【長編小説】ゲーム屋人生へのレクイエム 58話
リストラの恐怖から危機一髪で脱出して無事に転職できたころのおはなし
「これで4社目だぞ」
「何が4社目なんですか?」
「勤めたゲーム会社の数だよ。今度転職した会社、仮にKと呼ぼう。このKもRと同じくらいの規模の中堅のゲーム会社でね。スペースインベーダーをタイトーからライセンスを受けて作ってたこともあるまあまあ古い会社だったのよ。アメリカに子会社を作ったのは結構遅くて日系の大手ゲーム会社が規模を縮小したり撤退をはじめたころに進出したんだよ。この子会社はとても稀で現地に開発チームを持っててね。アメリカ市場に売れそうな商品開発を現地でやってたんだ。大手でもそこまでやってるところはコナミくらいだったんじゃないかな。でもそのコナミも規模縮小して開発チームは解散してしまったんだけどね。それでKは大手ビデオゲームメーカーが本気で相手にしないような市場をコツコツと開発して新しいビジネスモデルを作って大成功していたんだよ」
「どんなビジネスモデルなんですか?」
「それは一切ゲーセンを相手にしないというスタイルだ」
「ゲーセン相手にしないでどうやって商売するんですか?」
「ゲーセンはどんどん減っていずれ消滅するのは目に見えてたから、そこに頼っていては大手のゲーム会社のように撤退する羽目になるでしょ。それで目を付けたのはコインランドリー、映画館、ショッピングモールの片隅など人が集まりそうな場所で少数の機械で運営している業者相手の商売だ。売る機械はビデオゲームではなくて光るルーレットを決まった場所で止めて景品を出す商品だったのよ。日本でも子供相手にお菓子とか出てくる簡単なゲーム機があるでしょ。あんな感じ。こういったゲーセンではない市場はとても歴史が古いんだけど一か所当たりの規模はとても小さい。でもそのロケーションの数はとても多い。この小さいマーケットをコツコツあつめてデカい市場にしたのがこのKだったんだ。機械も売ったけど、思わぬ副産物があってね。客の要望でKが売る機械に入れる景品もセット販売したらこれもまた大当たり。機械に適した景品を選んで売るからお客は選んで買う手間が省けるって喜ばれたんだよ。それに加えてこの市場のお客は自動販売機とかガシャポンとか、安っぽいクレーンゲームとかも運営してて、常に景品を探していてね、それもまとめて売りますよって始めたらこれまた大成功。大手はこんな市場があることすら知らなかった。いわゆる隙間商売、英語ではniche market (ニッチマーケット)を見事成功させたんだ」
「いいところに目を付けましたね」
「うむ。本社に頼らないで自給自足で商売するって覚悟があったんだろうね。俺が入社した時もそんな空気が漂っていたよ。社員ひとりひとりが自分の会社の経営哲学を理解したうえで働いている空気があった。それで俺が配属されたのはプロダクション。製造部だ。先輩は製造担当副社長って肩書で、俺は製造部長。製造部って言っても所属する部員は俺を入れて4人。小さい部署だけどエキスパートが揃ってて仕事が早くてしかも正確。いちいちあれこれ指示しなくてもどんどん先回りしてやってくれてね。仕事が捗ってとても助かったよ」
「みんな優秀だったんですね」
「うむ。俺を筆頭にね」
「え?今何て言ったんですか?」
「いや、俺以外は。って言った」
「そうですよね」
「なんかムカつくなあ」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません
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