。だからうちで家庭用のはなしはタブーなんだ。お前に言ってなかったのは悪かった。そういうことだからこれからは気を付けて発言しろよ」

俺「じゃあ、無礼講とか言わなきゃいいじゃないですか。何を言ってもいいから無礼講じゃないんですか。納得できないですよ」

先輩「言いたいことはわかるが、とにかく家庭用ゲームのことは禁句だ」

納得できなくてね。家庭用ゲームの商売に失敗したのは必ず原因があるはずで、それを改善すればいいだけじゃないか。2タイトル失敗で会社が傾くような経営状況で新しいビジネスに手を出した社長のほうが考えが甘かったんじゃないのかって思ったのよ」

「ずるいですね。何でも言っていいっていったのに」

「この日から俺は社長が出席する飲み会には一切参加しないことにしたのよ。発言させてみんなの前で吊るしあげられるのは我慢ならないと思ったからね」

「そんなことしたら社長が怒るんじゃないですか?」

「うん。怒った。でも俺に直接は怒らない。先輩を怒る。あいつはなんなんだ。どうして飲み会にこないんだ。お前の教育が悪いからだ。といって社長は先輩を怒っていたと他の人から聞いた。それで先輩は業務命令だから社長参加のイベントには出席しろと言い始めたのよ。仕事終わって飲みに行くのが業務命令ってなんじゃそりゃだよね」

「勝手な命令ですね」

「Kに居た日本人は全員日本からの出向で日本の文化が強くてね。良くも悪くも。アメリカの空気に慣れた俺は勤務時間後まで上司に支配されるのは耐えられない事だったよ」

「ひどい話ですね」

「そうなんだ。思い出すと腹が立ってきた。いや違うな。腹が減ったぞ。なあタロー、この話の後で一緒にご飯を食べに行くぞ」

「お断りします」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません

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