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公務員の辞め時

「公務員辞めたくなったことないですか?」
この間、OB訪問の時に尋ねられました。

大学を卒業して、もう、十数年経ちますが、未だに卒業生として、学生課が「話を聞きたいという公務員志望の学生がいる。」と声をかけてくれます。ありがたいことです。

その学生から、現在の仕事内容や、「なぜ公務員を志望したのか。」というアイスブレイク的な質問を受けた後に、冒頭の質問を聞かれました。

その時は、「ポジティブな面だけ伝えすぎて不安に思ったのかな。」として、「『辞めたい。』と思うほど、深刻な事態に陥ったことはない。」と、答えたのですが、自分は公務員を辞めたいと思ったことがあるのか、辞めるとすればどんなときか、掘り下げてみたくなりました。

1 公務員はどんな時に辞めるのか

以前に、若手公務員の退職でも書きましたが、公務員の退職は、一般企業に比べて多くはありませんが、若手公務員の退職は増えています。そして、自分の人生なので、より幸せになれると感じるのであれば、退職もありなのではとも思っています。

一方で、今のところ私は公務員を辞めようと思ったことがなく、「なぜ辞める人がいるのか?」と聞かれても、ずばっと答えられません。

そのため、もう一度、一般的に(?)公務員はどんな理由でやめるのか、調べてみると、国家公務員ですが、アンケート調査を行っています。内閣官房 第20回 女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会に掲載があります。

第20回女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会資料2抜粋

これによると、私と同じ30代男性は以下の順で、辞めたいと思っているようです。
①もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたい(69.5%)
②今後キャリアアップできる展望がない(65.8%)
③専門性・スキルが磨かれている実感がない(65.1%)
④長時間労働で仕事と家庭の両立が難しい(60.1%)
⑤収入が悪い(54.1%)

実際に、辞めた人への調査であるため、切迫感があります。上位3つが、自分のキャリアに関することであり、今後どのような仕事をしたいのかを思い悩んだ末の退職であるように思えます。

30代であるため、家庭をもって少し落ち着いたのでキャリアを再考した人や、転職をするならば最後のチャンスと思う人もいるのではないでしょうか。

2 退職理由を自分に当てはめてみる

私の周りでも、つい先日、自分より若い職員が民間企業へと転職するために、退職しました。民間企業の人と仕事をしている中で、そのビジネススキルに強い憧れを感じ、もっと成長したいと思ったとのことでした。

そのこと自体は、全く否定するものではなく、新しいチャレンジを決意されて凄いな、と感じたほどでしたが、自分ごととして考えると、あまり実感がわきませんでした。

公務員である自分は成長できていないのだろうかと問われれば、それは否定します。間違いなく、1年前の自分よりは、成長ができています。

私は、会社や自治体などの組織は、自分を成長させてくれることを目的にしているものだとは思いません。成長は自分でするものであると思っています。

会社や自治体は、その組織自体の成長を目的としています。会社ならば、利益を上げて大きくなること、自治体ならば、そこに暮らす住民が豊かになることです。

自らが組織に貢献し、それまでの取組を通して、自分が成長できると信じています。仕事上での権限が増えた、任されることが多くなった、単純に捌くスピードが上がったなど、成長できたという実感も日々とはいかないまでも、時々に得られる感覚はあります。

そんな実感なので、私は辞めたいと思わないのでしょう。

ただし、成長が公務員だと遅いのではないかという焦りは、分かります。成果が見えにくい業種であるため、自分が成長できているのかどうかを実感しにくいということはあります。

さらに、周りの環境もあります。安定していることが、第一主義としている職員もいることから、そもそも成長しようと思わない方もいます。

もちろん、仕事への向き合い方は人それぞれですので、最低限の仕事をして給料をもらうという考えもありです。ただ、退職を考えるほど、成長をしたい人間にとっては、温い環境と思われるかもしれません。

マラソンの先頭集団に食いついていった方が、良いタイムが出るように、厳しい環境に身を置いた方が、成長できるスピードをどんどん上回らせることができるのは確かです。

ただし、今の職場でも叶えることはできます。成長を求めない職員がいるということは、その分を自分がいただいて、伸びるチャンスです。

課題解決のためのワーキンググループや公募募集は自治体内でも募集がありますし、そこまでしなくとも、突然降ってきた課題に手を挙げれば、その分、経験値は増えます。

「そういったことではなく、どこの職場に行っても通じる能力が伸ばしたい。」のであれば、自所属でなくても、自分でコミュニティを探したり、終業後に自己研鑽することもできます。

今の職場を辞めてでなければ成長できないこととは何か、そして成長した先にどうしたいのか、その疑問が晴れない限り、私は、今の自治体を辞めることはないでしょう。

3 キャリアアップって何だろう

2つ目の辞める理由は、「キャリアアップできる展望がない」だそうです。そもそも、キャリアアップとは何でしょうか。転職・求人サイトのdodaでは、以下の通り説明されています。

キャリアアップとは、「仕事の能力や専門性を磨いて、社会的に市場価値の高い経験を重ねること」です。つまり、なりたい自分になって自己実現するだけではなく、それによって組織や社会に貢献することがキャリアアップなのです。

①仕事の能力や専門性を磨いて
→②社会的に市場価値の高い仕事を任されて経験を積んで
→③なりたい自分になるとともに組織や社会に貢献する

「なりたい自分」になるということと、組織に貢献することがキャリアアップなのだとすれば、現状に不満がない私は、このままでもキャリアアップは果たせるように思います。

なりたい自分は、社会人になった時から変わらず、様々な経験して、多様な仕事に対応できる人材になることです。公務員は、福祉、産業、土木など様々な種類の業務を経験できることから、この目的を果たすのは、退職はしない方がよさそうです。

社会に貢献するということも、公益性の高い仕事をいている今の状況を続けていれば、達成できるでしょう。

ただし、市場価値を上げることは難しいかもしれません。公務員は市場にはおらず、求められる人材像も企業と公務員ではタイプが異なるように思います。企業に所属しても活躍できるような人材になるには、公務員のままでは難しいかもしれません。

なりたい自分=市場価値の高い人材であった場合は、公務員を辞めることも考えられます。

また、個人的には地方公務員から国家公務員になることがステップアップとは思いませんし、基礎自治体(市町村)から広域自治体(都道府県)に行くことも、地方の自治体から都市の自治体に行くことも同じです。

そのため、いまいるところで働くことが、キャリアアップの近道であり、キャリアアップできる展望がないから辞めるは、私には当てはまらなさそうです。

4 長時間労働で収入が悪いのか

長時間労働の時もありますが、そこまででもありません。新型コロナの対応によって、2020年は大きく残業時間が伸びましたが時が経つにつれて、定時で帰ることができる日数も増えてきています。

もともと、危機の時にこそ、公務員は働かなければならないと思っていましたし、今回のような未曽有の感染症、東日本大震災のような大規模災害など、10年に1度あるかないかの大事件の時は、しっかりと公務に尽くすべきであると感じます。

それでも、ここ数年、土日はとれていますし、家庭とのバランスもとれていると思います。決して暇ではないですが、死を感じるほど激務という訳でもありません。

ただし、業務がきついところはあります。何カ月も数十時間以上の残業が続く部署もあるようですし、昔は私も経験しました。私は、若く体力があった時だったことから、乗り切れたところはありますが、今、同じ状況になったらどうなるかは分かりません。

ただ、そんな時でも、辞職を考えることはないだろうなと思います。まずは、上司に訴えて、業務を減らしてもらう。それでもダメならば、健康組合の相談窓口に相談する。まだ状況が変わらないようなら、労働局に行く、段階を踏むだろうと思います。

辞めるのは、最後のカードです。切ってしまったら終わりです。切り札を使う前にやるべきことは沢山あります。

また、収入も申し分ないです。ファイナンシャルフィールドの「民間企業」と「公務員」の平均年収はどれくらい違う?にあるように、地方公務員の平均年収の概算値は約667万4100円です。多少、働く年齢層が高いとはいえ、30~40代で、平均の給与をもらっていれば、とりあえず生活に困ることはありません。

もらいすぎとも思いませんが、足りないという訳でもない。つまりは、そんなに給与の面でも不満はありません。副業ができないのは、辛いところですが、家計管理さえできていれば、困窮しないくらいの生活はできます。

そのため、長時間残業も現在は心配なく、収入面でも不満がありません。ここも、辞める理由にはならなさそうです。

5 まとめ

色々と辞める理由について考えてみましたが、積極的にも消極的にも、今の自分に当てはまる理由はなさそうです。現状に満足しているのは、温いかもしれませんが、幸せなことでもあります。

吾唯知足(われ、ただ足るを知る)
京都の龍安寺のつくばいに彫られている言葉です。上を見ればきりがないし、自分にとって十分だと思うことを知ろうと理解しています。

公務員を辞めて、新たなチャレンジをすれば、とんでもない成長が待っているかもしれません。ただ、それにはもちろんリスクが付きまといますし、自分が、そこまで何かをしたいという熱意を持っているわけでもありません。

公務員は成長ができないという言葉には同意しかねます。やりようはいくらでもあるし、今いる場所で十二分に伸びる余地はまだまだあると信じています。

そういう意味で、私にとっての辞め時は、今ではないようです。

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